老舗ライブハウス高円寺「JIROKICHI」が向かう未来 〜文化の発信拠点として、ライブハウスのあり方を考える〜 前編

文責:小林篤茂
取材日:2020年4月23日(木)

高円寺の北口から徒歩2分に位置するライブハウス「JIROKICHI」。1975年の開業から、今日に至るまで、第一線で活躍する多くのミュージシャンが出演してきたお店であり、老舗ライブハウスとして名が知られている。
今回は、JIROKICHIの二代目オーナー・制作マネージャーである高向美帆さんにお話を伺った。

■:現在の運営状況いついてお聞かせください。
高向:4月4日の時点で、その月の2/3程度ライブが中止ということになったので、休業要請がなくても全部中止にするという判断をしました。
その時点でまだお話しできていなかった出演者の方にもこちらからご連絡して、4月末までの休業を4月4日時点で告知をしました。そのあとに、緊急事態宣言が発令されたので、5月6日までお休みします、という現状になっています。
ただ、5月7日から再開できるのかっていうと、3月の時点で出演者の方々も、その先のブッキングが決められないという状況で、5月も空いてたりしたんですね。さらにやっぱりまだまだ収束できないんだろうっていうことで、出演者の方からも中止にしたいっていうことで、5月も後半の1/3ぐらいしか今の所ブッキングが残っていないという状況です。

■:お店の決定として、もうこれ以上公演を行わないとしたのはいつくらいでしたか。
高向:4月2日に店長と話し合っていまして、もうこれは厳しいということで、4月にまだ開催予定だった12組の出演者には協議という形で連絡をしました。ジロキチ側から「お休みにします」「お願いします」ということではなくて、「休業を考えていますがいかがですか?」ということで。そしたらやっぱり出演者側もホッとしたようで「それがいいよ」ってほとんどの方がそう言ってくれて。4月4日に休業のお知らせっていうことで告知をしました。

■:段階を追った状況の変化について教えて下さい
高向:ジロキチは今年45周年ということで、2月1日から3月18日まで45日間連続で45周年のスペシャルイベントをやってたんですね。その中で2月29日、3月1日が山下達郎さんのライブだったんですけど、2月の半ばくらいに、まだイベントの自粛要請に関する政府からの発言がある前に、事務所の方から「延期の判断をする可能性もある」っていう連絡があったんですね。それまで私たちもそんなに身近に感じてないっていうのもおかしいんですけど、まさかっていう感じだったんですよ。でもその電話一本入ってきたときから本当に「これはどうなることやら……」っていうのが2月の中旬かな。
結構早い段階でもうソワソワしてました。ただイベントに関して世間はまだ自粛ムードの感じはなかったんですよ。ギリギリまで開催する方針だったんですけど、公演前々日の2月27日に初めて私たちも公演自粛という決定をしました。2月29日の山下達郎さんのライブからでした。

■:ほかのライブハウスでも、2月の段階では4月以降に公演を延期という対応が多かったですね。ただ3月に入ってきますと、先が見えないので中止せざるを得ない状況となってきた、という話を耳にしました。

高向:私たちはその時点(2月29日)では、まだ店側からやめましょうっていうお話しをするつもりはなかったんですね。出演を延期したい、中止したい、と言われたら承諾していました。その2月29日、3月1日の公演延期から、3月5日と3月12〜14日のライブもすぐに中止。3月15日のライブはアメリカから来るミュージシャンがいたんですね。その方も5日くらいまでは来る予定だったんですよ。飛行機が動いている状況だったので。ただ、さすがに3月7日あたりで出演キャンセルになりました。

■:その時期までは、まだ店側としては開催を基準に考えていましたか。
高向:そうでした、まだ。私たちが45周年ということで、スペシャルなブッキングを組んでいたこともあるとは思うのですが、出演者もすごく悩んでくれてたのは伝わってきました、中止にするにしても開催するにしても。
開催する場合は、対策について話し合って、もちろん換気をして、マスク着用の注意喚起や消毒液の設置していました。換気、消毒、咳エチケットのことについてなど、関して徹底的にやるようになったのは3月になってからですね。
でもその頃から、出演者も宣伝が出来なくなっちゃってたんですね。

■:ライブの延期や中止に伴う返金については、どのように対応しましたか。
高向:返金の対応についても段階がありました。当初は、開催するライブについては返金をしない、という対応だったんです。3月9日くらいからはお問い合わせがあったお客様に個別対応する形で返金することにしました。それから、3月12日~14日の公演については全て返金、そして3月15日にアメリカから来るミュージシャンがゲストに出演予定だったライブは、ゲスト無しでライブを開催ということで、内容が変更になったことをお伝えしたうえで、希望するお客様には返金対応しました。返金についてはいろんなパターンで対応していきました。

■:実際に売上はどの程度の減収になっていますか。
高向:2月について中止は1日だけだったので、影響はほぼありません。3月については前年比で15%減くらいです。ただ3月18日までがスペシャルブッキングということで、中止にならなかった日は大入りのライブが多かったので、売上は前年比と比べて見るとあまり減ってないですね。

■:4月に関しては100%ということですよね。
高向:営業収入はゼロです。ただ、4月から通販を始めました。私たち45周年のグッズを作ってまして、Tシャツやてぬぐい、あとスペシャルムックを作っていたんですけど、それを地方の方にもお届けするために、通販サイトを立ち上げようとずっと思ってたんですけどできていなかったので、3月10日あたりから立ち上げ準備を始めていました。開設できたのが、3月23日です。当初は、45周年のグッズを売るために開設したんですね。そしたら本当にありがたいことに応援っていう形で買ってくださる方がたくさんいまして、今はその売上に助けられている感じですね。ただ、それでも正直固定費をまかなえるほどではないです。在庫も限りがあるので。でも本当にありがたくて、注文が入るたびにPCの画面に向かって頭下げています。
今ですね、大阪のムジカジャポニカさんが主導されている、安斎肇さんがデザインしたTシャツを、賛同したライブハウス27店で、同時に販売するっていうことやっていて。それは4月15日に始まって、5月1日まで受注をして、その後生産してみなさんに配送するっていうことをしていて。それも立ち上げた通販のサイトで、おおくの応援、受注をいただいている状況です。

■:『Got Save Us ライブハウス』ですよね。これはそれぞれのライブハウスで購入したら、売上がそこに入るシステムなんですか。
高向:はい、そうです。デザインは共通なんでけど、一つだけ店のオリジナルカラーを作れるということで、お客さんは応援したいライブハウスで買ってくださるっていう。トートバッグとTシャツです。

また、山下達郎さんのご支援・御協力の元、「山下達郎 × JIROKICHI」コラボレーションTシャツのチャリティ販売『JIROKICHI AID』を、今週の日曜日 (4月26日) からしていただくことになりました。本当に、大変強力な応援をいただいています。

※『Got Save Us ライブハウス』『JIROKICHI AID』共に現在受付終了。

http://shop.fannect.jp/tatsuro/pc/

■:現状で行っている対策などはありますか。
高向:今やっていることなんですけど、私たちは現状に対してステートメントみたいなのを作っておいたほうがいいかなと思いまして、いまはその作業をしているところです。まだまとまってないんですけど「こういうことをしたい」って考えをまずは伝えようと思っていて。

■:なかなか現状でスタンスを表明するのも難しいですよね。
高向:そうなんですよ、わかってくれますか。スタンスというよりかは、私たちは今まで通りで良いとも、状態が戻るとも思っていなくて。ここ45年やってきて、素晴らしいライブをたくさん見せてもらって、いろんな景色が思い浮かぶんですけど、それをまた振り返るというよりも、これをきっかけに、新しいライブの仕方を提案というか、「こうでありたいね」って未来のコメントっていうか、なにか提案ができたらいいなって思ってるんですよね、希望っていうか。
「支援してください、お願いします」だけじゃなくて、支援した先に何があるのかを見せられればいいなって思うんですけど、着地点は私も見えてないんですよ。まだ誰も見えないと思うんですけど。

■:スタンスというか、声明や表明みたいな感じですかね。
高向:はい、私たちとしてはこうだって。ただそれは悩んでるんですよね、表現の仕方を。余裕だね、とも思われたくないし…。かなり逼迫してるんですよ、現実は。どこもそうだと思うんですけど。
公的融資の申し込みは当然していて。ただ混んでるからかお返事が全く来ないんですね。まあ2週間くらい経ったかな。今日は東京都の協力金の申請を出しました。そのあと来週は持続化給付金も当然申し込むんですけど、その先がやっぱり見えてないから、誰もが。わからない不安もありつつも、ただ未来を提示しないと、お金出してくれる人もつまんないんじゃないかなって思って。
もしかしたらクラウドファウンディングみたいなこともするかもしれないし、ただそこはまだはっきりしていないんですよね。
やっぱりライブハウスなんで、ライブに関する何かでお返ししたいから、今考えているのは、凄いスペシャルなブッキングをして、その前売り券を買ってもらうとか、何をお返ししようか悩んでいるところです。

■:いつエンタメとして自分が参加できるかっていう期限が見えないですもんね。
高向:うん、そうなんですよ。ただ本当にコンテンツ的にも色々考えていて。ゴエンセッションズって知ってましたっけ。

■:はい、最初にお会いしたときにお伺いしました。
高向;去年は1年間地味な動きしかできなかったんですけど、ディレクターのみんなは気にかけてくれてて、やっぱりゴエンセッションズやってくれてる仲間ってお金じゃないところっていうか、音楽が好きでなんとかみんなに届けたいねって想いを持った人たちで。それで今度一緒にやろうとしてるのは、ジロキチ発信で、ゴエンセッションズがサポートになるんですけど、ポッドキャストをやりたいなって話をしています。
日本ではあまり盛り上がってなさそうに見えるけど、実は一定のリスナーがいまして。なんでポッドキャストかっていうと、無理なく私たちの支持する音楽をジロキチから発信していこうと。ライブ配信もちろんやろうとしてるんですけど、その前にポッドキャストを始めようということで。
これは自分自身の話なんですけど、最近目が疲れちゃってて。なにかをやりながらでも音で聞きたいというのと、リスナー参加型なことがやりたいなと思っていて、ミュージシャンとお客さんと店と、それラジオにできそうだなってのがあるんですよ。それを5月半ばくらいから始めたいなと思って、今準備しています。だから、これはちょっと言い方が大げさだけど、ジロキチで育ってるものっていうか、ジロキチの文化っていうものを発信し続けていきたいと思っています。

〜後半へ続く〜

これまでの経緯

2月29日
初めてライブを延期とする
開催されるライブに関しては返金はしていなかった

3月9日
返金対応を希望者に対して行う

3月10日
通販サイトの立ち上げを開始

3月12日~14日
公演中止に伴い全返金対応

3月15日
ライブの内容が変更となったため、希望者には返金を行う

3月23日
通販サイト開設

3月26日
最後のライブ開催

4月4日
4月の2/3程度ライブが中止、休業要請がなくても5月6日まで休業とした。