ライブハウス・バッシングをくぐりぬけて、音楽文化を取り戻すために
──名古屋で活動するミュージシャン兼ライブハウススタッフへのインタビュー

文責:野村駿
取材日:2020年4月19日(日)、オンラインにて

今回取材を行ったA氏は、「ふたつの顔」を持つ。ひとつは、ミュージシャンとしての顔である。高校生のころから精力的にバンド活動を行っており、現在も名古屋のバンドシーンで中心的に活動している。もうひとつは、名古屋に所在する中規模キャパのライブハウスXでのスタッフとしての顔である。バンド活動を通してライブハウスXでのアルバイトを始め、現在は、主にブッキングを担当しながら、ライブハウス運営の中核メンバーとして多岐にわたる仕事に従事している。

新型コロナウィルス感染拡大は、この「ふたつの顔」の両方に多大な影響を及ぼした。以下では、そのそれぞれの状況について記録するとともに、ミュージシャン兼ライブハウススタッフとしてのA氏が社会に求めるものを報告する。

 

ライブハウスの仕事がなくなっていく

■ライブハウスXでは、2月・3月にかけてイベント・出演のキャンセルが相次ぎ、中止・延期が決定されていた。しかし、4月頭までは、出演者を選びながらも少なからずイベントを行える状況にあった。ところが、出演していたバンドが、後に新型コロナウィルスに感染したことが発覚したため、休業を余儀なくされた(以下、*は野村の発言を、AはA氏の語りを示している)。

*:営業自体はいつぐらいまでやられてたんですか?

A:営業は4月の頭まではやっていて、でもそれもこっち主催のものだけやっていて。その、出るイベントのイメージ的にも、極端な話、J-popよりのバンドとかガールズバンドとかは絶対やらないほうがいいじゃないですか、イメージ的に。だから出るバンド、結構線引きしつつやってたんですけど、あるイベントの後に、それに出てたバンドのメンバーがコロナにかかったって発表したんで、絶対そんとき菌持ってたよねっていうので。そっからもう完全にっていう感じですね。

*:2月と3月も結構イベント自体は減っていたんですか?

A:減ってはいましたね。3月の時点でもう半分以上減っていて、かろうじてイベント組んだりとかやってたんですけど。それこそ僕らも、3月まではライブやってたんで。で、4月どうなるかなって思ってたら、3月後半くらいからライブがどんどんキャンセルになって。3月結構転機だった気がします。

 

■日に日にライブイベントがキャンセルされ、勤務日が減っていく感覚は、次のように認識されている。当初、「23、4勤」の予定だったアルバイトは、最終的に「5日間」となった。

A:3月、日に日にヒートアップしていったじゃないですか、自粛ムードというか。ライブハウスっていうイメージの悪さだったりとか。その、あるタイミングで3月こんだけ仕事なくなりました、とかではなく、3月中にどんどん明日無くなったわとか、明日明後日キャンセルの連絡来たわみたいな感じで。どんどん日に日に減っていってる感じで。気づけば、3月中旬になったら、あれ、3月俺まだ1日も働いてないけどみたいな感じでした。

*:3月入ったときは、まあ月こんだけあるかなって思ったのが、

A:ほんとそうです。3月後半にやっと仕事だと思って、こっからやっと働けるわと思ったら、働いてる途中で電話かかってきて、すみません明日のイベントちょっとキャンセルにみたいな。はい、また明日も休みです、みたいな。

*:具体的に3月どれくらい入ってたんですか? 当初は。

A:勤務的には23、4勤とか。しっかり入ってました。

*:それが最終的にどんくらいになったんですか?

A:5日間とかですよ。いや、すごかったです。それこそ、えっと、3月頭に2日間だけ休み希望出してたんですよ。で、3/4まで働いて、3/5-6で休みだと思ってたら、3/5の時点で社員から電話かかってきて、ごめん3/7と3/8休みです、みたいな。あ、了解ですって。4連休になったなみたいな。っていうのがどんどん続いていって、結局その連休、トータル10連休になったんですよ。それがほんとに続いた結果5日間とかしか出勤せず。

 

スティグマと見通しの喪失―ライブハウススタッフとしての困難

■では、A氏は具体的に、現在の状況の何に困難を感じているのだろうか。ライブハウススタッフとしての側面とミュージシャンとしての側面の両方から見ていこう。まず、ライブハウススタッフとしてA氏が語るのは、自粛要請に伴う損失の大きさではなく、ライブハウスに向けられた負のイメージ(=スティグマ)による困難である。それゆえ、たとえ事態が収束に向かったり、緊急事態宣言が解かれたりしたとしても、ライブイベントを実施してよいのかどうか判断がつかないという。「世間が許さないタイミング」に「逆らってしまうとほんとにマイナスプロモーションになってしまう」がために、決定しているイベントの告知もできず、今後の見通しが得られない状況になっているのである。

*:現状、困っていることってありますか? たぶん、ミュージシャンとしてもライブハウススタッフとしてもあると思うんですけど。

A:まずライブハウスの人間として、えっと5月とかのブッキングの日、一応世間的には5月6日までが愛知県の宣言って言われてるじゃないですか。で、それ以降のイベント全面的にやろうと思えばやれる、たぶん。でもこのタイミングで告知するのもどうなんだっていう。なんかその、告知することでそのアーティストのイメージも下がったりとか。それこそライブハウスのイメージも下がったりとかするよなと思って、告知すら今できていないような状態。イベントは組めてるけどっていう。そこが一番自分は思ってますかね。どうしようかなって。

*:いつからイベントができるのかがまだわからないみたいな?

A:わからないし、わかったとしても、世間が許さないタイミングってあると思うんですよ。良いって言われてるけどまだ早いだろみたいな。あるじゃないですか、ネットだったら特に。でも告知する場って結局そこなんで。そこに逆らってしまうとほんとにマイナスプロモーションになってしまうシビアなとこだなっていうの、ずっと考えてます。

 

■だからこそ、「今というか収束した後の方がライブハウスだったりアーティストだったりが潰れる可能性がある気がする」という認識が示されている。実際、ライブハウスが営業していたときに、クレームの電話がかかってきたという。

*:ライブハウスほんとにバッシングすごいですもんね、今。

A:すごいです。ライブハウスっていう言葉が今、結構キラーワードじゃないですか。世間的に。で、その時点でもう、世間が今ライブハウスの動きっていうのを許してくれないと思うので。国的にとか宣言がどうとかっていうよりかは、SNSとかの世間が許してくれるの待ちみたいな感覚ですね。

*:なんか今、時流としては自粛しろっていう宣言は出たけど、補償がないから生活できないみたいな話があると思うんですけど、お話聞いてる感じ、そのお金どうこうも勿論大事だけど、イメージングっていうか、ライブハウスに対するイメージの悪さっていうか。

A:まあそれはありますね。今後、もし収束した後に、今というか収束した後の方がライブハウスだったりアーティストだったりが潰れる可能性がある気がするんですよね、結構。

*:それってなんでそういうふうに思う?

A:今なんか、こんだけ社会的に過激な現象になっているじゃないですか、ライブハウスがどうのっていうところが。今まで多分、この2、3年でライブハウスがこんなにフューチャーされることがあんまなかったと思うんですよ。世間的に。今もう完全にイメージが悪い状態で、ライブハウスっていうところで。で、結構あの、3月くらいまで営業はしてたんで、そんときもなんかよくわからん、よくわからんっていったらあれですけど、40代50代の一般の方からクレームの電話とか結構来てたり。何してるんですか?みたいな。わかってますか状況?みたいな。それこそうちの子どもがライブ見に行くって言ってお宅に行ったんですけどみたいな。どういう状況ですか?みたいなのが何件かあったみたいで。そういう人の方が多いっていうイメージはあるので、結局そういうイメージって多分、悪いイメージの方がこびりついてしまうじゃないですか、やっぱり。だから収束した後の方が、あの、あいつら再開しますとか言ってたけど全然やってたよなって。むしろ悪いイメージもたれたりとか。ほんとにうまいことやらないとダメだよなっていうのは思ってます。

*:そんなことまで起こってたんですね。

A:起こってましたね。2月・3月ぐらい。またかかってきたって言って、店長が。

 

活動できないことによる「バンドじゃない」感覚―ミュージシャンとしての困難

■さらに、ミュージシャンとしての困難は次のように語られる。直近のライブイベントの出演をすべて見合わせざるをえず、またそれに伴って、CD等のリリースやツアーなど、決定されていた年次計画がすべて見直しとなっている。

*:バンドとしてはどんな感じなんですか? やっぱイベントできないと辛いとか、問題が起こってる感じなんですか?

A:もちろんライブはしたいですし、まあ4月全滅したんで、4、5本あったんですけど、全滅して。えーっと、夏にミニアルバムをリリースするのが決まっていて。その、さっき言った、収束した後の方が考えなかんって話につながるんですけど、あの、夏頃には絶対収束してると思うんですけど、じゃあそのタイミングでリリースしますって言うのはどうなんだろうって。それこそ、そこからツアーも始まったりするので、2か月くらい伸ばした方がいいのかなとかちょっと今迷ってる感じですね。

*:そこに影響が出るんすね。年間スケジュールが全部変わるじゃないけど。

A:そんな感じですね。リリースするってなったらイベントもするし、ツアーやるっていったら一個だけじゃないので。関わるライブハウスが。沢山、全国のライブハウスに行く。なんならもう東名阪はもう秋口に押さえてある状態だったんですよ。なんでどうしようかっていう。そこが一番ありますかね。リリースどうするっていうところ。ライブできないのはしょうがないので。

 

■また、より実際的な問題として、スタジオが休業していることによって、練習やレコーディングといった基本的な活動すらもできなくなっている点が強調されている。ゆえに、ミュージシャンとしてのモチベーションを維持することが難しくなり、ミュージシャンとして、またバンドとしてのアイデンティティも揺らがざるを得ない。

A:ここ結構、僕個人的に一番言いたかったんですけど、あの、自粛とはいえやっぱりモチベーションを保つために練習はしたいと思うんですよ、みんな。それこそレコーディングとかあったらその前に、リハスタ入りたいですし。スタジオが、そのスタジオが休業してるんですよ、今。で、レコーディングをやるところはオッケーしてくれてるんですけど、練習自体はどうなんだろうって。まだちょっと分かんない。でも、スタジオも入れないわ、レコーディングもできないわで、全てが止まりますよね。

*:そこが一番バンドとしては困ってるとこになる?

A:困って、それと、まあモチベーション維持のためのスタジオが入れないっていうところが一番辛いですかね。

*:やっぱあれですか、バンドマンとしては一カ月二ヶ月練習できない状況ってかなりモチベーション的には参る感じですか?

A:うん、きついと思います、結構。メンバーに会えないっていうのもきついと思いますし、腐っても大きい音好きだと思うんで、演奏してる瞬間だったりとか、言っちゃえば自分に酔える瞬間というか、バンドマンって絶対あると思うんですけど、それがライブだったり演奏してる時間だと思うんですよ。それがないって結構、もうバンドやってないみたいなくらいだと思うんで。バンドじゃないというか。

 

収入の激減と就職への移行

■ライブイベントのキャンセルが続く中で、ライブハウスXでは、A氏を除くアルバイトスタッフ全員を「休ませる」方針がとられた。これは解雇といった措置ではなく、あくまでも一時的な対処としてなされたものである。他にアルバイトを掛け持ちしていることや実家暮らしであることなど、通常の勤務の中でインフォーマルに共有されていた情報をもとに、対応策が考えられたのである。これらの要件をいずれも満たさないA氏だけが、その後休業するまでの間、社員とともに勤務を続けることになった。

*:収入的には2月・3月は普通にあったんですか?

A:ありましたね。でも減ってはいましたけど、3月は。

*:やっぱライブハウスから入ってこなくなった分?

A:はい、だいぶ減りましたね。でも、僕以外のバイト全削りだったんですよ。3月の時点で。

*:もう来なくていいですみたいな?

A:もういいよって。人も足りてるし、イベントも少ないし。出勤日数が合わなくなってくるんで、社員は。だからバイトは削って全員社員で回すとか。でも僕はずっと出してもらってた。

*:じゃあバイトの子たちはほんとに無給で? 3月とかは。

A:だと思います。でもバイトがライブハウスだけっていう人は、僕以外にいなかったんで。他にもやってたりとか、それこそ学生の子たちとかだったりしてたんで。まあだからいれてもらえてたんですけど、僕が。

*:ああ。困るから。

A:はい、生活が。それこそみんな実家暮らしとかだったんですよ。バイトの子たちが。

*:割とその辺の事情を聞くみたいな感じだったんですか? バイト無くしてもこの子たち大丈夫かなみたいな。

A:そうです。そこはもう働きながらみんな知ってる情報だったんで。なんか言わずもがな僕残してもらえた感じでした。

*:で、最後にはAさんも無くなったのか。

A:無くなりました。

 

■ライブハウスでの仕事が激減し、やがて無くなったことを受け、A氏は就職を決意する。当初19万円近くの収入を見込んでいたが、それが3万円まで減ってしまったからである。このように、音楽文化を支え、ライブハウスに生きる者たちの生活が大きく変わっていることを、次の語りは明確に示していよう。

*:ライブハウスからの給料は、3月いくらくらいになったんですか? 結局。

A:僕個人ですか?

*:うんうん。

A:3万とか。

*:それ当初いくらくらいの計算ですか? 普通にやってたら。

A:当初はそれこそ19万とか。

*:それ、やっぱ生活できんよね、そうなったら。

A:できんすよ。ライブハウスで働けて18万とか19万とかで、もうさぼったら終わりな生活してたんですよ。で、いざこういう状態になって、その言っちゃえば、確定していた18万とか19万とかが無くなったわけで。これはちょっとあの、色々考えた結果、シフト制の所に就職。

*:それがきっかけで就職したの?

A:これがきっかけです。

*:じゃあコロナなかったら就職しようなんて思ってない?

A:思ってないですね。僕言っちゃえば、極端な話、一か月前の自分では考えられなかったです。今のこの状況が。就職してるなんて。自分の口から就職したなんて言葉が出るとは思いもしなかったんで。

 

ライブハウス・バッシングをくぐりぬけて、音楽文化を取り戻すために

■最後に、今回の新型コロナウィルス感染拡大を受けて、ミュージシャンであり、ライブハウススタッフでもあるA氏が求める今後の展望について確認しよう。それは端的に言えば、ライブハウスへのバッシングにいかに対処するか、ということである。音楽の作り手としてのミュージシャン、伝え手としてのライブハウスのほかに、その受け手となる多くの人々の協力がなければ、音楽文化をめぐる「サイクル」を再び動かすことは難しい。音楽文化を取り戻すためにこそ、私たちの認識にもう一度立ち戻る必要があるのではないだろうか。

*:Aさん的には、やっぱ社会の意識というか、バッシングみたいなものの方がちょっと切実な問題な感じになるんですかね?

A:そうですね。結局、ライブハウスというか、音楽っていうものが、その、発信する先が結局人なんで。で、しかも、音楽やってる人が音楽やってる人にではなく、音楽やってる人がその他大勢に、だと思うんですよね。一般層というか、言い方ちょっとあれですけど。それをしていないと生まれないサイクルじゃないですか、音楽って。音楽作って発信して受け取ってもらって、拡散されて。その受け取り手に今、軽蔑されている状態で。何もできるわけがない。

*:だから今、音楽をやろうものなら拒否されちゃうわけですよね。

A:うん。ライブ行かないよっていう状態じゃないですか。そんなんやれるわけがないし。もちろんあの、そんなん関係なしにライブ見に行きたいっていうコアな子、ライブハウス慣れしてる子は勿論多いと思うんですけど、でもそういう子たちだけじゃないので、今。