COVID-19による 音楽関係職への影響調査 集計詳細第二弾

COVID-19による 音楽関係職への影響調査 集計詳細

本稿はこちらの「集計詳細」第二弾である。前回は三名の調査者による文章を掲載したが、今回は調査チームのうち残り四名の分析を載せる。掲載順不同。

担当範囲:回答641〜748

文責:音田真陽(大阪大学大学院文学研究科博士前期課程)

担当分で最も印象的であった言葉は「この状況では何もできない。いっそコロナに感染して死んだ方がマシかとも思う」(フリーランスのテレビプロデューサー・50代女性・関東)であった。あまりにも悲痛な声に、改めてこの事態の大きさを思い知らされた。

一日一日を生きるのが精いっぱいだという声が非常に多い。本調査の回答時点では、世帯ごとの条件付き給付が検討されていた段階であったが、一刻も早い現金給付を求める意見が多数見られた。「最低限、月20万円の補償金(無利子貸与ではない)をとりあえず3ヶ月必要。」(フリーランス、作曲家・50代女性・関東)や、「最低月30万ないと生活できない」(カメラマン・60代男性・関西)など、一度の10万円給付のみではなく、継続的な給付が必要とされている。また、「最低限毎月25万~30万の補償がないと生きていけない。厚生年金、国民年金、社会保険、国民健康保険の支払い免除など。」(音響エンジニア会社代表・40代男性)、「休業していても家賃、公共料金、税金、他の経費は発生する。最低限そこだけは何とかして欲しい。」(大道具会社経営・50代男性)など、生活費の補助や保険料の免除等を訴える声が多い。これは音楽業界に限った話ではないと思われるが、政府にはできる限りあまねく行き届く迅速な追加給付が求められている。

音楽業界ならではの問題としては、「フリーランスの助成金に関して、必要書類を減らして下さい。 音楽業界の発注に関して、契約書など殆ど有りません。」(フリーランス、舞台監督・50代男性)のように、そもそも助成金に申請できないケースが見受けられる。このような緊急事態にあってなお、生活維持のために複雑な書類が必要なのはあまりにも酷であるように思われる。また、「現在は自粛要請による公演中止が大きな損失だが、払い戻し作業による経費、職員の負担、今後チケット買い控えによる減収も見込まれる。」(会社所属、業種未記入・40代女性・関東)など、イベント中止自体の損失のみならず、それに付随する損害も大きいようだ。

現在望まれているサービスとしては、「自宅録音でのレコーディングをしているので、自分とクライアントを結ぶサイトがあるといい。」(フリーランス、ヴァイオリニスト・30代女性・関東)や、「今はライブ等の配信方法はたくさんありますが、投げ銭などのためのサービスがない(少ない?)です。オンライン投げ銭ライブが簡単にできるようになればミュージシャンは助かると思います。」(フリーランス、ミュージシャン・30代女性・関東)「オンラインライブで収益を得られるシステムを国が作ってほしい。」(ライブハウス経営・40代男性・関西)など、オンライン上で収益を上げる方法を欲する意見が多数聞かれた。

それに対して、「私たちの仕事場になるコンサート・イベント関係を潰さない為に、支援寄付できる制度があったらいいなと思います。」(フリーランス、PAエンジニア・30代女性・関東)や、「日本でも芸術にもっと寛大にチップ制を設けたらなと思います。」(フリーランス、業種未記入・30代男性・関東)「クラウドファンディング形式で、気軽に資金を調達出来るミュージシャン向けの配信サイト」(フリーランス、PAエンジニア・50代男性・関東)のように、芸術に対しての支援を行おうという意見も見られた。

支援の仕組みは現在広がりつつある。その一例として、「新型コロナウイルス感染症被害対策:舞台芸術を未来に繋ぐ基金」https://motion-gallery.net/projects/butainomiraiが立ち上げられ、5月6日時点で2000万円を超える額が集まっているが、このような広範な支援が今後も広がり続けることを望むばかりである。

老舗店や有名店の廃業や閉店がニュースで取り沙汰されているが、そのような企業、店舗でさえ廃業に追いやられるような状況である。ましてや、音楽イベントが軒並み中止になっている音楽業界で廃業が出ないことはあり得ない。「人間にとって必要不可欠な文化は一朝一夕では生まれません。一度その土壌がなくなってしまえば簡単にはよみがえりません。大切にしてほしい。」(フリーランス、ミュージシャン・30代女性・関東)との意見もあったが、この先行きが不透明な中では文化の衰退は免れない。コロナ騒動が収束したからといって音楽産業が完全に元に戻ることは難しいかもしれないが、文化を失うことで人々の生活にどれほどの影響が出るだろうか。文化を救うのか廃らせるのか、その分かれ目は「今」にある。

 

担当範囲:回答1~128
文責:宮坂遼太郎(東京芸術大学国際芸術創造研究科修士課程)

本稿では、担当範囲の集計結果から見て取れた傾向を数点に分けてピックアップしながら考察を行う。今回見出した主な観点は、「産業内ネットワークへのダメージ」「影響の長期化」「被害深刻度合いの差」の3つである。これらは相互に関連しており、今後問題を解決する手立てを探る上ではいずれも重要になってくる。
まず「産業ネットワークへのダメージ」について。これは「自分自身が困るほど影響に打撃を受けている、というわけではないが、自分の周りの、特に演奏などを主な活動としている人が影響を受けていることを受けた影響がじわじわときている【作曲、音響業務/東京都の20代男性】」や、「自分の収入については最悪なんとか凌ぐとして、この先仕事を再開したときにそれぞれの現場の人が仕事を失っている、もしくは仕事ができる現場そのものが無くなっている状況が1番辛いし困るので、そういった会場や施設や裏方で働いてらっしゃる方々への補償を最優先にすべきだと考えます【業種未記入でフリーランス/関西の30代男性】」という声がわかりやすく代弁している。つまり、COVID-19による一連の事象は、様々な業種に就く人々が一つのプロジェクト、イベントに関わることで成り立っている音楽産業の特徴__規模の大小を問わず、業種を跨いだネットワークによって産業全体が動いているというその「業態そのもの」を直撃している。

あるライブ会場でのライブが中止になることは、その会場だけに被害を与えるわけではない。言うまでもなく、まずそこでライブを行うはずだったミュージシャンやライブイベントに携わるはずだった多くのスタッフにも影響が出る。更に、そのライブによってプロモーションされるはずだった音源に関わる人々や会社にもダメージは及ぶ。出すはずだった新作を、出すことができなくなる。

「リリースが減り、来年以降の印税が減少した。おそらく今年の半額以下の売り上げになると思われます【事務所所属の作曲家/東京都の20代男性】」「制作した音源の販売の見通しが立たず【兼業ミュージシャン/東京都の30代男性】」「レコード会社自体は給料制なのでさほど困りはしないが、担当アーティストやライブ会場が生活・継続が困難になっているので彼らに補償をお願いしたいです。でないと後々こちらにも影響は出てくるし、音楽業界全体が回らなくなる【レコード会社所属の会社員/東京都の20代女性】」などは、こうした波及効果による影響を明らかにしている。

勿論音楽業界に限らずどの業界にもネットワークは存在しており、ある一部がダメージを受けた場合付随して他の部分にも影響が出るのはどこも同じである。しかし音楽産業内には上で挙げたような特異なネットワークのあり方が存在するということは、被害の実態を掴む上で強調した方がよいだろう。そして、上に引用した「この先仕事を再開したときにそれぞれの現場の人が仕事を失っている、もしくは仕事ができる現場そのものが無くなっている状況が1番辛いし困る」との言葉の通り、今回の件で音楽産業全体が焦土化してしまい、収束後にいざ復帰しようとしても場所がない/スタッフがいない/出演者がいない、という状況になって産業全体が大きく萎んでしまうことも今後の状況によってはあり得る。こうしたことから、ネットワーク「全体」への補助が行き渡ることが重要だということが改めて明らかになる。細部は全体に、全体は細部に繋がっている。

続いて「影響の長期化」である。調査を行った4/9~4/16の時点で、事態は既に長期化の様相を呈している。【自主レーベル所属のバンドで活動するミュージシャン/東京都の20代男性】は「4、5月のライブ収益を見越しレコーディングやMV撮影、CDのプレスを行ったため、赤字が回収できず生活費を削る必要が出てきている。また、既に中止が確定した大規模なフェス参加での話題性を見越し夏以降押さえてあるライブハウスがあるため、仮に早期再開できた場合でも今後の収益に不安が残っている」と語る。多くの事業者は当然ながらこうした「見越し」によって遠くのスケジュールを決定し、長期的な目で仕事を進めている。しかしこうしたプランは、既に連鎖的に崩れてしまっている。また単発の仕事であっても「6月以降もキャンセルがあり、秋まではほぼ無くなりそう【音響会社所属/東京都の30代女性】」「8月以降の仕事のキャンセルも決まってきていて、キャンセル料も当然の様に支払われない状態【フリーランスの演奏家/40代女性】」など、既に夏以降の予定もキャンセルになってきている。イベントを行う側からすれば「いつの公演から実施できるのか、見通しをたてられないまま、秋以降の公演の広報を始めなければならないため、先行き不安【会場所属/関東の40代女性】」「6月以降のまだ発表していないイベントに関しても、チケットを売り出すタイミングが見えないなど、開催の中止が検討されている【会社所属制作兼業ミュージシャン/沖縄県の30代男性】」など、いつからイベントを再開できるか見通しが立たないという不安が業界全体を包んでいる。

前述の音楽産業内ネットワークには、いうまでもなくイベントを行う場所や制作業務に就く人々も密接に関わっているが、現時点で既に「業務不可」の連鎖反応が大量発生しており、音楽産業自体が長期的な機能不全に陥っている。故に、助成金などの施策は「今」を救うだけではなく、「これから」も窮地に立たされ続けることがすでに判明してしまっている産業全体の有り様に対して、効果的に作用する必要がある。

最後に「被害深刻度合いの差」の観点から。これは「今現在」どんな人が特に大変なのか、逆にそうでない人はどんな人なのかについて述べるものである。担当範囲内で、「今回の影響の深刻度」を問うQ6.に「廃業レベルで困っている」と答えた人は128人中20名で、うち80%にあたる16名が30代以上、80%超の17名がフリーランスという結果であった。現時点では、一旦産業内の影響度に個人差がある。

会社に所属している3人は「今のところは払われてるだけで今後どうなるか分からない【映像音響機器オペレート会社所属/20代男性】」など、いずれも所属会社が危機に瀕している例である。傾向としては、月々かかる固定費などがより多いと予想される[1]30代以上がより早い段階で被害を受けており、また会社などの後ろ盾がないフリーランスへの損害はやはり目立っている。逆に「困るほどではない」もしくは「影響はないor収入増など」と答えた人は128人中37名で、これも見逃せないデータではある。しかし内情を見てみると、兼業のため影響が出ていないという回答が全体の多くを占め、専業の場合は「メディアへのレーベル等の出稿などから原稿料が出ているとすれば、影響が出るのはまだ先かと思う【会社所属でマネージメント担当。副業でディレクター/ライター/30代男性】」「困るほどではない、にしたけれど、半年、一年先を考えると、この世界では食べて行けなくなる可能性は十分に感じる【文筆家、プロデューサー、ミュージシャン/関東の60代男性】」など、まだ影響が出ていないだけで今後を案じる声もあった。現在影響が出ていない業種へも「産業ネットワーク」を伝って影響が回ってくる可能性は、やはり非常に高いと言わざるを得ない。音楽産業に関して言えば、現在はまだ大丈夫なところもある。しかし、その状況が長く続かない可能性は明らかに高い、というわけだ。

また「兼業」に関して付け加えると、「今後いつ仕事が再開するか分からず、バイトもシフトに入れなくなっていて貯金も底をついている。仕事が再開しても暫く安定するまで時間がかかるだろうなぁと思う【ミュージシャン/関東の20代女性】」など、兼業先の仕事も奪われている場合すら多分にある。業種を選ばずに探せば急場を凌ぐ別のアルバイト先があるだろう、という指摘もありそうだが、例えば「貯金がなくなり次第、住宅ローンが破綻して、同時に生活費がなくなり、住む所、食べるところが無くなる!フルタイムのミュージシャンを40年間やってきているので、このままだと、死ぬしか無いレベル」「実際には、普段からそこそこのギャラを稼いでいるので、ローン30万円、スタジオ代10万円、毎月出て行く。その上に生活費。生活費を切り詰めても、40万円は必要【フリーランスミュージシャン/60代男性】」という場合などはそうした策も難しい。
さて、こうした中で今後ひたすら重要になるのは「施策と実情のすり合わせ」であると言えるだろう。勿論全ての人を「完璧に」救う補償は難しいし、多くの回答者が対象になるであろう「持続化給付金」をはじめ整備は進んでいる。しかし、上述の通り経済被害の長期化が間違いない中で、5月初旬現在に出ているだけの助成では明らかに不足してしまうことは容易に想像できる。また予定されてたイベントが全てなくなり「中止による負債の発生」が起こった【イベント主催、任意団体/北海道】の例では、持続化給付金における小規模事業者への満額給付である200万円では全く追いつかない可能性も大きい。しかしイベント等への特別補償に関しては一切新しいニュースが出ていないため(5月1日時点)、廃業だけではなく大規模な負債を抱えて窮地に陥っている事業者は少なくないことも予想される。以降、この点に関しては別途詳細調査を継続する必要がある。

[1]総務省の統計調査「家計調査 / 家計収支編 単身世帯 詳細結果表 (2019年度)」https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200561&tstat=000000330001&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000000330001&tclass2=000000330022&tclass3=000000330023&stat_infid=000031909813&result_back=1(最終閲覧日:2020年5月1日)を参考にした。

 

担当範囲:257-384

文責:匿名希望

今回私が『COVID-19による音楽関係職への影響調査』を分析する上で感じたのは、COVID-19の流行に伴う自粛要請によって生じる経済的な困窮は人の生死に関わる問題であるということだ。アンケート調査の自由解答欄には、「仕事を続けていくというよりも、生活する事が困難(50代男性音楽講師/ミュージシャン)」「このまま、この状態が続けば命を絶つしかないと思っている(30代女性フリーランス(業種未記入))」など切実な叫び声が寄せられていた。

アンケート調査によってまず浮かび上がってくるのは、現在の音楽業界全体における収入の激減だ。私が分析を担当した127件のうち、80%を超える106人が3〜5月の3ヶ月分の収入が5割以上減っている。特に深刻なのはフリーランスの音楽関係者であり、私の担当範囲では68人のフリーランスの方のうち80%を超える56人が7割以上の減収に直面していた。さらに、そのうちの41人は9割〜10割の減収という状況にある。「ランニングコストの支払いが困難、もってあと1ヶ月(30代男性フリーランス(業種未記入))」「昨年比で3〜6月が99%減収のため、国から補償が無いと生命保険を切り崩すしかない(30代男性作曲家)」など、事態は一刻を争うことが伺える。一方、会社に所属する音楽関係者の多くは直ちに生活に関わる収入への影響はないものの、先行きの見えない不安を語る。「イベント、発表会等が全て中止になり外現場0、基本給は保証されたけどいつまで続くかと思うと不安です(50代女性照明関係会社職員)」や「現状は給料が出ていますが、今後の運営が危ぶまれています。5月末日で解散というか、収入が0になる可能性が出てきています(30代男性多目的ホール・ライブハウス勤務)」など、安心できる状況からは程遠い。

上記のような収入の変化により、アンケートの自由解答欄では家賃・光熱費・年金・国民皆保険などの固定費の支払いさえも厳しいという声が散見された。「固定費などの支払いができない(50代男性のバーオーナー/DJ)」「家賃の支払いが最大の問題。引越しにも都 内だと50〜80万円 は必要なので不可能(30代男性作曲家)」など、ランニングコストを捻出することさえも難しい現状がある。現在、厚生労働省は新型コロナウイルス感染症の影響により生活が立ち行かなくなってしまった人に向けて「生活福祉資金貸付制度」を設けている。しかし、新型コロナウイルス感染症収束の兆しが全く見えない今、音楽業界はいつまで自粛要請が続くのかという見通しを立てることが困難だ。そのため、アンケートでも「補 助ではなく支給でないと結局借 金返済で一 時的な 救済で後でキツ くなる(50代男性バーオーナー/DJ)」や「出 口(収 束の目 処など)も不透明な中なので、貸付 (=借金)で当面凌ぐ という 選択 も辛い(40代男性音楽制作)」など、先行きが不透明な中借金をすることを不安視する声が多く見られた。

貸し付けではない支援策としては、1人10万円を給付するための政府の補正予算が4月30日に成立した。また、新型コロナウイルス感染症の影響で厳しい状況にある中小企業および個人事業主に対しては「持続化給付金」という支援策が設けられている。ひと月の売上が前年同月比で50%以上減少している事業者が対象であり、中小企業は最大200万円、個人事業主は最大100万円の給付を受け取ることができる。しかし、アンケートを分析していて痛感するのは「100万円では足りない人も多いのではないか」ということだ。実際、アンケートに具体的に金額を記入していただいた66人のうち、3分の1を超える24人が4月上旬の時点で100万円以上の損失を被っている。要因としては、全国ツアーなどを含む大規模なイベントのキャンセルが相次いだことが挙げられるだろう。5月6日以降も緊急事態宣言が1カ月程度延長することが決まった今、音楽関係職に就く人々の経済的な困窮はさらに加速することが予想される。

最後に、アンケートによると、音楽関係者が今欲しいサービスとしては「視聴者が手軽に課金することのできる配信システム」という意見が多数寄せられていた。具体的には、「観る人が自由に課金できて、演者にす ぐ振込みされる 利用 しやすい配信サ ービス(40代女性ミュージシャン)」が望まれている。現在、youtubeには配信者に最大5万円の投げ銭ができる「スーパーチャット」という仕組みがある。しかし、スーパーチャットを使用するにはチャンネル登録者数が1000人を超えている必要があり、「日本の配信 シス テム は知名度 がないと厳しいので、一からすぐに課金してもらえるアプリ等があると助かります(40代女性フリーランス(業種未記入))」という声が上がっているのだ。

今回『COVID-19による音楽関係職への影響調査』の分析を通して、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う自粛要請は音楽関係職に対し経済的な打撃を与えていることが浮き彫りになった。特にフリーランスの音楽関係者の80%以上が7割以上の減収に直面しており、生活費はもちろん固定費の支払いさえも難しい状況にある。新型コロナウイルス感染症収束のめどが全く立たない中借金をすることの不安が多く寄せられる一方で、「持続化給付金」の給付金額では足りない人も多そうだ。最後に、アンケートによると、音楽関係者が今後欲しいサービスとして「知名度がなくとも視聴者が手軽に配信者に課金することのできるオンラインシステム」の設立が望まれていることがわかった。5月6日以降も緊急事態宣言が引き延ばされることが決まった今、経済的に困窮する音楽関係者が増えることは想像に難くない。視聴者が手軽にお金を払うことのできる配信サービスの設立と並行して、公的支援もさらなる充実が必要だろう。

参考
・経済産業省「持続化給付金」https://www.meti.go.jp/covid-19/jizokuka-kyufukin.html
・厚生労働省「生活福祉資金貸付制度」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatsu-fukus
・首相官邸「くらしごとの支援策」https://www.kantei.go.jp/jp/pages/coronavirus_shien_kojin.html#ko2

 

●担当範囲:385〜512
文責:堀江幹(東京藝術大学音楽学部)

本稿ではまず、筆者が担当した範囲における回答の傾向を大まかに分析する。そして後半では、量的調査のみでは得られない視点や声を拾い上げるため、アンケートの自由回答部分で得られた様々な意見を、現状の諸問題と照らし合わせながら考察する。

■3〜5月分の仕事量・収入の変化と、それによる深刻度

仕事量については、ほぼ全員が「7〜9割減少」もしくは「全てなくなった」と回答した。それに伴い、収入についても「7割減少」「8〜9割減少」「10割減少」のいずれかに回答した人が過半数を占めている。傾向として、会社所属の場合はフリーランスと比較し(休業補償等により)収入の減少が緩やかであったが、それでも、
「しばらくは給与の支給があるが、そもそも会社の売り上げがほぼゼロなので、数カ月先はどうなるか分からない」(50代男性・舞台照明)
といったように、自粛が長期化した場合は会社などへの所属如何に関わらず大きな影響が出てしまうことが避けられないだろう。

そしてこうした収入の減少の裏で、また別種の仕事が存在していることも忘れてはならない。
「2月下旬からコンサートが中止になり、6月も中止が出てきている。その代わり中止対応などは忙しくなり、利益にならない仕事ばかりがふえている」(30代男性・イベンター)といった、イベント等の中止に伴う事務作業の負担を訴える声も見られた。こうした問題は、程度の差こそあれ、業種・業態問わず音楽業界全体に関係するものだろう。
■望まれている補償や助成、サービスについて

特に多く寄せられたのは、
「少なくても良いからとにかく助成金を早く出して欲しい」(30代男性・業種未記入、フリーランス)といった、生活の維持のために、給付・補償制度の迅速性を求める声だ。
ただ、本調査の実施段階ではまだ「特別定額給付金」による1人当たり10万円の給付が決定しておらず、中小企業・個人事業主を対象とする「持続化給付金」の支給も開始されていなかったため、その点は留意しておく必要がある。しかしその「持続化給付金」も、現在申請から給付までの期間が2週間程度とされており[1]、補償を求める人々の不安が解消されたとは言い難い。そもそも音楽業界は、2月26日に発表されたイベント等の自粛要請により、その影響を真っ先に受けている。長期化する自粛により事業の継続が厳しくなっている人々のために、一日でも早い支給が求められる。

もう一つ多く見られたのは、家賃や光熱費等の固定費に対する補償を求める声である。「家賃援助、水道光熱費援助、減税など現金でなくてもいいので何とかして欲しい」(40代女性・シンガー/歌唱指導)などの意見から、固定費の問題が非常に切迫したものであることが読み取れる。この点に関しても、現在政府は第2次補正予算案に家賃補助を含む方向で検討を進めているが、対象となるのは前もって融資制度を活用した場合のみ、という報道もされている[2]。どのような形であれ、スピード感を持った対応が行われることを期待したい。
■ライブ配信が抱える課題

ここからは、アンケートの自由回答部分で得られた声の中から、筆者が印象的だと感じた内容について個別に検討していく。

まず取り上げたいのは、有料の配信や無観客ライブに関する声である。
「有料配信で、視聴者が探しやすい様にジャンル分けして、支払い方法が簡単な総合サイトを構築して欲しい」(50代女性・事務所代表/ライブハウス経営/ミュージシャン)といったように、収益化が可能な新しいプラットフォームを求める声が多く挙がっている。ライブ等による収益が望めない中で、こうした事業はアーティストやライブハウスにとって非常に重要な収入源となることは確かであり、既に各地で様々な試みも行われている。

しかし本稿では、個別の試みやその課題について取り上げることはせず、むしろそうした配信事業が有効な手段となり得ないケースに注目したい。

この点について非常に印象深いのが、以下の二つの意見である。
webなど自宅からの配信もドラマーは機材から何から何まで用意するには初期費用がかかりすぎます。動く事でマイナスにしかなりません」(40代男性・ドラマー)
「アーティストは配信や、音源リリースなど別のビジネスの方法があるが、コンサートを仕事にしてる裏方は、コンサートが無ければ仕事にならない」(30代男性・前述のイベンター)

そもそも配信による収益化は、それを行うことを可能にする環境と、お金を払っても見たい、と思わせるだけの知名度を前提としている。これはクラウドファンディング等にも言えることだろうが、こうした手段は、人気や業種によって格差が生まれることを否定しきれない。もちろん、配信サービスの普及が今後も重要となることは明らかである。しかし同時に、それはあくまで自己責任論の延長に過ぎず、そこから抜け落ちてしまう=普段の業態ではやっていけても配信ライブという土俵では上手く仕事ができない人々も多く存在する、という事実を忘れてはいけないだろう。

■アフターコロナの音楽業界

最後に注目したいのは、コロナウイルス収束後の音楽業界を憂慮する声だ。
「もし世の中が収束へ向かっても、今までのようにコンサートを行える可能性が極めて低いと考えています。これまでのキャパシティのまま、会場が使えるとは考えにくいので、年単位で収入減が続いていくと、事業を継続することが難しくなる会社が沢山出ると思います」(30代女性・音響)といったように、クラスター発生リスクが高いいわゆる「3密」空間を活動の場とする音楽関係者にとって、かつての日常を取り戻すことは決して容易ではないと思われる。

そしてこうした自粛の長期化は、「ミドルレンジ以下のミュージシャン、ライブスペースはどうにもならないところまで追い込まれることは確実なので、今までと違う在り方、価値創造を考えその準備をする」(50代男性・音響)という意見に見られるように、中小規模のライブハウスや音楽関係者にとって特に深刻な問題となる。

前述したように、ライブ配信やクラウドファンディングによる資金繰りは、知名度や業種が影響することから、全ての人にとってのセーフティネットとはなり得ない。しかし、商業的な成功を目的としない、メインストリームに乗らないような活動も、音楽業界の多様性を支える上での重要な文化の一つである。そうしたオルタナティブな場を無くしてしまわないためにも、業種・業態問わず広範囲をカバーする継続的な助成制度や新しいプラットフォームについて、幅広く考えていく必要があるだろう。

[1]東京新聞「<新型コロナ>持続化給付金 支給開始 中小支援 初日まず280億円分」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202005/CK2020050802000247.html

[2]朝日新聞「家賃軽減に学生支援 『速やかに対策講じる』首相が明言」
https://www.asahi.com/articles/ASN5475YJN54ULFA016.html?iref=pc_ss_date

 

 以上で、本調査をメインの材料とした文章の掲載は終了する。この調査は今後必要となる行動を探る叩き台として活用されることに重きを置いているため、今後幅広く活用されることになる。ご協力くださった皆さまに感謝いたします。