2020年5月15日
新型コロナウイルスと音楽産業JASPM緊急調査プロジェクト2020 定量調査チーム
(南田勝也・木島由晶・永井純一・平石貴士)
日本ポピュラー音楽学会は2020年4月21日から5月5日にかけてコロナ禍によるライブ音楽文化消費の変化を調査するために過去二年間にライブに行ったことがある人を対象にWeb調査を実施しました。事前のスクリーニング調査に回答した2,149名のうち、2019年にライブに行ったと回答した25.3%(543名)を対象に調査し、477名から有効回答を得ました。速報値を公開いたします。
(調査概要、調査方法についてはページの最後に付記しております)
1.コロナ禍に対するライブゴアーのリアクション
コロナ禍が過ぎたらライブにいく、8割を超える
コロナ禍が過ぎた後、音楽ライブに行くと回答した人は84.3%であり、そのうち「今まで以上に精力的に音楽ライブに行く」と回答した人は31.7%であった。これまで充実したライブ生活を送っていたファンにとっては、元の状態に戻ることこそが重要であり、それゆえに半数以上の回答者が「今までと同様のペースで音楽ライブに行く」と答えているのではないか。
文化・芸術を支援すべきだ、8割以上
自分の好きなアーティストが、コロナ禍の影響を受けないとした人は31.7%であり、7割近い回答者は自分の好きなアーティストが何らかのダメージを受けると考えている。そうした状況を反映して、文化・芸術への支援については、85.1%と多くの人が「もっと支援すべきだ」と回答した。
コロナ禍から間もない状況ではまずモノで支援
新型コロナ禍で音楽業界が苦境にあることは早くから知られていたが、その状況に対して「とくに何もしていない」が43.6%で一番多い結果となった。一方、なんらかの支援の方法としては、「無観客ライブを視聴する」が最も多く23.7%、次いで「グッズを買った」が19.3%、「パッケージ品を買った」が17.6%と続いた。クラウドファンディングや寄付といった行為は12%程度で、現時点ではあまり多いとは言えない。
6割弱の人はライブに行くつもりだった
コロナ禍はライブのほとんどを中止・延期にさせた。回答者の6割弱は2020年3~4月の2ヶ月間にライブに行く予定にしていた(58.7%)が、そのほとんどが楽しみを奪われたのである。
この時期のことは盛んに報道されたので記憶が薄れることはないが、ライブ文化にとってまったくの空白が生まれた異常事態として、後々にまで記録されるだろう。一方、行く予定のライブが中止・延期になった人たちの約4人に1人が「払い戻しをしない」選択をしたこと(23.8%)もまた、記銘されるべきである。
アーティスト情報の受け取りとラジオの聴取が大きく増加
コロナ禍の影響によってライブの開催と参加が難しくなるなか、回答者の31.7%が「好きなアーティストからの情報発信を受け取る」、25.2%が「ラジオを聴く」ことが増えたと回答し、これは減ったという回答(6.1%、6.9%)を大きく上回った。この事から、アーティストとファンの関係性は、ラジオや動画サイト、SNSといった代替的な音楽コミュニケーション手段によって維持される可能性があること、ライブに行けない人たちの多くが、ラジオなどのメディアを活用して音楽的欲求を満たしている可能性があることが示唆された。
2.コロナ禍以前、平時の状況でのライブゴアーの音楽生活
年に数回ライブに行く人が7割以上
過去2年間にライブに行ったことのある人を対象にしているので 一般論とは言えないが、ふだんライブに行く人はどのくらいの頻度で通っているのか。この調査では2019年の1年間で、「10回以上」と答えた人が15.3%、「5回以上10回未満」と答えた人が17.0%であり、およそ3割の人が2カ月に一度はライブに行っている計算になった。以上が熱心なライブゴアーだとすれば、ほどほどのライブファンは年に数回(2回~4回)行く程度の参加率で、そちらは全体の約4割(39.2%)に相当する。
平時において小規模なライブハウスは健闘していた
新型コロナ禍が訪れる前、つまり平時の状態だった2019年の1年間で、人はどのようなライブに出かけていたのか。一見してわかるとおり、割合の大きいものから順に、「スタジアム・アリーナ」が49.0%、「ホール」が44.0%、「ライブハウス」が36.9%と続いており、キャパシティに余裕のあるライブ空間ほど、実際に多くの人を集めていたことがわかる。とはいえ、そう考えると健闘しているのがライブハウスであり、音楽ファンにとって日常的な空間であったことがうかがえる。
ライブは他の手段では代替できない特別な場所
ライブゴアーにとってライブとはどのような場所なのかを問うた設問では、「好きなアーティストを間近で⾒られる場所」(75.7%)が「好きな⾳楽で時間の流れを楽しむ場所」(65.8%)を上回った。音楽で時間の流れを楽しむことは、自宅のオーディオセットを聴いたりライブDVDを観たりすることで代替できるが、「間近で見る」ことはライブ以外では考えにくい。ストレス発散(44.9%)や同志と盛り上がること(40.5%)も同様だ。ライブの意義や価値が浮き彫りになる結果となった。
クラシックやパンクはライブに行く音楽ジャンル
人はどんな音楽ジャンルのライブに行くのか。Jポップやロックは、そもそも聴いている人が多いために、最もライブに行くジャンルになってはいるが、しかし2つの図を見比べると、聴いてはいても、行かない人も多い。この点で、ライブに「強い」音楽ジャンルとは、聴く割合と行く割合との間に差がないものを指す。この意味で強いのはクラシックであり、あるいはパンク・メロコアやヴィジュアル系もライブに行く音楽ジャンルと言えそうだ。
音楽ライブは人間関係形成や社交の場としても機能
頻繁にライブに通う人たちにとってはそこで生まれる人間関係もまた重要になってくるだろう。過去二年間に回答者の50.3%が「顔見知り・常連がいるライブ」に参加し、34.1%が「店長やスタッフが知り合いのライブ施設」に参加したと回答し、音楽ライブが人間関係形成の場としても機能していることが明らかになった。社交場としての役割も果たしてきた音楽ライブ施設がコロナ禍によって失われないように維持することの重要性が、社会学的な観点からも示唆されたと言えよう。
調査概要
調査主体:新型コロナウイルスと音楽産業JASPM緊急調査プロジェクト2020 定量調査チーム(南田勝也・木島由晶・永井純一・平石貴士)
調査機関:Fastask社のネットリサーチを利用
調査日時:2020年4月21日~5月5日
調査対象(1):スクリーニング調査において、19,790名に配信し2,149名が回答した。音楽が趣味の952名(44.3%)のうち、過去2年間に1回以上音楽ライブに行った経験のある人は543名(25.3%)おり、以下の本調査を行った。
調査対象(2):本調査の対象者は、過去2年間に1回以上ライブに行った経験のある人543名。有効回答数は477名で回収率87.8%。年齢16歳~64歳の男女。
留意点
*本調査は、無作為抽出による調査ではなくセルフ型ネットリサーチである。回答者の属性は「過去2年間に1回以上音楽ライブに行った経験のある人」で、それらの人を「ライブゴアー」と名付けている。
*ここでいう「音楽ライブ」とは、「ライブ、コンサート、リサイタル、フェスティバル、クラブイベント、演奏会など、実演者と観客が⼀箇所に集い⾳楽が鳴り響く空間」を指し、「有線放送や録⾳⾳源を流す店舗、定時に流されるオルゴールコンサート、フィルムコンサートなどは含まない」ものと定義し、このことを回答者に周知している。
*文中では「ライブ」と省略している。