ジャックライオン

ローカルに定着するライブハウスとCOVID-19
眞柴祥一(大阪・茨木JACK LION店長)インタビュー

文責:太田健二
取材日:2020年4月28日(火)

JACK LIONは、大阪府郊外茨木市の中心市街地から外れた「へんぴ」な場所に、2000年6月にオープン。1階は中高生から世界のミュージシャンまで出演する不思議なライブハウス、2階にはリハーサルスタジオ、楽器屋「びっくりギターズ」、JACK MUSIC SCHOOLがある。

楽器屋、スクール、スタジオ、ライブハウス、一貫した音楽活動が出来るところ

■なんで、こんなところに?と私も思ったのですが、まず、立地的なところを中心に、JACK LIONの特徴についてお聞かせください。

眞柴祥一(以下、眞柴):楽器屋の従業員として、31歳くらいまでは会社で勤めていたんですけども、そこから楽器屋として独立するということで、最初は茨木の本当に市街地に小さな楽器屋を出したところがスタートなんですよね。それが1995年なんですけれども、そこからいろんな方に出会う中で、今のこの場所が2000年からあるんですが。

眞柴:僕としても当時この場所に立ってみて、ほんとに何もない場所なんですけど、元々茨木に楽器屋を出すときも反対されたんですよ。というのは、茨木という街は全然音楽が盛んじゃなかったんですよね。楽器屋の業界でも茨木っていうのは、入るべき場所じゃないような流れがあって。その当時は高槻が非常に盛り上がってたんで、茨木は無理なんちがうって言われたんですけど、無理だと言われるとチャンスがあるような気がして、じゃあ茨木に決めようと逆にそういうふうに思ってスタートしたんですけど。

眞柴:やっぱり何も耕されてないところというのは、意外と耕してみるとすごい実りがあったりするもんですから、僕らの場合は高校生とかが集まるようなお店が好きなものですから、そういうところから火を点けて行くと結構盛り上がっていって、結果的には茨木って今一番盛り上がってる街になってるんですけど、この辺りでは。だから、結果は良かったんじゃないかと。

■地元のティーンエイジャーと特に密接につながったお店なんですね。

眞柴:郊外ですからね。もちろん楽器屋スタートっていうのが根本にあってですけど、音楽をスタートさせる場所っていう意味合いは濃いんですよ、やっぱり。自分がやる中でも、そのコンセプトというのは、ずっと持っているものですから、初めてギターを買う、練習してみる、そしてライブをするっていうところが、こういう郊外の役割だと思っていますから。スタートする人がいないと、やがて市内の方に出て行って盛り上げる人材がいなくなるわけですよね。だからまずわれわれ郊外の人間がそういう新しく音楽を始める子たちを発掘していくというか、創造していくっていうかね。それがすべてのスタートなので、その役割を担いたいというのが一つ、ずっとあります。

休業に至る流れ~学生中心の客層ゆえの早い対応

■大阪・京橋のライブハウスArcで新型コロナウィルスに感染が判明した人が参加していたと大阪府が発表したのが2月29日だったんですが、JACK LIONでは、すでに2月28日に、3月12日のライブ延期をお知らせしてるんですよね。それは、2月27日に政府が全国すべての小・中・高・特別支援学校に、3月2日から春休みまでの期間、臨時休校を要請したことをふまえてのようですが、かなり早かったんですね。

眞柴:そうですね。結局、先程言いましたように、地域の子たちが集まるようなイベントが多いんですよね。ですから、学校が休みになるということは、学生のイベントってちょっとまずいんじゃないかと言うところですよね。特に3月っていうのは、学校の卒業イベントとか、目白押しの月なんですよね。それは学校の名前がついてるので、特にその辺は非常に警戒しないとダメだし、おそらくそれは全部中止になるだろうと思われたので、同時に、同じ世代が出ているようなイベントなんかは止めないとまずいし、止める方向でおそらく流れていくだろうから、先にあたふたする前に決定して行かないとねっていうのはあったと思います。

■非常に先んじた行動を意識的にされていたような印象があるんですけども、やっぱり学生をメインな客層にしているからなんでしょうね。

眞柴:学生がメインということはどういうことかというと、先生も一緒に絡んでるし、父兄の方も絡んでるわけですよね。だから学生たちがOKでも周りがダメってこともあるので、そこまで考えて物事をやらないと非常にトラブルが出やすいということもあるので、その辺は常に別に今回に限ったことじゃなくて、意識する部分です。

■そうなんですか。逆に、学生の行き場所が無くなってしまったので、仕方ないからライブハウスは営業を続けようかという、そういう選択肢もありえるのかなと思っていたんですが。非常に何かこう、教育的な見方みたいなものも強くあるのでしょうか。

眞柴:もしかしたら、僕の年齢的なものもあるかもしれませんし、いろんなことを気にしました。例えば、ライブは非常にまずい、それはお客さんが来るからですよね。学生の場合は、卒業シーズンなんか100人くらいはすぐに集まっちゃうんで、お客さんのことも考えると、やっぱりちょっとまずいよねと。ただそのバンドやってる子たちそのものの動きが取れなくなってしまうのは非常にかわいそうだし、だからスタジオはその時点では閉めてないし、店に集まって来てたまることも全然拒否してないので、そういう部分では、引き続きコミュニケーションがとれるので、ライブのみを止めたという風にも言えますけどね。

■まだその時点では、学生中心のライブイベントを延期すると決めただけなんですね。

眞柴:はい、まずはね。

■3月2日に、ジャックライオンでは、3月15日までの公演でホールのキャパに対し、お客さん同士が一定の距離をとることが不可能な予約状況の公演に関しては中止とさせていただきますと発表。その後3月6日に、3月8日から15日までライブハウス完全休業と発表していますけれども、これはどういうきっかけがあったんでしょうか?

眞柴:まず、3月の頭の時点で決まってたブッキングの中で、3月6日の神保彰さんというのがありましたし、3月7日に「A(あ)」というバンドが。二つともプロミュージシャンのライブなんですよね。それに関しては、予約をちゃんと受けているので、人数や連絡先の把握が非常にちゃんとできてるわけですよ。だから管理もしやすかったので、やるやらないは予約人数を様子見ながらと言うことで、結果的にはやったんですけど。それ以外のはちょっと見えないところもあって、非常に不確定要素が多いので、もうこの際ギリギリになってNGを出すよりは、早め早めにやった方が迷惑もかけないだろうなと。お客さんの中にも、そろそろもう色んな部分で心配される声もあったので、ライブっていうのは基本的には不安な要素があると楽しめないと思うんですよね。だから、いくらバンドがやりたくても、お客さんが楽しめないライブっていうのは、やる意味があるんだろうかっていうふうにも思いますし、非常に息苦しい中でのライブ展開になってしまいそうで、それは避けたいという気持ちで決定していたと思います。

■ライブハウスに対するコロナ・バッシング的な影響も少なからずあったんですか。

眞柴:あります。思いっきりあります。

■そうでしょうね。3月上旬でライブハウスが早々対応してくるっていうのは、京橋のライブハウスを発端とした問題が非常に身近にあったのかなと思います。一方で、クラブは対応が遅かったというふうに思うんです。4月ぐらいにようやくお店として休業を宣言して、それまでは自主的にイベントの主催者が判断するみたいな流れがありましたよね。

眞柴:その辺は名前がこう出てきて、「ライブハウス」というね、固有名詞が出てきて、緊張感というのは、その時点ですごく高まりました。で、その後も業種によっての感じ方っていうのか、全然違いを感じましたよね。だからクラブなんかが遅かったのも、そういう意味での意識の違いみたいなのがあったのかなとは思いますし、商売ですから、行けるところまではやりたいというのも、もちろんあるでしょうし。

■ちなみにイベントを中止する時のキャンセル対応というのは、どのような対応だったんですか。

眞柴:これは二つあります。通常のブッキングに関しては、ほぼキャンセル料をいただかず全部流した、もしくは中止した延期した、どちらかです。だから何もいただいてません。通年で1ヶ月に1回とか定期であるようなイベントに関しては、そもそもちょっと割引をさせていただいたりするんで、申し訳ないけど半額だけ入れてもらえないかというようなご案内はしましたし、実際にいただきました。あとは大きな、年に何回とかでやってるような学校。高校は休みだったんですけど、大学は別に休校措置とか出てなかったんですよね。ですから大学のイベントに関しては、相談の上、結局半額だけ入れていただきました。それもずっと使っていただいてるあれなんで、今回こういうことになったけど、半額だけお願いできないだろうかとお話させていただいたら、快諾していただいたんで、それはいただきました。

■それは主催者との対応の二通りで、お客さんへの対応はどうですか。

眞柴:お客さんに関しては、通常のバンドのブッキングに関しては、今の子ってチケット売らないんですよね。前売りチケットって存在してるんですけど、そのチケットを売らなくて、ほとんどの場合はチケットの取り置きという形でやってる。だからその辺、連絡とか上手くいくということがわかっている部分がほとんどだったので、そのままライブを中止ということで。お金が発生しているのはもちろん返すんですが、ほぼそういうのがなかったので、問題なく中止という形がとれました。

休業後の対応~配信への複雑な思い

■その後3月下旬に、ライブハウス完全休業の中で、ツイッターでゲネプロやレコーディング配信、ライブ配信収録などに使っていただいて構いませんと呼びかけをしていて、3月30日にアシガルユースの配信ライブを初めて行っていますよね。休業の中でオルタナティブな対応というか、何とか続けていくような方法として、どんな考えがあったんですか。

眞柴:あれ(配信ライブ)の案内に関しては、うちのブッキング・マネージャーが行ったんですが、僕自身がスタッフに言ってる姿勢っていうか、説明が長くなるかもわかりませんけど、僕はそのアーティストやバンドマン、バンドとか、ミュージシャン、いろんな言い方がありますけど、その人たちは、例えばCDを出す、音楽配信する、テレビに出る、ラジオに出るとかね、いろんな形で自分たちの音楽を伝える方法をね、いくつか持っているわけですよね。で、そのうちの一つがライブハウスだと僕は思ってるんです。だから、ライブハウスは、その人達がライブという形で直接お客さんにその音楽を伝える場所、そういうメディアの一つだと僕は認識してるので、その生の現場を伝えるメディアが逆に自ら配信を積極的に行うと言うことに、僕はちょっと抵抗があるんです。それは役割じゃないだろうという頭の固いところがあって、ですから、その案内というのは、バンドがこの場所を使って配信をしたいんだと希望するんであれば、それは受けてもいいだろうということで、そのアシガルユースっていうバンドはそれがやりたいということだったので、じゃあその協力はさせてもらうということでやらせていただいて。基本的にそのアシガルユースが配信の、まあLANケーブルぐらいは提供しましたけど、機材は全部向こうの持ち込みなんですよね。だから、そういう形でこの場所を使ってもらえるなら、お貸ししますよっていうものでした。

■眞柴さん個人のTwitterで、4月1日「「2番じゃダメなんですか?」……もし、「配信じゃダメなんですか?」と、あちらから言われたとしたら……似てるかも。」という発言があるんですが、今のお話を聞いて、それにつながるんだなと思いました。現場として、リアルな音のやり取りというか、コミュニケーションの場としてライブハウスがあるのであって、あえてハコ側がライブ配信を積極的にするというスタンスではないという感じですかね。

眞柴:そうですね。だから、もちろんこの先はね、色んな意味で色んな価値観も変わってくるし、お客さんもそんな簡単にこの現場に戻って来れるような環境が整うかっていったら、そこは色々難しいところがあると思うので。だから今、配信っていうことも、考えてないこともないんですよ。ただ、その時には何か普通にライブを流すだけじゃなくて、何かもうちょっとプラスアルファのことをしないと、いわゆるライブハウスというものが配信をするっていうところの、その特別なものが何もない状態では、やってもどうなんだろう?というのはやっぱり変わってないですけど。だからそのためにいろんなアイデアやヒントみたいなものをいろんな人に今いただいたりしてるんです。

眞柴:配信に関しては、非常にまだ抵抗があるというか、まだ考えそのものがすべてきっちりまとまっているわけじゃないんですけど、僕の大好きな、素晴らしい音楽になればなるほど、何か違うメディアを通しちゃうと、それがそのまま伝わらないなっていうのは、この現場ですごく感じてるんですよね。例えばCDにも入りきらないし、映像をつけたDVDでも無理だし、それが生の配信にしたって、それほどの機材でできるわけでもないし、音質にしても到底及ばないものにはなるでしょうから、そんななかなか伝わらないなというのがあるのに、それをそのまま配信しちゃうことは……。

眞柴:ただ、常にお客さんとして来店されて現場を知ってる方は、実は自分の中でそれをまた現場の空気に変えて理解するっていうか、そういう音に変えて聴くことができるはずなんです。でも来られたことなくて、「ライブハウスどんなところだろう」という人からすると、「へぇこんなもんか」で終わっちゃいかねないなと思ってて。それも配信の難しさだなと思って。まあ今回、良くも悪くも「ライブハウス」という名詞が全国の人に行き渡ったわけですよね。「ライブハウスってどんなところだろう」って思う中での配信になるわけですから、決して良いイメージを持たずに見られる方もいらっしゃると思いますし、そういう方に上手く伝わるんだろうか。「そんなこと考えてたら何もできないんじゃない?」って言われるかもしれないけど、やっぱり来てる人は知っているわけですから、全然悪いイメージ持ってないと思うんですけど、来てない人が見る、見た時に、「あ、これは行ってみたい」と思う人と、そうじゃない人の割合って言ったら、もしかしたら、「あんまり大したことないなこれ」って思う人の方が多いんじゃないかなと思ってて。

眞柴:だったら違うものを混ぜて配信するようなことを考えたらどうだろうということで、先日、例えば生の演奏に加えて、同時にドローイング、絵を描いて、重ねて配信するだとか、そういうこともZoomミーティングで話してたんですけど。あとはもう一つ、配信って言っても技術的な問題はいろいろわからないことがいっぱいあるんですけど、今のって結構一方通行なんですよね、ライブを流そうと。できることと言ったら、チャットみたいなもので、何人か参加していて、色々とテキストが出てくるのはあるんですけど、本当にやりたいのは、見てる人の顔がZoomのようにね、ステージ側の反対側にスクリーンがあって、ミュージシャンが入ってきた人の顔を全部見れるとかね、そういうことができれば面白い。いわゆるネットでしか体験できない世界がそこに作れるのになぁと思って。そんなことできないのかなということをこの間、話し合いをしてたんですけど。

■先日もAbema TV「YOUR HOUSE by EDGE HOUSE/block.fm」でそういう取り組みがはじまりました。Zoomでお客さんもバーチャルなダンスフロアに参加できるような。

眞柴:そういうことができそうなので。この先もね、今、休業要請があって、普通に営業できない状況でやるだけじゃなくて、この後なんとなくのイメージですけど、そんなに簡単にすんなりお客さんが集まれる現場って作れないと思うんですよ。お客さんの方も警戒するでしょうし、何らかの基準が設けられる可能性もあるわけですよね。例えば、何㎡に対してお客さんは何人ぐらいで営業してもらえないだろうかと、ある種の基準が設けられるとすれば、ちっちゃいお店って人数入れられなくなりますよね。それ自体でも営業が非常に辛くなる。その時にあわせて、そういう配信が出来れば、配信でいくらかでも入ってくるようなシステムが作れれば、そこに現場におるお客さんとネットで参加してるお客さんが一緒になって楽しめたら、なんかこう、やる意味あるなぁと思えてて。そんなことをちょっとイメージしています。ただ、まあ僕に何の技術もあるわけじゃないって言ってるだけなんですけど。

支援プロジェクトへの参加をめぐる思い

■営業自粛のお知らせが4月11日に正式に発表。リハーサルスタジオも12日から営業自粛ということになるわけですけれども、そんな中で4月15日に「God save us ライブハウス」への参加が発表されます。また、昨日(27日)に「LIVE FORCE, LIVE HOUSE」というタワーレコードが主催するライブハウス支援プロジェクトが発表されて、JACK LIONの名前が入ってると確認したんですが……。

眞柴:そうなんですよ。イベンターさんから連絡いただくことなんてほとんどないんですけど。実はJACK LIONってほとんどイベンターさん入ってないんですよ、というか、ほぼゼロなんですよね。非常に珍しい形態のライブハウスの一つだと思うんですけど、「LIVE FORCE, LIVE HOUSE」は、たまたまイベンターさんからお電話がありまして、タワレコさんがこんなことをやられてるんで、企画一回読んでもらえませんかってことだったんで、読んで、お断りする理由も見つけられなかったし、じゃあ甘えさせていただこうかなと思って入ったんですけど、実際に何が行われるのかよく分からなかったりするんですけどね。

■こういった取り組みに対して、積極的に参加しようと思うに至ったいきさつは……。

眞柴:あんまり積極的になれないところもあったんです。こういうことがあると真っ先に浮かぶのは、クラウドファンディングですよね。で、クラウドファンディングに少し僕はやっぱりまだ抵抗が、少しどころじゃないな、抵抗があって。結局、リターンっていうの設定しないとダメじゃないですか。リターンで、多くのライブハウスが実際に挙げられているのがドリンクチケット、それから先のライブのフリーパス、それから1年間どこでもレンタルできる権利とかいうのがありますよね。これ、先の約束なんですよね。もちろん、続けるためにクラウドファンディングするわけですけど、今回のこの事態に関しては、いつまで続くかもわからないし、いつからできるかもわからない。だからもちろん希望を捨ててるわけじゃないけども、これもね、あまり言っちゃうとなんか非難を浴びそうなことだったんで言えなくてずっと。今喋っちゃっていいのかなと思ってるんですけど、だって2ヶ月後に、この店ないかもしれないじゃないですか。(リターンを)返せる100%の自信がない時に、そういうものを売ってしまっていいのかというのが自分の中で怖くてずっと残っててできなかったんですよね。

眞柴:で、たまたま今回の「God save us ライブハウス」のグッズ販売に関しては、その商品をお送りした際で、一応成り立つわけですよね。後に、もちろん応援していただいたというのは残るので、もちろん頑張らなきゃいけないんですけど。将来のドリンクチケットのように買っていただいて、それを果たすことができないということは起こりえない形なので、これはいいと。で、きっかけを作ってくださったムジカジャポニカっていうお店は、うちに出ていらっしゃる僕がすごく非常に信頼しているミュージシャンの方々もムジカにも結構出てらっしゃるんですよね。僕、ムジカには実は一回ぐらいしか行ったことないんですけど、お話は聞いてるし、あとミュージシャンが共通しているので、ムジカのことを僕もいっぱい聞いてるし、何らかの共通点のようなものを見出せるお店で、やられている方に関しても、お会いしたことがないわけでもないし、信頼できるなと思えたので、賛同させてというか、参加させていただいた。だから、知らない人から案内もらってもね、飛びつけないんですよね、僕は。

■そういう意味では、信頼がおける人から呼びかけがあったということが非常に大きい……。

眞柴:そうですね、呼びかけというか、ただ単にね、「どうですか」くらいでポストというか、つぶやいていらっしゃった感じなんですよね。FacebookなりTwitterなりで「よかったらどうですか」ぐらいな感じですけど、それをたまたま見て。だからこっちから「ちょっと参加したいんですけど」というような感じメッセージ送らせていただいて。

■クラウドファンディング・サイトに単独の店舗で出すっていうパターンもありますよね。京都のMETROのような。JACK LIONでは、そういったことは考えなかったんですか。

眞柴:さっきの理由がほとんどですね。あとは、JACK LIONでそういうことをやって、普段若い子達が多いんで、彼らに負担かけるんじゃないかという思いもあって。だから、クラウドファンディングしたところで、本当にみんなが応援してくれるんだろうかっていう、なんか変な自信の無さもあってね。じゃあ、あのTシャツはなんでできたんだという話にもなっちゃうんですけど、Tシャツは、やっぱりデザインが安齋肇さんっていうね、安心材料が一番自分の中で大きかった。なんか背中を押されたような気になったんで、それは大きかったなと思うんです。

■「God save us ライブハウス」はTwitterの反応を見る限りでは、たくさんの人が申し込まれた感じですが……。

眞柴:はい、そうですね。思ってた倍くらい来てくれてます。嬉しいのは、ここから出て行った子達、今活躍し出してるアーティストが何人かいて、その子達とか、またいつも来てくれてる往年のミュージシャンの方々がTwitterとかFacebookで投稿していただいて、そのファンの方がそれを信頼して来てくださってるんですよ。僕はまさかそういうふうにしていただけるとは想像もしていなかったので、すごく嬉しい誤算っていうか、まあもちろん責任もすごく背負っちゃうような気もしてるんですけど、ただ、そういう意味では、思ってもみない反応をいただけて、非常に嬉しい思いをしてるし、それでまず4月は乗り切ることができたので。もうね、4月どうなるかと。もちろん5月もね、多分5月も坊主だし、今の時点では何も決められないし、まずライブはほぼできないですし、スタジオも果たして、今のところ予約も取ってないんですよ。開けられるかどうかも分からないのに予約を取るというのはできないんで。だから、まあ何も見えていない状況なんですけど。

眞柴:たまたま、うちは6月が20周年の月なんですよ。だから6月はどうなるかわかんないけど、やる気でいます。とりあえず5月まではなんとか乗り切ろうと、6月やるぞっていうか、こう根拠のない自信みたいなもので動いちゃってるんですけど、もし6月もなんかショボショボになっちゃったら、まあ、国のお金をお借りするとか、民間の金融機関も金利の低いもしくは実質ゼロになるような段取りをしてくれてるみたいなので、おそらくこの連休明けは、そういう融資を含めたところ、助成金もね、申請があるんですけど、段取りをしておかないとねとは思っています。

学校や地域とのつながり

■楽器販売の方は、セールをかなり行っているようですが……。

眞柴:実は普通、1月って(楽器販売が)割と盛り上がるんですが、1月が全然盛り上がらなかったんで、2月からセールをカンフル剤的にやろうと思った時に、このコロナの匂いが出だしたんですよね。で、これはもしかしたらまずいかもっていう、なんとなくそう思ったんで、実は2月からのセールってほぼ利益のないようなセールをやってるんですよ。まあ、ありえないぐらいの値段なんですよね。でもね、とにかく今打てる手って、どんどんブッキングを入れるわけにもいかなそうなので、現金を作れる方法って、たまたまうちはこういう部門が、ライブハウス、スタジオ、楽器店と、この三つの部門の一つの柱は使えるぞっていうのがあったのでやってます。実際スタジオなんかも少しずつ落ちてきてたんですよ、今回のこの影響で。なので、唯一いけるのは楽器販売だけ。2月と3月は、それが当たったというのか、多くのお客さんが、それこそね、3月なんか。「こういうときやから、もう買う」って言って応援で買ってくれてそれで現金が作れたり。ほかのライブハウスだとこれはない機能なので、良かったのかもしれません。

■そういったところがJACK LIONの特徴の一つでもあるわけですね。この状況下でもなんとか踏みとどまれる一つの要因にはなるかもしれない……。

眞柴:そうです。基本ね、楽器店っていっこも儲からないですよ、もともとね。正常に動いていた時でも、楽器屋の利幅ってね、2割とれたらいいところなんですよね。このところ、世間はいわゆるネット販売で薄利多売になっていますからね。で、うちはネット販売はしてないんで、それに合わせていくと、10%あるのかないのかみたいな世界になっちゃうんですよね。でもお客さんはわがままなので、もっと安くならないのってきますから、でも、うちはたまたまライヴハウスやスタジオをやってるから、スタジオやライブハウスが元気な時は、楽器販売で無茶してでもお客さんに応えてもまだいけるっていう強みもあって。楽器屋としても独特な動きの店かもしれませんけど。今回に関しては、スタジオとかライブハウスが止まった時に、物だけでも何とか現金化すればしのげるぞというね、なんかこう山登りの時にチョコレートだけ残ってたような状態ですよね。ただ4月に入って楽器の販売もピタッと止まりましたけど。

■楽器屋がある強みですね。

眞柴:正直ね、楽器屋、なくてもいいかなって思ったこともいっぱいあったんですよ、今まで。儲からないですから。楽器屋の1ヶ月の売上なんて、本当にちょっとなんですよね。

眞柴:でも自分のスタートしたところを消すわけにもいかないという思いもあって続けてきたのと、あとはあのちょっと余談になりますけど、楽器屋っていうところを通じて、学校へのサービスとかができたんですよね。っていうのは、まず茨木に店を出した95年はこの街、そんなに音楽が盛んじゃなくて。その音楽が盛んじゃない街をどうしようかと思った時に、学校のクラブをもうちょっと正常化できへんかなと思って。その来てる子たちに、お前のところのクラブってどないなってる?って、機材とか大丈夫か?っていうことを聞いて回ったら、ギターアンプ3台あるけど、2台が壊れてるとかいう話がいっぱいあったんで。じゃあ、ちょっと行くわと。行って直るものかどうか見てみようと。で、行くとね、もちろん技術も必要なんですけど、2台壊れてる2台とも直ったりするんですよね、それも、ほとんどお金もいらなくて。アンプを購入しようと思ってた、例えば2万円なり3万円の予算って、まるまる浮いちゃうわけです。その浮いたお金でもっと必要なものを買ったら、ものすごく予算を活かせるんちゃうって言うことを、ずっと無料点検みたいな形で学校に行ってやってきたんですよ。そういうところからファンになってくれたり、信用してくれたりして、ライブの方にも来てくれる、バンドとして来てくれるっていうのをやりながらきたんで、やっぱり楽器屋っていうのがそういう役割を未だに果たしてるところがあって、今も僕行くんですよ、学校に。長く学校に行っているとね、クラブの顧問の先生と交流がありながら、先生方が卒業ライブはJACK LIONでやったらどうだみたいなこと言ってくれたりね。そういうことがあるので、楽器屋っていうのはキーにはなってました。

■ライブハウスという現場の意味ってどうなっていくのか。コロナの後、本当にまた同じような形に戻れるのか。必ずしも同じようにはならないだろうと思うんですけれども、もう不要になるのかもしれませんし、でもやっぱり人に会いたいとか、その現場に行きたいっていう人はこれまで以上に求めたりするのかなと思うんです。

眞柴:ライブハウスを出す時に、一つすごく思ったことがあるんですよね。っていうのは、もうライブハウスなんかいらないんじゃないと。茨木の片隅にたまたまあんな建物を建ててライブハウスすると、派手に無理してるように見える一面もあったんで、あそこのライブハウス、大阪で一番先に潰れるんちゃうって言われたんですよ。まぁそれは置いといて、ライブハウスって本当になくてもいいものじゃないかなって思ってスタートしてるんですよ。っていうのはどういうことかというと、茨木にJACK LIONというライブハウスができました。で、確かに前からある「びっくりギターズ」という楽器屋に集まっている子たちは来てくれるし、ライブもしてくれる。でもそこで、このライブハウスがなくなっても、茨木の人はたいして何も困らないじゃないですか。来てくれてる子たちは困っても、茨木市の人のほとんどは何も困らないのがライブハウスなんですよ。だから、そういう人に必要だなって思ってもらえるライブハウスってなんだろうっていうところが、一番先に考えたことなんですよ。だからさっき言った、楽器屋として学校に行っているのもそうだし、いろんなところに人との接点を持ちながらできればいいなと思いながらやってきました。あとライブハウスとか音楽に携わっている人は「生の良さ」っていうのももちろんおっしゃるんですけど、さっきも言ったCDに収まらない音っていうのがあるからこそ、ライブハウスでやる意味があるんだと僕は思ってるんです。それと同時にライブの良さというのは、お客さん同士がここに集まることなんですよね。で、いわゆるライブ、フロアにいる人とステージにいる人だけじゃなくて、お客さん同士、知らない人かもわかんないけど、その場で生まれる空気もライブの醍醐味の一つじゃないですか。そこでスッキリすることもあるでしょうしね、心が洗われたり、救われたりすることもあるだろうけどね、それの意味合いっていうのも、すごく必要なものっていうか、高いものがあると思うし、あと、その音楽そのものが持っているというか、僕はあくまでも優れたミュージシャンっていうか、僕が良いと思うというものをここで「これいいでしょ」っていう風に提供したいんですけど、そういう人たちが持ってる音の質っていうのは、すごい薬になると思ってるんでね。一番副作用の少ない良質な薬じゃないかと思ってて、これが効く人って結構いてるんじゃないかと思ってるんですよね。だから、そういうところにまで理解していただけるような動きをしていけば、街があそこのライブハウスなくなっては困るって言ってもらえるところに近くなるんと違うかなって、そういう気持ちでやってます。

■ライブハウスって、特に音楽やってる人のコミュニティの結節点だと思ってるし、そこから派生するファンの人たちにとっても非常に大事な場所だと思うんです。何かこういう集団の強い思い入れみたいなものがあると思うんですね。もちろん音楽に興味ない人にとっては、別にライブハウスなんかなくても構わないというかもしれませんけど、関わってる人にとってものすごく愛着というか親密感みたいなものがあるんですよね。そういう人と人とのつながりをさらに深めていくみたいな機能っていうのは、現場だからこそなのかもしれませんし、楽器屋もやってるからこそ、こういう繋がりも広がっていくし、さらにその繋がり自体が太くなっているところがある。単なるイベントをやってる箱じゃないというところがわかっていただければ、必要だよねっていう風に納得していただけるようなね……。

眞柴:それを分かってもらえるような環境をつくっていくのが、まず、とても大事なことで、伝わっていくのを待ってるんじゃなくて、音楽そのものにももちろん伝わっていく力ってあると思うんですけど、どこから入るかで人によって感じ方も全然違うと思うんですよね。音楽って、例えば、バンドそのものにも、CDから入った方が良いイメージで入れるバンドもあれば、ライブから入った方が良いイメージで入れるバンドもあるんですよね。これ、逆さになっちゃうとね、全く響かないものになっちゃうんですよね。だから提供の仕方とか、触れる機会をうまく調整していくのも僕らの仕事だと思うし、何でもかんでもライブの方がいいわけじゃないっていう部分もあるんでね。そこも考えてやる必要がある。だから、街の人にわかってもらおうと思ったら、本当にその辺はそのさじ加減というか、やり方というのは考えながらやらないと、全く誤解だけを産んでしまうこともあり得るんで。

■今回の状況の中で、周辺住民の方からどんな反応があったんですか。

眞柴:周辺はね、また変な余談になりますけど、JACK LIONはこんな所にあるんで、店の前に人もほとんど歩いてないわけですよね。周辺も民家がないし。だから今はある意味、安全な場所だなあって思ってて。まぁ人が集まるのは別問題ですけど。あと、それこそ換気の問題ってあるじゃないですか。換気もね、外に漏らさないための工夫がされているような換気扇を付ける必要があるんですよ、本来は。これって高価なので、なかなか難しいと思うんですけど、JACK LIONの場合は、おかげさまで近所がこの状態ですから消音効果をそこまで気にしなくていいんで、大きな換気扇複数台つけてるんですが音の問題はなくて。これが都会の方だとそうはいかないかもしれませんよね。そういう意味では、郊外は恵まれているかもしれません。

■最近も高円寺の方で、配信なんですけど、「緊急事態宣言が終わるまでにライブハウスを自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます」と貼り紙がされて……。

眞柴:そういうのはないですね。ライブはしてなくても、3月、高校生たちがもう行き場所もないし、ずっと学校休みだからって、たまには集まってオープンマイクみたいなことも若い連中でやってたりしましたけど。もしかしたら父兄から文句出るかなとか色々考えたんですけど、大丈夫でしたね。父兄の方々もある程度信頼していただいてるみたいで、むしろお手紙いただいたり、差し入れいただいたりしました。もう二十年経ったというのもあるし、例えば昔高校生で来てた子が今、学校の先生になって軽音楽部の顧問してたり、それこそ高校生の頃に溜まってた子がお母さんになって、お父さんになって、その娘が今来てるとか、あるんですよ。だからもう僕、どっちかというとおじいちゃん的な位置に来ちゃってるんで、だからちょっと自分自身が安心していただける材料にはなってるのかなとも思ったり、そういうのもあって、あまりトラブル的なものは少ないかもしれません。