「ここを無くすことはしたくない」星川あゆみ(池袋 Absolute Blue オーナー)インタビュー

文責:小林篤茂
取材日:2020年4月17日

池袋駅西口から徒歩1分、ニューヨーク帰りのオーナーが厳選する上質な音楽を届けるライブハウスAbsolute Blue。日野JINO賢二(b)をはじめとする日本トップクラスのミュージシャン達が、ジャンルを問わず連日出演する都内屈指のミュージックスポットである。
3月22日までは営業を行っていたが、緊急事態宣言の発令を受け休業を余儀なくされた。現在はライブ配信をシステムを模索中である。
今回はAbsolute Blueオーナーであり、毎年5月に開催される池袋ジャズフェスティバルの実行委員でもある星川あゆみさんにお話を伺った。

 

休業までの流れ

 

■:休業に至るまでの状況の変化をお聞かせください。

星川あゆみ(以下、星川):当初3月時点ではライブハウス側からの公演キャンセルはしていなかったんです。開催予定のライブも結局お客さんが減ってしまって、いつもこの演者さんだったらこのくらいのお客さんが来るっていう予想からして、大体半分から1/3でしたね。4月に入ってからは全くライブはやってないですね。3月23日以降ずっとお休みです。

■:これ以降のライブのスケジュールは決まっていないですか?

星川:ほとんどない。貸切ライブがだいぶ先の方に入ってて、土日に一般の方の貸切ライブが残ってるのが少しあるくらいです。

■:コロナ対策としてはどのようなことを行いましたか。

星川:大阪のライブハウスが問題になった辺りから、どんどん風当たりが強くなって。お客さんも怖く感じるようになって、減っていっちゃって。

まだ営業してた頃は、寒気をマメにやります、席の間隔も空けます、アルコール消毒も用意してます、みたいな対策取って。でもそんなのなんの役にも立たなかった。どんなに言ってもお客さん来ないからね。

■:ライブハウスへの批判やバッシングが起こった際に何か思うことはありましたか。

星川:最初は思うこともあったけどね。みんな満員電車の方が人混みじゃんって言ってたけどね。三密って言ったって、三密どころかライブハウスはいま人いないよって。(笑)
いつもの1/3もいないよって言ってたけど。

ニューヨークにも知り合いがいるから、あっちの方が先に酷い状況になってて、その状況をSNS通じてみんなの状況も見てたから、だいたいこのくらい先にはこうなるぞって思ってたので。ライブハウスに限らず、もっとみんな真剣に考えないまずよって思ってたからね。ライブハウスに対するバッシングがどうのこうのとか言ってる場合じゃないでしょ、って。そんなレベルじゃないよって思ってた、ずっと。

■:一度ニュースになってしまうと、お客さんが恐怖心をもってしまうわけですよね。

星川:そうそう。だってそんな命がけでリスクを冒してまで、今ライブハウスに行かなくても、ってみんな思うよね。落ち着いたらまた行こうって。

 

お客さんの減少と減収について

 

■:どれくらいの減収になりましたか。

星川:ひどいよ。(笑)
3月22日までは営業してたんですよ。だけどお客さん減っちゃったでしょ。月の2/3は営業していたから、本来はそのくらいの売上があるはずなんだけど、売り上げ自体は1/3になってました。大体毎月このくらいの売り上げの目標があって、毎月その前後はいってたんだけど、その1/3でしたね。だから60%〜70%近い減収ですね。

■:それについてはお客さんの減少が要因として大きいですか?

星川:はい。お客さんの減少と、3月23日以降のライブのキャンセルと。前半もやってはいたけどお客さんのキャンセルが結構あったから。

■:出演者のキャンセル代については、どのように対応していましたか。

星川:いま問題になってるよね、でもうちはもらってないです。

■:ライブハウスによって対応が異なるようですね。演奏者がキャンセル代を支払うケースもあると聞きました。

星川:私もミュージシャンから話を聞きました。自分からキャンセルしたいと言ってしまうとキャンセル代を取られてしまうから、店が言ってくるのを待ってるっていう話は聞きましたね。ジャズ系でもそういうことがあったみたいですよ。

 

経営状況について

 

■:現段階で経営についてはどのような対策をしていますか。

星川:貯金は自分のポケットマネーを全部出してます。あとは融資は申し込んでて結果待ちですね。

■:ここのライブハウスは親会社があるのですか。

星川:ないです。私の会社でやってます。

■:この状態が続くとしたら、お店としてはどのくらい持ちそうですか。

星川:融資が下りたとして、それしかもらえなかったとしたら、多分2ヶ月。もって3ヶ月。

■:他の方のインタビューでも、別のライブハウスでも2,3ヶ月もたないっていう話はありましたね。

星川:そうだと思う。みんなランニングコストが黙っててもかかるからね。

 

ライブハウスの融資制度について

 

■:融資は現在どのようなものを利用されていますか。

星川:コロナ関連の融資です。今はそれの審査待ちです。

■:それは無利子無担保の貸付ですか?

星川:無利子無担保っていうのはセーフティーネット(補償制度)っていうのがあるんだけど。

うちはそれじゃなくて日本制作金融公庫のマル経融資(小規模事業者経営改善資金)です。最大で7年で返済です。

それは利子がちょっと付きます。とはいってもコロナ対策のものは通常の利子から0,9%引いてくれるんですよ。最初の何年かだけですけどね、後から普通になりますけどね。(当初3年間)

なんだけど、0,9パーセント引いた残りって0,3〜4%くらいなんですよ。だから利子ってほんのちょっとで、月で割ったら数千円くらいなんです。無利子って言ったって数千円って話ですよ。(笑)
だったら無利子のところじゃなくて、別のところで有利な方を借りますね。

■:立地が新宿渋谷辺りになってくると、家賃だけでも相当な金額ですよね。いくつか潰れたお店もありましたし。新宿Jは驚きでした。

星川:聞いた、Jね。本当は4月に辞める予定じゃなかったらしいね。10月くらいまでブックお願いしてたらしいよ。周年イベントは10月の予定で頼まれてるミュージシャンいたから。あれは衝撃でしたね。ジャズ界みんな知ってますからね、あそこの店は。

 

ライブハウスのスタッフや出演するミュージシャンについて

 

■:ここのスタッフさんや出演するミュージシャンの状況はいかがですか。

星川:うちのフロアスタッフの女の子は早稲田の学生さんで、アルバイトに来てもらってたんですけど、中国の方だったんですよ留学生で。今は日本に入ってこられないです。春休みに一時帰国して、3月18日くらいに戻ってきますって言ってたんですけど、まだ戻ってこられない。
あとはご存知の通り、うちのPAさんたちはフリーでお願いしてるんだけど、彼らも今仕事がなくなっちゃってますね。うちからもなにも頼めないし。

■;ミュージシャンの状況も同じですよね。

星川:みんな言ってる、同じだよね。もう2ヶ月全然収入ないって言ってる人もいるしね。

 

池袋ジャズフェスティバルの開催中止について

 

■:池袋ジャズフェスティバルの運営に毎年携わっておられますが、今年度の開催中止について、どのような判断がありましたか。

星川:去年はメイン会場の西口公園がリニューアル工事中だったので、開催しなかったんですよ。でも今年も結局コロナでなくなりました。
5月の16,17日だから、ちょっと先のように思うけど、やっぱり3月中には決めなきゃいけなかったですね。参加者からお金をもらって運営するから、それを集める前に決めないと、ってなって。

 

今後の取り組みにについて

 

■:今後の取り組みについて、どのようなことを考えていますか。

星川:今は動画配信に向けて動いてますね。今揃えてる機材も配信用の機材です。明日セットアップしてテストするのね、それがちゃんと動くかって。それはミュージシャンなしで。うちの音響さんと私と。それで、この環境でどんなことができるのかっていうのを。結構予算もつけて機材も買っちゃったから。(笑) 止まってたら死んじゃうからね。

■;そうですよね、いつ再開してもスタート切れるように。

星川;そうそう。テストしておけば、近々は何もできなくても、何かあったときにすぐ動けるから。ほんとは4月の22、27、28日とライブ配信やりますって言ってたんだけど、コロナの状況が日々悪化する中で、やっぱり外からの批判も考えなきゃいけなくて。
いくらミュージシャンが「やるよ!」って言ってくれたとしても、ミュージシャンは移動してこなきゃいけない。「車使います」「自電車使います」って言ったって、電車で来るかもしれない。その人が無症状なだけで感染してる可能性もあるかもしれない。その人がここに来て、集まった中で、誰かに移して、家に帰って、また誰かに移して。結局人の移動がコロナ感染の拡大につながっているんだ。というご批判がありまして。(笑)

■;お店にですか?

星川:はい。(笑) SNSを通じまして。(笑)

■:やっぱりそのようなお話はあるんですね。

星川;もちろん応援してくれる人もいっぱいいるんですよ。頑張って下さいって。だけど、「リスキーだ」「危ない」「自分さえよければいいのか」って。自分もここのところ、状況が逼迫してきてるのを見てて、これまずいなって思っていたから、もう一度ミュージシャンに相談しなきゃなって思って。
やっぱりみんな同じようなタイミングで同じようなこと思っていて。バンドのリーダーさんと話して、せめて緊急事態宣言があける5月6日まではやめてそのあとにしましょうって。緊急事態宣言が延長になるかもしれないけど、その時はその時で考えるとして、とりあえず今はやめましょう。誰が感染するかわからないし、ここにきたミュージシャンでもしも感染が拡大したら、取り返しがつかないことになるから。みんな意見が合致して、やめようってなったよ(笑) テストだけやります。

 

自身の生活状況と、求める対応について

 

■:ご自信の生活への影響とか変化ってありますか?

星川:なんだろう、あんまり感じないな。(笑)
なんか慣れちゃったみたい。もう2ヶ月以上になるのかな。最初の頃はどうしようどうしようって感じだったんだけど。
これはやるか、これはやらないか、とか一個一個ミュージシャンと話をして、どうするどうする、みたいな感じで。そのころから対応に追われてるんだけど、今はもう相談するライブすらないので。4月まではパンパンにブックが入ってて、それを全部どうするか決めなきゃいけなかったから。お金のことも、融資に動いたりとか。酒類販売免許取るのに動いたりとか、いろいろやることがたくさんあったんだけどね。もういまとなっては落ち着いちゃって、「これからこの状況が長引くとしたら、さあどうする」っていうことを考えなきゃいけない時期になってきてる。

 

■:今一番困っていることと、求めていることは何ですか。

星川;とりあえず一年この状況が続くかもしれないってことを想定して、今後どういう風に仕事を作っていくのか、っていうことを考えている。どこの誰かに求めるってことじゃなくて、自分で仕事作ってくしかないので。ライブハウスとしてなのか、それともここの場所として、箱としてなのか。
ここを無くすことはしたくないのね。ここ無くしてゼロからやるっていうのは、負のスタートになっちゃうから。ここがある前提で、ここを使って、どうやって稼いでいくかっていうことをね。だからいろんな情報収集して、他の箱とか、もっと先に行こうとしてる人とかが、どういうことやろうとしているのかとか、いろんなことを考えながら調べながら、という状態ですね。

 

■:国に求める対策としては何かありますか。

 

星川:今更だけど、とりあえずロックダウンしてほしいです。
最初から都知事も小さいピークを連続させるやり方でいきますって言ってたのね。でもそれだとみんな死んでしまう、経済的に。だって自由に外を動けない期間がそれだけ長引くってことだから。
最初の頃からライブハウス、もっとかわいそうな屋形船とかは、営業してても誰もこないような状況になっていたのに、さらに営業を自粛しろっていう要請が入って。最初からそういう状況なのに、それを短期間で終わらせず、長く続けるって言ってたわけでしょ。っていうことは最初から我々潰す気じゃんって。(笑)
それに対してどれだけの補償が出るのって。それを比較すると、小さい店は100万円もらえたら、50万円もらえたら結構助かると思うけど、本当に大きくやってるライブハウスだったら、月の家賃にもならないでしょ、50万なんて。2店舗以上でも100万しかもらえないわけだから、3店舗、4店舗やってるところだったら焼け石に水じゃん、そんなの。営業しないでそれを補助金、助成金だけでどれだけつなげるんだっていったら無理でしょ。よっぽどしっかりした体力のある親会社があったとして、そこにお金つぎ込まないと多分みんな潰れていってしまう。
もう保証なくてもいいから、短期間で終わらせてほいの。ちょっとの保証で長引かせられたら無理、みんな無理。それよりは例えば3ヶ月なら3ヶ月で、本当に収束させるっていうつもりで、完全に人の行き来を封鎖して。武漢みたいにね。本当にコロナウイルスの感染の拡大を止めるっていうところに注力してもらいたい。って思ってるけど、どうにもならないね。(笑)

 

■:最後に伝えたいことはありますか。

星川:とにかく自分の命を守ってください。それに尽きます。自分の命を守ることが、周りの命を守ることにつながるので、それに尽きますね。

 

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