<アイドルとライブ>「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)とライブに関する調査」について

文責:上岡磨奈(慶應義塾大学大学院社会学研究科)
調査期間:2020年3月30日〜4月30日

ライブハウス等でのライブに出演するアーティストには様々なジャンルの演者が含まれるが、アイドルもその一つである。特に地下アイドル、ライブアイドルと呼ばれることが多いパフォーマーは、ライブイベントへの出演が活動の主であり、週に複数回のライブ出演があることも珍しくない。アイドルライブにはどのような影響が出ているのか。

報告者は3月30日〜4月30日、アイドルファンを対象としたオンラインでの質問紙調査「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)とライブに関する調査」を行った(調査概要、質問項目は文末に記載)。
本調査の回答者はアイドルファン(観客)を想定しており、対象となる1アーティストの現在のライブ出演・開催状況およびオンラインサービスへの移行状況について報告を得た。
本調査は定量調査ではなく、不特定多数に調査協力を求め、報告された各事例について追加調査、検討するものである(文末の調査概要参照)。

全体では79件の回答を得、対象としているアイドルについて50件は具体的なアーティスト名と共に報告された。当初想定していたライブ活動を中心としているアイドルからメディア出演が中心のアイドル、アーティスト、ミュージシャンなど他分野の情報も寄せられたが、本報告においてはアイドルを中心にライブ活動状況等について記述する。

ライブ出演の「休止」と特典会への影響

4月30日の段階では、ほぼ全てのアイドルがライブ活動を休止している。「ライブ活動を休止している」との回答について、それぞれライブ活動休止を始めた時期は、2月下旬から3月上旬、そして3月下旬に大きく分かれた。

2月下旬というと2月26日には総理官邸で新型コロナウイルス感染症への対応についての議論があり、「全国的なスポーツ、文化イベント等」への言及から大規模なライブイベント、劇場公演の中止や延期が決まった時期である。この時期については「出演者側の判断」で出演を辞退するケースが目立った。

またその半数以上は特典会の中止や変更をそれ以前に決め、早くは1月中旬以前から「(新型コロナウイルス感染症の影響で)特典会のルールや形式が変わった」という回答もあった。
特典会とは、ライブ出演に付随して行われる物販に伴うファンとの交流時間であり、アイドルライブについては特にこの特典会について感染症への影響が懸念されていた。握手や2ショット撮影など、対面での会話、また不特定多数の人々の交流などが主にライブハウス内で行われるとあって、ライブ出演より先に特典会に規制を設けるアイドルも少なくなかった。また逆にいえば特典会を中止にしてもステージでのパフォーマンスを優先する向きもあったということである。

そして緊急事態宣言に伴い、3月下旬にもライブ活動の自粛や休止発表が相次いだ。ここでは「出演者側の判断」はもちろん、「主催者側の判断」「会場側の判断」という回答もやや目立った。とはいえ、既にライブ開催にあたっては「入場時のマスクの着用義務」を中心に、「特典会時の演者のマスク着用あり」を含めて対策を取っているアイドルが多数であった。
また「主催者側の判断」、「会場側の判断」、「自治体からの要請」などによってこの時点でそもそも出演ライブ数自体が減っていたというケースも多い。さらに回答の段階(3/30〜4/1)で「ライブ活動が減少している」(「休止」の段階にはない)として具体的な名前とともに報告があったアイドルについても、追加調査の結果、3月下旬のライブが最後の出演となっておりほぼ休止の状態にあることがわかった。

誕生日や記念日などの記念ライブ、また卒業や引退、解散などのラストライブもこれに伴い、多く延期や中止、または無観客でのライブ配信へと変更を余儀なくされた。

SNS投稿や生配信の増加

ではライブ出演中止期間について、回答者であるファンの目から見てどのような活動の変化があるのか。本調査では「SNS投稿」、「生配信」、「ビデオ通話やチャット」などを中心にこの期間の活動状況を訊ねた。
「SNS更新」頻度については「増えた」と感じるケースも「変わらない」と感じるケースもほぼ同様にあり、また「減った」という回答もあった。しかし「生配信」については頻度が上がったという声が多かった。

生配信は今回新たに取り入れられたライブ活動等の代替ではなく、アイドル分野では以前から取り入れられてきたサービスである。数々の動画配信サービスを用いて、自宅などからアイドルがファンのコメントなどに答えながらフリートークなどを行う。これらの多くは無料で視聴することができるため、ライブ休止期間中であっても無料配信がほとんどである。気軽に手軽に視聴することができる一方、配信頻度が上がることで視聴者数を安定して獲得することが難しくなる可能性があり、そのため、一定期間の配信を見ることでプレゼントがもらえるなどの企画も散見された。同じツールを用いて無観客でのライブパフォーマンスを配信することもあった。

またこうした生配信をベースにした有料イベントやサービスがスタートしているという報告もあった。
追加調査の結果、オンラインサイン会(事前にCDや生写真などの商品を購入しサインを入れているところを生配信し購入者の名前を呼ぶなどのイベント)やZoomなどを用いたオンラインファンミーティングなどの開催が増加していることを確認した。前述の無料配信でも有料のコメントやアイテムに対して特典を設けるなど、商品として配信ツールを活用する例は増加している。ライブの配信は無料だが、最前列から撮影するカメラからの視聴については有料としてチケットを販売する例もあった。

「ビデオ通話やチャット」については、本調査では「やっていない」の回答が多かったが追加調査の結果、4月以降にサービスを開始しているアイドルも確認できた。

コンテンツのオンライン公開や通信販売

他にこれまで公開されていなかったライブ動画の公開や新曲の発表、既存楽曲の配信開始、MVの公開など音楽コンテンツのオンライン公開も多い。
そしてサインや購入者宛のメッセージが入った生写真やチェキ、手紙、メッセージ動画なども通信販売されている。時流に合わせZoom背景を配布する例もあった。
このようなオンラインでの楽曲やライブ動画の公開や商品販売は、ライブ中止期間中に増加していると考えられる。「ライブ活動を休止している」との回答の多くに、これらの「他サービスやコンテンツ配信について」報告があった。一方でCDやDVDなどの音楽ソフトについては、発売延期が相次いでいる。

一報告として

ここまで報告したライブ活動の中止とそれに伴うオンラインコンテンツの充実については、アイドルとして活動するアーティストの経済状況や、マネジメント側の運営状況に直接言及するものではない。
しかし、この2ヶ月はそれ以前と比べて活動内容が大きく変わっていることは自明である。元々行なっていたSNSや生配信ツールを生かし、サービスの提供は続けられているが持続可能性についてはまだ誰もわからない。生のライブからオンラインに移行したことで海外を含む遠方在住者など、これまでライブ会場に出向くことが難しかったファンが参入しやすくなったというポジティブな変化もある。
ここに記録することができていない事例も多数あるであろうが、音楽産業の中のアイドル分野についての一つの報告とする。


調査概要 ※2020年5月8日追記

<本調査の背景と目的>
本調査は、アイドルを取り巻く環境、中でもライブ活動状況が新型コロナウイルスの影響をどのように受けているかを記録する目的で遂行するものであった。

しかし、各アイドル、各事務所等によって、その対応は異なり、総数もはっきりしない程多数の地下アイドル/ライブアイドルについてその状況を網羅的に記録することは容易なことではない。特にライブの中止や延期の情報などはTwitterなどのSNSで知らされることが多く、週に複数回のライブが予定されている場合など情報は次々に流れては消えていくこともある。アイドルの場合、その合間に別の情報やタレントからのメッセージが流れるなど体系立っていないことが多い。

このような情報を後から追いかけることは恣意的に情報を収集するにしても調査者個人では限界が近い。そこで1人/1組のアイドルについての情報提供者を呼びかけ、オンラインフォームに記入する質問紙調査の形式で情報を収集した。つまりスノーボールサンプリングの手法で情報提供者を募り、各質問項目に回答する形式で情報を得ることを通じて、網羅的にではないにしろ、アイドル分野におけるライブ活動状況の断片を記録するというのが本調査の手法であり、目的である。

ここではアイドル側に情報提供を依頼するのではなく、ファンに呼びかけを行った。その理由として、まさにライブの中止や延期への対応に追われている最中にあるアイドル側(演者・スタッフなど)に情報を求めることは2020年3月30日段階で難しいという判断がある。情報を出すこと、新たなサービスを提供することで手一杯のこのタイミングで現場に立ち入ることはするべきではないだろう。しかし、これらの情報や新サービスの受け手側はほぼ同様の情報を持っている。つまりファンである。

フォロワーとも言うべきファンは、つぶさに情報を調べ、また生活の一部としてアイドル側とその情報を共有していると考えられる。消えてしまった情報についても各個人の行動によって記録されている可能性が高い(行く予定だったライブがなくなったのであればそれについても記憶、場合によっては記録もしていると考えるのは不自然ではない)。そうしたファンからの情報を基準の一つとして、地下アイドル/ライブアイドルのライブ活動状況を記録する目的で本調査を行った。

これらのファンからの情報の全てが何かによってその信用性を担保するものではない。具体的なアイドル名(アーティスト名)が挙がった回答については、「追加調査」としてある程度情報を確認することが可能であるが、そもそも相違が生じることもある(それ以前に同じアイドルAについての情報も回答者によって違いがあることもある)。しかし、このような誤差は社会調査の領域においては発生が見込まれている。

またここに情報が集められたアイドルは、無記名のアイドルも含めて、恣意的に選ばれている。しかしアイドルの総数も把握しきれず、またアイドルの定義もはっきりしない現状で、アイドルを選択する基準を設定することは優先すべき事項ではないだろう。あくまで本調査に寄せられた情報からその傾向と状況を報告するものである。

<質問項目> ◉=回答必須

・本回答で対象とする「アイドル」

◉通常のライブ頻度:
月1〜2本
月3〜4本
月5〜10本
月11〜20本
月21〜30本
月30本以上

◉対象の「アイドル」のライブ活動状況(現在):
(新型コロナウイルス感染症の影響で)ライブ活動を休止している→セクション2へ
(新型コロナウイルス感染症の影響で)ライブ活動が減少している→セクション3へ
(新型コロナウイルス感染症の影響で)ライブ活動が増加している→セクション3へ
ライブ活動への(新型コロナウイルス感染症の)影響はない→セクション3へ
(もともとライブ活動が少ないなどの理由で)影響はわからない→結果を送信

セクション2:「(新型コロナウイルス感染症の影響で)ライブ活動を休止している」と回答
◉ライブ活動の休止が始まった時期:
2月上旬(1〜11日頃)
2月中旬(12〜21日頃)
2月下旬(22〜29日頃)
3月上旬(1〜13日頃)
3月中旬(14〜22日)
3月下旬(21〜31日頃)
4月上旬
4月中旬
4月下旬

・ライブ活動の休止が始まった日について具体的な日付

・最初にライブが中止・延期となった理由(※複数回答可):
出演者(対象のアイドル)側の判断(出演辞退、主催ライブの中止など)
主催者側の判断(出演予定のライブ自体の中止・延期など)
会場側の判断(出演、開催予定のライブ会場による決定)
自治体等からの要請
わからない/覚えていない

・ライブ活動の再開時期:
現時点では未定、現時点では特定の日までの休止となっている

◉対象の「アイドル」の特典会状況(ライブ活動休止前):
(新型コロナウイルス感染症の影響で)特典会を休止していた
(新型コロナウイルス感染症の影響で)特典会をやらないことがあった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)特典会のルールや形式が変わった
特典会への(新型コロナウイルス感染症の)影響はなかった
(もともと特典会がないなどの理由で)影響はわからない

・特典会の変更が始まった時期:
1月中旬(〜19日頃)以前
1月下旬(20〜31日)
2月上旬(1〜11日頃)
2月中旬(12〜21日頃)
2月下旬(22〜29日頃)
3月上旬(1〜13日頃)
3月中旬(14〜22日)
3月下旬(21〜31日頃)

◉対象の「アイドル」の特別なライブについての状況(※複数回答可):
(新型コロナウイルス感染症の影響で)バースデーや周年などの記念ライブ・イベントが中止になった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)バースデーや周年などの記念ライブ・イベントが延期になった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)バースデーや周年などの記念ライブ・イベントが無観客になった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)解散や卒業などのラストライブ・イベントが中止になった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)解散や卒業などのラストライブ・イベントが延期になった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)解散や卒業などのラストライブ・イベントが無観客になった
記念ライブやラストライブへの(新型コロナウイルス感染症の)影響はない
(もともとそうしたライブは予定になかったので)影響はわからない

◉SNS投稿について(※複数回答可):
更新頻度が増えた
更新頻度が減った
更新頻度は変わらない
自撮りが増えた
自撮りが減った
自撮りの数は変わらない
動画が増えた
動画が減った
動画の数は変わらない
リプ返企画やプレゼント企画などSNS上でのイベントを行った
新しいSNSを始めた
SNSを止めた
SNSはやっていない
わからない/変化を感じない

◉生配信について(※複数回答可):
配信頻度が増えた
配信頻度が減った
配信頻度は変わらない
予定していたライブを無観客で配信した
予定にはなかったがライブ配信が行われた
予定にはなかったがネットサイン会などのイベントを配信で行った
新しく配信を始めた
配信はやっていない
わからない/変化を感じない

◉ビデオ通話やチャットについて(※複数回答可):
開催頻度が増えた
開催頻度が減った
開催頻度は変わらない
新しくビデオ通話イベントやチャットイベントを始めた
ビデオ通話イベントやチャットイベントはやっていない
わからない/変化を感じない

・他SNS・配信・通話イベント等について(自由回答)

・他サービスやコンテンツ配信について(※複数回答可):
通販で新商品を発売
通販商品に特典券などが付くようになった
ネット通販の開始
楽曲の配信(新曲発売、サブスク解禁などを含む)
MVの公開
ライブ動画の公開
音楽コンテンツ以外の動画の公開
メディア(テレビ、ラジオ、雑誌など)への出演増
ネットコンテンツへの出演増
クラウドファンディングの開始
ファンクラブなどの発足

セクション3:主に「(新型コロナウイルス感染症の影響で)ライブ活動が減少している」と回答
◉対象の「アイドル」の特典会状況(現在):
(新型コロナウイルス感染症の影響で)特典会を休止している
(新型コロナウイルス感染症の影響で)特典会をやらないことがある
(新型コロナウイルス感染症の影響で)特典会のルールや形式が変わった
特典会への(新型コロナウイルス感染症の)影響はない
(もともと特典会がないなどの理由で)影響はわからない

◉対象の「アイドル」の特別なライブについての状況(※複数回答可):
(新型コロナウイルス感染症の影響で)バースデーや周年などの記念ライブ・イベントが中止になった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)バースデーや周年などの記念ライブ・イベントが延期になった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)バースデーや周年などの記念ライブ・イベントが無観客になった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)解散や卒業などのラストライブ・イベントが中止になった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)解散や卒業などのラストライブ・イベントが延期になった
(新型コロナウイルス感染症の影響で)解散や卒業などのラストライブ・イベントが無観客になった
記念ライブやラストライブへの(新型コロナウイルス感染症の)影響はない
(もともとそうしたライブは予定になかったので)影響はわからない

・ライブが中止・延期となった場合の理由(※複数回答可):
出演者(対象のアイドル)側の判断(出演辞退、主催ライブの中止など)
主催者側の判断(出演予定のライブ自体の中止・延期など)
会場側の判断(出演、開催予定のライブ会場による決定)
自治体等からの要請
わからない
ライブが中止・延期となったことはない

・主催ライブ開催時の注意事項など(※複数回答可):
入場時のマスクの着用義務
入場時の観客の手指消毒あり
入場時の観客の検温あり
ライブ時の着席義務
ライブ時のコールや歓声に対する制限
ライブ時のモッシュやダイブなどの制限
特典会時の演者のマスク着用あり
特典会時の観客のマスク着用義務
特典会時に演者に触れる行為の禁止
特典会時に演者と向かい合っての会話禁止
会場の定期的な換気あり
特別な注意事項などはない
主催のライブはない

◉SNS投稿について(※複数回答可):
(セクション2の同質問に同じ)

◉生配信について(※複数回答可):
(セクション2の同質問に同じ)

◉ビデオ通話やチャットについて(※複数回答可):
(セクション2の同質問に同じ)