COVID-19による 音楽関係職への影響調査 集計詳細

仕事の7割以上がなくなった―86.6% COVID-19による音楽関係職への影響緊急調査 集計速報!

先日こちらのページにおいて、4/9から4/16の間に行われた該当調査の数字データや自由記述のコメントをピックアップした「集計速報」を掲載した。

今回は7名の調査者によって全895件の回答を分担して各自で分析し、「集計詳細」として掲載する。読みやすさを考慮し、今回は7人中3人による文章を掲載し、これを第一弾とする。掲載順は原稿が出揃った順とする。

 

担当範囲:回答769~895

文責:玉田千里(大阪大学文学部人文学科音楽学専修)

真っ先に読み取れるのは、今日明日の生活に困窮し、生命の維持すら難しくなるという意見の多さである。「このままでは数ヶ月後には家賃も払えなくなる/フリーランスの演奏家、 作編曲家・60 代男性」「ライブが再開出来ないと生活が出来ない/アーティスト・50 代男性」 などひっ迫する状況を訴えている。さらに、「6 月以降の仕事もキャンセルが相次いでいる /音響関係の会社勤務・40 代女性・東北」「年内の仕事がなくなっています/フリーランス(業 種未記入)・30 代男性・関東」など、長期間仕事の目途が立たないという訴えも非常に多く、 音楽産業に携わる人々にとって厳しい状況が長期化することは必至である。

また、「演奏の仕事がゼロになり、アルバイトを探したが、妊娠しており雇ってくれる場所がない/フリーランス(業種未記入)・20 代女性・関東」など、働く際に女性特有の事情 により厳しい立場に置かれてしまっていることを訴える声もあった。

今後必要な支援については、「配信サービスで、レッスンやライブをお金をとってやれるシステムが欲しい/フリーランスのミュージシャン・50 代男性・関東」「フリーランスのミ ュージシャンもオンライン上で活動できて個々の収入に直結する媒体があればいいなと思います/ミュージシャン・30 代男性・関東」「コンテンツのネット配信や経営コンサルト等 現状で存続出来るよう的を絞った補助があれば自力で頑張れそう/フリーランスの音響エン ジニア・40 代男性・中国四国」といった、インターネット配信を行いやすくする仕組みや 援助を求める意見がみられる。中には「ハイエ ースやトラックなどを所有している会社が多いので、物流の力になれるのではないか/会社 勤務・30 代女性・九州」など、業種を超えて社会生活の維持に協力したいという興味深い 意見がみられた。

3 月上旬にライブハウスでクラスターが発生して以降、ライブハウスをはじめとする音楽産業への偏見は強いままである。「見捨てられたエンタメ界、特にライブハウスの名誉を国 を挙げて挽回して欲しい。このままではコロナが収束しても業界は壊滅的です/フリーラン ス(業種未記入)・30 代男性・東京」「飲食業は最近、本格的に自粛を求められたが保証の 話がもう出ている。我々の仕事が未だに不要な仕事と思われている証拠だと思う/フリーラ ンスの舞台照明・50 代男性・東京ほか」などの意見は、日本において音楽は余暇や気晴らしに過ぎず、生活に不可欠ではないという価値観の根強さを反映しているのではないか。諸外国で芸術家への支援が手厚いのは、ドイツのモニカ・グリュッタース文化相が述べたよう に「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要な」存在であるという価値観が根付いているからだろう。音楽を社会により強く取り込むしくみが必要だと感じた。

担当範囲:129~256

文責:星川彩(東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程)

 本レポートは4月20日に掲載された「COVID-19による音楽関係職への影響緊急調査 集計速報」の分析版である。速報版でも報じられたように、回答者全体のうち86.6%が「仕事の7割以上がなくなった」と回答、収入への影響度にかんしては「困っている」「廃業レベルで困っている」と回答したのは全体の86.5%にのぼり、COVID-19影響下での事態の深刻度がうかがえる。
 本調査が実施された段階(2020年4月9日~16日)では世帯ごとの条件付き給付の政策が発表されていたのみで個人に対する10万円給付が決定していなかったため、保障にかんする意見・要望では年代・職種を問わず個別の給付を求める声が多数寄せられている。しかし「最低15万/月の補助がほしい」(40代女性東京、イベント制作業)、「最低限度、15万円程の支給が必要です。収束が長引くなら複数回」(60代男性東京、フリーランス:業種未記入)など、継続した個人給付を求める意見も多く寄せられた。また「経費の支出に占める固定費の割合が大きいので、店舗賃料が減額されるような政策を考えて欲しい」(40代男性中国・四国地方、ライブハウス経営者)、「コロナ収束後の事業継続に見込みをつけるために,事務所を維持する固定費(家賃光熱費)を助けてほしい」(60代男性東京、プロデューサー)など、店舗を維持するだけでも出費となる業種(ライブハウス経営者、音楽事務所経営、音楽講師等)では維持費の保障を求める声が多く挙がっている。緊急事態宣言の延長が検討されている現在、個人給付の継続と店舗維持費の保障についての問題は非常に緊迫していると見てよいだろう。
 COVID-19影響下でのサービスにかんする意見では、「在宅で配信ができるような録音機材貸し出しシステム〔が欲しい〕」(30代女性、フリーランス:業種未記入 〔〕内は引用者による)、「気軽にライブが配信できるサテライトスタジオ的な場所が複数あると嬉しい」(50代女性東
京、兼業ミュージシャン)といった配信や動画作成支援のサービスを求める意見がミュージシャン、ライブハウス関係者、音楽講師といった職種を中心に目立った。しかし、このような動画配信・投稿をめぐっても、昨今様々な問題が浮上している。例えば「休業要請期間中にライブハウス
が無観客ライブ配信等で施設を使用した場合、東京都の協力金の対象になるのか」といった問題については情報が錯綜し、その後東京都のホームページ
(https://www.tokyo-kyugyo.com/)にて「休業期間中にオンライン配信用のライブを行っても問題はない」との回答が得られたものの、ライブハウス関係者に混乱をもたらした。また本調査回答者の年齢層は40~50代が半数を占めており、「遅延なく合奏出来るアプリやソフトがほしい。シニア層にやさしいもの。」(50代女性東京、フリーランス:業種未記入)や「投げ銭やチケット代設定が可能でなるべく諸条件の少ない配信サービス、生放送と録音両方で対応可能な音声配信サービス、どちらも一般のインターネットに詳しくない人たちが使いやすいものが欲しいです。」(40代女性関東、事務所経営)などの意見が寄せられており、若年層以外のユーザーでも使用しやすい配信・動画作成支援サービスを早急に充実させていく必要がある。
 またTwitterやInstagram等をはじめとするSNS上では「#うたつなぎ/#リフつなぎ」や「#うちで踊ろう」といったハッシュタグを利用した動画投稿が流行しており、自宅で音楽活動の輪を広げていこうという試みが相次いで行われている。これらの試みはミュージシャンの新たな活動領域となっている一方で、「クリエイティブな精神はどんどん削られていく実感があります」(30代男性東京、ライブハウス経営者)、「演奏会はしばらく見合わせないといけないので、モチベーションを保たなければと思っている」(60代
女性東京、兼業ミュージシャン)といった音楽の創造性そのものに関わる問題も生じている。これまでとは異なる状況下での音楽制作のあり方を構築し
ていく過程において、オンラインという手法では解決し得ない点をどのように扱っていくべきなのかについては継続して議論していく必要があるだろう。

●担当範囲:513〜640

文責:加藤 賢(大阪大学文学研究科博士後期課程)

筆者の担当範囲において、回答者の属性は男性の比率が高く、年齢は30~50代が最も多い (全体的な集計と比率的にほぼ一致する、とりわけ会社経営者に男性が多い)。

設問3~5(仕事量、収入への影響に関する設問)について
仕事量が激減し、収入も9割減、10割減になったと述べる回答が過半数を占めていた。「45現場で売り上げ5600万円の予定が、2現場190万円になった【東京で照明会社を経営する50代男性】」、「3~5月で約10件の仕事で大体1億円の収入見込みだったのが、2本に減り、2千万円の収入見込み 【東京のイベント会社経営者、40代男性】」、「LIVE11本 1千万円→ 中止延期 −100万円 (キャンセル料) 【東京のフリーのミュージシャン、50代男性】」といった意見が見られた。

設問6,7(収入への影響が及ぼす生活や職業継続への深刻度に関する質問)について
体感としては、ほぼ全員が「困っている」「廃業レベルで困っている」のどちらかに回答している。それに関連する設問7の回答についても、「ライブハウスクラスターの件で緊急事態宣言からライブは勿論 バー営業すら営業困難。また偏見により賃貸契約の不動産からも遠回しに出ていって欲しい感じ【九州在住のライブハウス経営者、50代女性】」「ライブ活動は全て無くなり、レッスンは学校休校になると無くなるので4月後半以降は未定です。今のところ2月末から3月末までレッスンは無くなり、一週間くらいだけ再開しましたがまた休講になりました。 3月分の給料25万ほどの収入は無くなり、かわりにYAMAHAからお見舞金と言う事で20% 4月に振り込まれます。今後休講が続けば無収入になります 【東海でドラマー講師、30代男性】」といった意見が寄せられている。また、「どう生きていけば良いのかわからない。死ぬしかないと思う 【フリーのDJ、40代男性】」「首を括るしかない【東京でフリーの大道具をしている30代男性】」といった、非常に切迫した回答も届いている。

設問9(他の設問から漏れた実情を自由に記述してもらう設問)について
収入が激減した現在の苦境を訴えるのみならず、「6月以降、社会的に回復したとしても音楽をする会場が減っている可能性がある【関西でミュージシャンをする40代女性】」、「演劇公演を主とした貸館のため、チケット売れない (買い控え) →開催出来ない→キャンセル、という悪循環。夏以降のスケジュールでも、準備が出来ず開催検討中、など。 収束してからも通常業務に戻るのは、来年までかかるのでは?【大阪府で劇場管理運営をする40代女性】」など、先行きを不安視する声が多かった。

設問10(現在望む助成や補償について自由に記述してもらう設問)について
「月単位なのか、年単位なのか」「単発なのか、複数回なのか」についての指定がなかったため、金額的にばらつきが見られる。また、4月7日の緊急経済対策において盛り込まれた中小企業・個人事業主を対象とする給付制度「持続化給付金」の認知までにラグがあったこと、回答期間中に「10万円給付」が未だ実現していなかったことなどは留意しておくべきである。なお、持続化給付金を念頭においた回答は「現状では、200万満額の支給をいただければ何も問題はありませんが、この先も止める状況であれば、その分は頂きたいです【東京でPA会社の代表を務める30代男性】」という1点以外には見られなかったが、現在では周知が進んでいると考えられる。
給付については、月単位では「10万円〜30万円」、それ以外では「100万円」という意見が多い。また、それと同程度に多かったのが、「消費税、区民税、年金、光熱費、の免除がいちばん助かります。これらは自分で節約できないものです。これらは削減や支払いできません 【フリーの40代女性】」という、家賃、光熱費、水道代、保険料、消費税、ライフラインの支払い免除、ないし猶予を求める意見だった。なお融資については「補助金ではなく無担保融資でもいいから、とりあえずどうにかしてください【ドラム演奏者をしている50代男性】」「600万円程の融資を受けないと厳しいが、返さなければいけない為、躊躇している 【九州のライブハウス・音響会社経営者、60代男性)」など回答がみられたほか、借入れの迅速性、審査の簡便化を求める声があった。ただし、給付についての意見と比べれば、融資に関する言及はほとんど見られない。

設問11(「こんなサービスがあればこの状況下でも仕事ができる」というものがあれば自由に記述してもらうという設問)について
ライブ映像配信や、オンラインでの音楽レッスンの実現を求める声が数多く見られた。だが、「ネット配信はできますが費用がかかって儲かりません 【フリーの舞台監督、50代男性】」、「投げ銭ができる配信などの環境や通販のシステムなど、もっとわかりやすく代行してくださる企業など (低料金で) あればうれしい 【山梨などでシンガーの支援をしている50代女性】」など、ライブ配信の収益システムに対する要望も多い。「地方自治体による文化配信チャンネル。その地を拠点に活動する音楽家の演奏を配信する。 (音楽だけでなく、舞台や映像などあらゆる文化ならベストかも) 地方自治体の予算から経費を賄う。また、ドネーションもオンラインで可能にする 【関西のフリーミュージシャン、40代女性】」のように、こうしたオンライン配信体制を地方自治体単位で設けてほしい、といった要望もあった。またレッスンに関しても、「オンラインレッスンの準備はしているがコントラバスという楽器の特性上生徒が自宅に楽器を用意できず成立しないケースも多い 【東京都ほかで活動するフリーの40代男性】」のように、楽器によっては実現困難なものもあるだろう。
また、政府の芸術支援に対する反応の悪さに際して、「フリーランスが多い業種=税申告をしっかりしていない方も多くいらっしゃっており、その方達ともお付き合いをしないと弊社のような1人の会社では業務が回りません。今回の、政府からの音楽業界の扱いはそんな納税、確定申告など、しっかりされていない方の原因も多少あるように見えます。あれだけ文化に疎い、政治の方々ですから、社会貢献もさることながら、納税すらしっかりやっていない、ただの不良の集まりと見られても仕方がないように感じます。フリーランサーの、納税のあり方、その他義務について、しっかり指導するサービスがあると良いように感じます 【東京で活動するPA会社代表、30代男性】」など、この機会に業界の商慣習の改善を求める意見も見られた。

私見
資金援助、とりわけ給付の重要性は、すでに多くの方が述べられているだろう。今回の危機は、音楽業界の経営失敗によって起こったものではなく、新型感染症という外的な危機による需要減、ならびに営業自粛によってもたらされたものだ。緊急事態宣言の延長がほぼ確実なものとなり、平常運行への道のりがさらに遠のいた現在では、たとえ小口であれ「融資」に二の足を踏んでしまう事業者は多いはずだ。仮に融資によって一旦延命したとして、通常営業が戻らなければ倒産→債務不履行に陥り、かえって業界全体の危機に繋がる可能性もある。アンケート内でも困窮度合いの高かった、フリーランスへの支援を考える上でも給付による支援策は絶対に欠かせない。
また、多かったのが固定費 (家賃や人件費、光熱費など) の補償を求める声だ。4月30日の補正予算成立に続いて、自民党は2次補正への検討を始めている。この中には家賃補償も盛り込まれる方向性である[1]。これを5月に検討する遅さは問題だが、しかし是が非にも家賃補償は実現されなければならないだろう。より言えば、こうした固定費を含む粗利補償を政府主導で行うことができれば申し分ない。

各地方自治体の支援策についても、別途フォローアップしていく必要性があるだろう。東京都は「東京都感染拡大防止協力金」として休業に応じた店舗に50万円を交付するほか、「アートにエールを!東京プロジェクト」としてアーティストから動画作品を募集し、都が用意する専用サイトで配信し、これに対する「出演料相当」として、一人当たり10万円を支払う試みを行っている[2]。 北海道ではライブハウスや音響、照明、プロモーターなど関連事業の事業者に助成金として一律25万円を支援する予定[3]であり、愛知県も県独自の「芸術家応援金」制度を創設して活動の場が減った県内のアーティストや文化芸術団体に法人20万、個人事業者に10万円給付を計画している[4]。大阪府はそれと比較して「一律給付」への意識が乏しいが、70万円まで「配信にかかる費用を」負担する支援策を打ち出している[5]。政府の支援策がスピード感を欠く中で、地方自治体が支援に動くという姿勢それ自体は歓迎すべきものだ。しかし地方自治体による支援はそれぞれの財力による格差が大きいし、財源にも制約がある (ゆえに地方自治体の場合、どうしても「どこかを削ってどこかに回す」ロジックになってしまう) ことは留意しておかなければならない。積極財政策が真に効果を発揮するのは、あくまでも「政府・国家」単位で行われる場合である。

ライブ配信については、おそらく「配信する」こと自体は、ある程度の営業規模を持つ事業者なら可能だろう。問題は、そのマネタイズ (収益体制の構築) をどうするのかということだ。ライブ配信の体験は、現時点ではどうしても「ライブ会場での体験」に強度として劣ってしまうし、ゲームや映像配信など、他の娯楽とも食い合ってしまう。また投げ銭 (スーパーチャット) の場合、たとえばYouTubeでは投げられた額のうち3割がプラットフォーム使用料として徴収されるため、チケット制度やライブハウス・コンサートホールの利用を前提とした従来のライブ事業と比べて、国内の音楽産業への恩恵が薄い。現状を見る限り、「配信すること自体は可能でも、それによって損益を補填することはかなり困難」というのが率直な実感ではないだろうか。青山のライブハウス「月見ル君想フ」のように独自の配信プラットフォームを構築する、あるいは少しでも中抜きされにくい投げ銭システムを利用するべきなのだが、そのシステムを構築できる事業者がどれほどいるのか、という危惧は依然として残っている。

[1]「家賃支援、検討本格化 2次補正へ追加策急ぐ―政府・与党」https://www.jiji.com/jc/article?k=2020043001162&g=pol

[2]「東京都のアーティスト支援プロジェクト――そのエールは誰にどこまで届くか」https://news.yahoo.co.jp/byline/shidayoko/20200425-00175135/

[3] 「ライブハウスなどに一律25万円 北海道が独自の支援金」https://www.asahi.com/articles/ASN4R643ZN4RIIPE020.html

[4] 「愛知県が芸術家応援金 独自制度創設、法人20万円など」https://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2020050102000280.html

[5]大阪府・休止中のライブハウス、劇場などのライブ配信支援へ 知事『小屋文化を守っていく』https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200422-00010017-wordleafv-ent

 

集計詳細の第二弾は追って投稿する。