音楽産業に関わる方々に聞く「現状況下で欲しいサービス」「仕事の回し方などに関するアイデア」〜COVID-19による音楽関係職への影響調査から抜粋〜

仕事の7割以上がなくなった―86.6% COVID-19による音楽関係職への影響緊急調査 集計速報!

先日行った「COVID-19による音楽関係職への影響調査」の中で、こんな質問を行った。「この衛生状況が続く中で、「こんなサービスがあったら、普段とは違う形で仕事ができる」というものがあれば自由にご記入ください。あやふやで結構です。例:こんな機能を備えた配信サービスがほしい、こんな風なお金の回し方をしたい、など」

既に影響が長期化してしまっており、いつ音楽産業が元のような活動を再開できるかわかっていない中で、なんらかの打開策を見出すことができたら。という気持ちで設置した質問であった。本稿では全895名の回答者の中で、自由回答であった本問に回答してくださった262名の方々の声をピックアップしたものである。

圧倒的に多かった回答はやはり「配信」に関わるものである。「配信ライブをする際に投げ銭の機能やチケット制などが選べるサービスが意外とないのであればいいなと思う(ミュージシャン/20代女性)」という声に始まり、「チケット制や投げ銭制などを用いて有料でライブ配信を行いたい」という声はライブハウスが閉鎖を余儀なくされてから常に聞かれる。5月上旬現在有料ライブ配信のプラットフォーム事情は急速に変化しており(Facebookが課金可能な動画サービスを立ち上げるなど[1])に関してはおそらく別稿を設けて詳細な現状のまとめを行う必要があるため、今回は調査内の声をいくつか挙げた上で幾らかの付記を行うにとどめる。
「現在の有料ライブ配信は、課金者しか見れない「ファンクラブ型」と、YouTubeスーパーチャットに代表される「フェス型」に大別出来る。多くのファンを持つアーティストは「ファンクラブ型」でも成立するが、小規模のライブを重ねることで生計を立ててきたミュージシャンが、コアファン以外のリスナーに届く「フェス型」の配信があると良い。ただ、スーパーチャットは投げ銭の金額が見えてしまうことに抵抗感があるという声もあり、ああいった射幸心を煽るような演出ではない、「静かな動画イベント」のような配信で投げ銭を募れるプラットフォームがあれば良いのに、と感じる(ミュージシャン/50代男性)
「友人のやっている配信サービスは、閲覧者からの投げ銭のほとんどをサービス元がとってしまうらしい。そうすると配信者は複数回配信をしないといけないので、供給過多になって閲覧者がばらけてしまう。なるべく多く配信者にお金がわたるサービスがあるとよいと思う。とはいえ、自分は自宅に録音設備もなくそもそも音が出せない環境なので配信での仕事は難しい。近くの音楽スタジオも休業している。どうやって仕事をするか、ずっと悩んでいる(ミュージシャン/30代女性)」
「VJが自宅から配信を出来る方法を模索している(VK、映像関係/20代男性)」
「オンラインでの指導や練習ができるように、高速で通信量の制限が無いインターネット回線があれば少しは仕事ができる。現在、モバイルWi-Fiのみの環境の為、オンライン指導も難しい(30代女性)」
「オンラインレッスンの設備、現在のシステムではレイテンシーが激しい、音楽専用のアプリが欲しい(ジャズミュージシャン・音楽講師/30代男性)」
など、「可能な限り演者や関わるスタッフと観覧者の間に直接的な経済的結びつきを作ること」を中心に、「音質や遅延などがないこと」「回線の負荷があまりかからないこと」などの技術的な問題を訴える声が多かった。また「演者はYouTubeなど動画配信やオンラインレッスンとかされてますけど、裏方はどうでしょうか?(照明/50代女性)」という声に代表されるように、演者以外のスタッフが入る配信は大規模にならざるを得ないため、いわゆる裏方の仕事に就く方にとっての難しさがある、という点は取り上げる必要がある。またオンラインレッスンに関する声の中には「オンライン上のレッスンの道を模索しているが、アコースティックな楽器なので中々細やかな専門的な指導が難しい。レッスンを受ける側にも環境を求めるので、高齢者には厳しい(30代女性)」など、既に物理的な難しさが生じているというものもあった。

また「作品の無料配信をしたいが、JASRAC使用料がネックになっているのを解消したい(プロデューサーなど/60代男性)」「ライブ配信をする時にJASRACを気にせず演奏出来ないものか(楽器奏者/40代女性)」などに見られるJASRAC絡みの権利問題は、配信を行いたいと考える方々にとって一つのネックになっている。これは生配信/アーカイブ配信(YOUTUBEなどへのアップロード)を問わず悩みの種であり、有料配信の中で演奏される楽曲がJASRACに登録されている場合は、たとえ演奏者自身が権利を保持している場合でもJASRACに対し使用料を払う必要性が出てくる。JASRACによれば[2]有料ストリーム配信での音楽使用料は「月間の情報料および広告料等収入の2.1%」であり(情報料とはチケット式の場合のチケット料など、アクセス者から回収する代金を指す)、この金額が5000円に満たなかった場合は5000円に切り上げられてしまうため、最低でも月額5000円を支払う必要がある。そして動画配信にあたっては「ビデオグラム配信」と「インタラクティブ配信」の2つの手続きを郵送を交えて行わないといけないため非常に時間もかかる。この手間と代金は間違いなくネックであり、今後このことを知らずに配信を行っていた人へ後から請求が来るケースも考えられる。

 配信に関してはあまり積極的でない声もある。
「コンサートという生モノを仕事にしていて、それを配信でいいなんて、あり得ません。一定の対策を行った上で実施出来る方法を専門家から示して欲しい(イベンター/30代男性)」
「録音音源とは違い、音楽は生の音と、ミュージシャンや観客との呼吸で生まれるものであるので、ビデオでは質が変わったものになってしまう。しかしないよりはよい(ミュージシャン/50代男性)」
「イベント・舞台・コンサート業界は”生”が命です。スタッフが仕込んで、アーティストと観客が同じ空間、同じ空気の中で生ライブを行う業界です。以外ありません(照明関係/50代男性)」
ウィルスによる急激かつ苛烈な状況の変化の中で「配信」というある種新しい手段を冷静に評価するためには、従来の方法と併せた検討が必要であろう。引用した声にもある通り、今回を機に全てのサービスが配信に移行するということは全く考えづらく(もちろん新しい手段の登場によりこれまで自明だった方法について再検討する機会ができるというのも重要だが)、あくまで「生」で届けることに重きを置く人々が、一刻も早くその業務を再開できるようにするということの重要さは変わらない。
「ウイルス抗体検査をして、それの証明パスがあれば営業していいとか(クラブ経営/30代男性)」
「クリーンルームにある消毒シャワーのようなものを会場入口に安価で取り付けられないものか?(会場運営/50代男性)」
「コンサートという生モノを仕事にしていて、それを配信でいいなんて、あり得ません。一定の対策を行った上で実施出来る方法を専門家から示して欲しい(イベンター/30代男性)」
「消毒業者、看護師などを付けたらLIVEをしていいという許可をして欲しい(音響/40代女性)」という声などにあるように、「いかにして現場を再開するか」に関する議論を進める必要は、ウィルスが収束に向かう=経済活動ががだんだんと正常になっていくにつれ日増しに大きくなっている。通常の業態が「密」と常に隣り合わせである音楽産業は、今後漸進的に経済活動を復旧していくフェイズに移行しても、「感染拡大のきっかけになる」という偏見に苛まれる可能性が高い(音楽産業だけの問題ではないが)。
「配信サービスの検証、トラブル対応にも人はいる。配信すら世間の目を気にしてやらないとするクライアントの方が多い(映像・音響オペレーター/20代男性)」という声は現時点で既に「世間の目を気にして」しまうことを余儀なくされる状況を物語る。

実際、ウィルスが収束するまでは「現場」にリスクがあるのも事実ではある。そのため可能なかぎり物理的なリスクを減らし、誤情報やイメージに基づく偏見を取り除いた上で活動を再開することができなければ、完全に収束するまで(あるいはそれ以降も)音楽産業の活動再開は難しく、現在助成金やクラウドファンディングでなんとかつないでいる事業者の多くでさえ体力が持たなくなる。非常に難しく、専門的な検討が十分必要な問題であることは間違いないが、音楽産業が回復していくためにはこうした議論が説得力を持って進められることの重要性に関しては言及しておく。

さて、配信関連以外で一番多かった声は「職能/場所の転用」に関するアイデアだった。非常事態の中で人手が足りなくなった業界に、仕事がなくなってしまった業界の職能がちょうどヒットするというものである。
「PA機材の運搬車で食品運搬補助サービス(40代男性)」
「ハイエースやトラックなどを所有している会社が多いので、物流の力になれるのではないか(30代女性)」
「音響屋は積込や運搬に強い。配送や引っ越しなど人材足りてない企業へ一時雇用など出来ないものだろうか(音響、イベントテクニカル全般/40代男性)」
「ジャンルや環境によって、実演家が給付や貸付など、金銭対策の情報を得ている度合いや、書類の準備をして申請するスキルに大きな差がありそうだと感じています。情報キャッチや書類仕事が苦手な人は取り残される危険性。その溝をなんとかできないか、プロボノ的な支援の仕方など(公演政策/40代女性)」
「ライブハウスを、就活の説明会場のようにつかえないか?
大きい箱でしたら、スペースを各自設けて距離を保ちながら説明もできるのでは?
(例:NECソフトの就職説明会が新木場コーストでありました。)
落語や単独での朗読会の会場や、遠隔で配信できるサービスとしての会場としての使用。企業の、新人研修でスペースが取れない場合に、プレゼンテーションの練習スペースとしてライブハウスを利用する(兼業ミュージシャン/30代女性)」
「大道具会社は製造業なので、何か役に立てば仕事を与えて欲しい(40代男性)」
「楽譜が書ける、作編曲、演奏などの技能をトレードしあって、何かできないか。皆が家にいるこんな時だからこそ、提供できる仕事があるのではないか(ピアニスト/40代女性)」

 様々な情報の共有を希求する声も多い。ジャンルや業態や世代などによる隔たりの多い音楽業界にあって、情報を回しあって助け合うという構造が出来上がれば有益そうだ。
「音楽関係のみの急な仕事や人手が必要な人がわかるサイト(30代男性)」
「「知り合いの知り合い」という範囲の外で、オンラインで知り合うことのできる営業先。オンラインではどうしても、今まで知り合った中での仕事などしかなくなってしまう感覚がある(作曲・音響業務/20代男性)」
「地方の特産物のウェブCM音楽制作などのニーズがあれば広く告知してほしい(音楽家・大学講師/50代男性)」
「「こういうやり方で大丈夫だった」「こうやって証明しました」などの情報交換が出来れば良いと思いますが…(照明/50代男性)」

この状況下だからこそ生まれる新サービス、に関するものもいくつかあった。
「サンプリング用音源を気軽に配布、売却できるサービスなど(ミュージシャン/20代男性)」
「現状況では人と人との接触が中々出来ないので、その方の過去の演奏動画等も流し、お金を支払えるサービスもあったら良いと思う(兼業ミュージシャン/20代男性)」
「在宅で配信ができるような、録音機材貸し出しシステム(30代女性)」
「音楽のデリバリー 音楽のオーダーメイド など、個人に向けたもの。例えば、依頼者のためだけに演奏するとか、依頼者のためだけに作曲する、とか、個人的な要望に答えるサービス(50代女性)」

「地域」「地方自治体」にフォーカスしたアイデアもある。地方自治体による独自のアーティスト支援が広がる中[3]、参考になりそうだ。
「地域のミュージシャンのライブだけを配信するローカル音楽配信サービスがあるといい(ミュージシャン/50代女性 広島県)」
「地方自治体による文化配信チャンネル。その地を拠点に活動する音楽家の演奏を配信する。(音楽だけでなく、舞台や映像などあらゆる文化ならベストかも)地方自治体の予算から経費を賄う。また、ドネーションもオンラインで可能にする。これまで、邦楽やクラシック等が明らかに手厚くサポートされてきたように思う。(その他の音楽に比べて)その垣根を取り払い、地元で活動されているあらゆる音楽を網羅する。そのチャンネルが盛り上がってきたら登録制にするか、有料可(ミュージシャン/40代女性 京都府)」

 今後の経済対策を望む声もある。情勢が落ち着くにつれ、議論の必要性が高まる。
「2021年〜22年はイベント主催者に対して開催の補助金を手厚くし、特需を作って欲しい(音響/40代男性)」

未曾有の規模で助成金などが設置された今回、現場の声としてはこんなものも。
「代表の立場でいう回答ですので、逸れていたらすみません。フリーランスが多い業種=税申告をしっかりしていない方も多くいらっしゃっており、その方達ともお付き合いをしないと弊社のような1人の会社では業務が回りません。今回の、政府からの音楽業界の扱いはそんな納税、確定申告など、しっかりされていない方の原因も多少あるように見えます。あれだけ文化に疎い、政治の方々ですから、社会貢献もさることながら、納税すらしっかりやっていない、ただの不良の集まりと見られても仕方がないように感じます。フリーランサーの、納税のあり方、その他義務について、しっかり指導するサービスがあると良いように感じます(PA会社代表/30代男性)」

最後に「現在起こっていることをアーカイブしておく」こと、「状況や解決策について連帯して共有、議論すること」を求める声を紹介する。これはどんな職種においても重要なことだと考えられる。普段なかなか行われない、垣根を超えた連帯が求められている。
「やや趣旨とは異なる回答だが、行われそうもないコンサートの準備を続けるよりは、各大学の現場の職員同士が連帯して、このような事態の中で音楽大学がどのような対応を取り得るかを議論(メールやzoomなどで)した方が、教育にも貢献できると考えている。少なくとも、今現場で起こっていることを書き残す必要性を強く感じており、それができるのは、給与は(一応)保証されているが仕事がなくなっている団体の職員など、ある程度安定した立場の人間ではないか。そういった役割も業務として認めてもらうことができればと願っている(音楽大学職員/20代女性)」

 

本稿は、現場からの声を紹介することを目的とし、これを見た方にとってこれらの意見やアイデアがなんらかの参考になることを狙ってまとめたものである。回答してくださった皆様に感謝いたします。

[1] cluberria「Facebookが新機能を発表!アーティストやプロモーターはFacebook上のライブ配信に課金ができるように」 https://clubberia.com/ja/news/11166-facebook-live/

[2]JASRAC ホームページ「動画配信での音楽利用(商用配信)」 https://www.jasrac.or.jp/info/network/business/movie.html

[3] 美術手帖「東京から鳥取まで。行政によるアーティスト支援事業まとめ」https://bijutsutecho.com/magazine/insight/21829