Music Unity 2020 のその先を見据えた設計
山田将行(秋葉原 MOGRA 店長)インタビュー

文責:日高良祐
取材日:2020年4月20日(月)

2009年にオープンした秋葉原MOGRAは、アニメソングやアイドルソングなど秋葉原らしい音楽ジャンルから最先端のクラブミュージックまでもが幅広く鳴り響く人気のDJバーである。またオープン当初からイベント現場のインターネット配信を積極的に展開し続けており、ネットを通じて数多くのDJ・ミュージシャンを全国に向けて紹介してきた。こうしたオンライン/オフライン双方での活発さにより、秋葉原MOGRAは2010年代のインターネット音楽を牽引する代表的なハコの一つとして認識されるようになっている。店長の山田将行は、自身もDJとして盛んに活動しつつ、株式会社MOGRA代表取締役としてそうした特徴的なハコ経営を行なってきた。

新型コロナウイルス感染拡大の状況を踏まえ、MOGRAは3月28日に休業(4月15日まで)を発表した。さらに緊急事態宣言の発表を受け、4月9日には営業自粛期間の延長(5月31日まで)を発表している。その一方で、全国各地のクラブをイベント配信によって接続するオンラインストリーミングフェス「Music Unity #MU2020」を企画し、4月4日と4月18日の2回にわたって配信イベントを成功させた。2回目のMusic Unityは10万人を超えるユニーク視聴者を集め、同時最大で1万1000人超が配信を視聴するという規模であった。

以下では、MOGRAが休業にいたるまでの事態の展開やMusic Unityの企画と運営の方法論、またそれらの状況における店舗スタッフへの配慮などをテーマに、店長の山田将行から聞き取りを行なった内容について報告する。

 

休業にともなうスタッフへの対応

最近は全然行けてなくてすみません。まず、MOGRAの経営形態や、音響・照明を含めたスタッフ規模などを確認させてください。

山田将行(以下、山田):いやいや全然。クラブなのでしょっちゅう来てる方がおかしいので大丈夫ですよ(笑)。もともと地下のフロアだけで公称キャパ100人だったんですが、今は上のフロアも増えていてそちらで50人くらいなので、だいたい150人ぐらいのキャパですね。出たり入ったりが可能なので来場者総数は多いのですが、同時収容のマックスは150くらいって感じですかね。

ぼくが代表取締役で、その下に社員が2名いて。あとはアルバイトが全部で17人かな、今。けっこういるんですよね。(音響・照明に関しては)うちはちょっと特殊で。もともとMOGRAの副店長的な業務をやっていた竹山という人間がいるんですけど、うちが(2019年5月に)法人化するタイミングで前の会社のディアステージを辞めまして。そのタイミングで彼は個人事業主として音響の仕事を始めて。うちはそこに外注をしている形ですね。

■MOGRAでは政府の借入制度なども活用しながら従業員の休業対応をしていると聞きます。

山田:そうですね。けっこう早い段階からうちは動いてたんです。社員に関しては休業手当を出すよりも普通に仕事を振って働いてもらった方がいいなと判断したので、休業に関する制度は使用してないですね。

アルバイトに関してはイベントが無いと仕事が振れないんですよね。タイムカードとか働いた証明に基づいて給与計算しないといけないので、働けてない以上は給料出せないんですよ。仮払いとかもしてあげられなくて。もともと雇用保険に加入していない人間に対しての休業手当というのは存在しなかったんですが、4月の頭かな。対象の中に雇用保険に加入していない、要は非正規雇用者に関しても休業手当を出しますよというのがハローワークから出たんですね。ただ、今行くとハローワークに人が集中してしまっているので、オンライン手続きが可能になったら休業期間分遡ってアルバイトに支払ってあげたいなと思ってます。

COVID-19の影響で一番かわいそうなのは、やっぱり関わってるアルバイトの子たちだなとはずっと思ってます。そこが今回変わっただけでもでかいなとぼくは思ってるので。この制度とかはちゃんとしっかり利用させてもらおうかなって感じですね。

そういう支援制度に関する情報収集は、山田さん個人で行なっているのでしょうか。ほかのクラブやライブハウスとも情報交換をしているのでしょうか。

山田:そうですね、基本的にはネットでばーっと情報集めたり。知り合いまわりで会社経営の方が多いので、そういうところで細かいネットワークじゃないですけど、今ここどうやってるよとかの情報をみんなで連絡取りつつ。いい情報があったらちゃんと共有して動いてますね。

(そのネットワークは)基本的に同業ではなくて、みなさん全然違う異業種の代表とかの方が多くて。そういう方からの、うちはこうしてるけどおたくのとこはどうしてる?とか、うちはこういうのできないんだけど山田さんのとこどうしてんの?みたいな話を、みんなで連絡取り合ってます。やっぱりそういう人的なネットワークみたいなのがあったから、わりとスムーズに動けてるのかなという気はします。

そもそもクラブやライブハウスって、同じ地域にあるところで仲いいところはあんまり無いんじゃないかと思うんですよ。基本的にはやっぱり敵対勢力みたいな話じゃないですか、ちょっと言い方悪くなっちゃうんですけど(笑)。その点うちは競合ゼロですし、自分がアーティストとして全国各地を回っているので、お店側の人たちとの繋がり方が特殊といえば特殊で。そういうのもあって、一番最初のMusic Unityに参加してるクラブさんとはうちはいつ閉めるよとか、いまどういう形で資金繰りしてるよという相談はしてましたね。

 

「Music Unity 2020 #MU2020」の開催とスタッフへの配慮

各地にあるクラブを遠隔会場として繋げていくライブストリーミングフェス「Music Unity #MU2020」は、ネット配信に力を入れているMOGRAならではの重要な試みだと思っています。第1回が4月4日、続く第2回が先日4月18日に開催されました。

山田:本当に特殊なパターンで今までたぶん前例は無いかと思うんですよね。普通にクラブ事業をしてたらなかなか辿り着かないというか。

■Music Unityの実際の運営はどのように行なわれたのでしょうか。とくに、配信事業を行なう際のMOGRAスタッフの関わり方について教えてください。

山田:それが、基本的に社内はぼく1人でまわるんですよ。そもそもDJ配信って、金や時間をかけてまでやるものではないだろうというのがぼく個人の考え方なので。社内はぼくだけですけど、別の会社さんにもお願いして制作チームを作ったので全部で4人とかかな。2回目に関しては、1回目である程度の実績が取れたので、ここは社員に振れるよね、ここはアルバイト使えるよねっていう形で仕事を増やして。

2回目は社員に1人本格的に入ってもらったのと、あとは今回は寿司の配達をやったんですよ(笑)。あれに関しても、別に寿司で売り上げをあげようというわけではなくて、懇意にしてる飲食店と手を組んでぼくらはこういうことができるんだから、誰かこれを発展させてもっといいやり方を考えてほしいという趣旨でした。一個の提案としてやってみた形なんですよね。あれに関してはうちでアルバイトスタッフ5人と、あと知り合いのちゃんとした人たちに車を運転してもらって。そこの部分のお金は配信の方からまかなえてるという感じです。

各クラブに対しても負担をかける必要がないようにしました。基本的にはみなさんにやってもらうのは、配信環境のチェックと足りないものの購入、アーティストのブッキング、あとはお店のロゴと名前を貸してくださいの3点だけお願いしていて。あとはこっちで全部やりますよということで初回やったんですよ。実際はみなさんそれだけじゃ申し訳ないっていろいろ動いてくれたんですが。

■Music Unityの開催時は先ほどの外注先のスタッフにも仕事として発注したのでしょうか。

山田:クラブ事業の外注先は一切入ってないですね。ライティングとか音響さんって、現場が無いと仕事が発生しないじゃないですか。うちからも仕事は振りたいけど振る先が無いというのが正直なところですね。

(彼らとは)けっこう普段からSlackとかでやり取りしてますね。気軽にチャットで、どうなってる?とか、なんか仕事無い?とか連絡が来るので。うちの場合は長く深く仕事していける相手を選んでいるので、いきなり仕事ないからさよなら、みたいなことはないですね。

■MOGRAでは無観客配信も今後考えていると聞きます。その際には外注先とも連携する予定があるのでしょうか。

山田:いちおうそれはやろうと思っていて。無観客配信って言うのは簡単ですけど、やる時期とかやるタイミングとかについてはしっかり検討してる感じですね。

さっきの竹山の話なんですけど。彼はもともとMOGRAにいたので配信まわりのノウハウがあるんですよ。なので、たとえば配信のノウハウがないお店とかがうちにヘルプを求めてきたら、じゃあ竹山に頼んでみるので竹山と一緒にやってくださいみたいに仕事は振れるなとぼくは思っていて。

でもこれってもともと音響さんがやる仕事じゃなくて、MOGRAにいたからできるだけなんですよね。音響の人とか照明の人とかはこの動き方はできないんですよ。配信において照明が必要かというと、もちろん演出としてあってもいいとは思うんですけど。じゃあ、配信の人間が動きます、アーティストがいます、照明音響を揃えましたって時に、このくらい予算かかるけど果たして実際に配信で収益が取れるのかといったら、誰も取れないと思うんですよ。そうなると優先順位が発生してしまうので、今まで通りみたいに仕事はまわんないんじゃないかなとは。残念ですけど、これはもうしょうがないと思います。

ハコから配信してますって言うのは簡単ですけど、要は新規企業じゃないですか。そんなポコポコみなさんができるわけがないんですよね。なので、こればっかはやっぱりちょっとしんどい、ですよね。

 

持続的にお金がまわる仕組みをつくる

■Music Unityでは、グッズや食べ物を売ったりという、周辺事業との連携が行なわれていたのが興味深かったです。

山田:あれに関しては、さっき制作チームが4人くらいいるって言いましたけど、もう1人、株式会社KOTOWARIって会社の代表取締役の佐藤さんという方がいるんですね。その人はもともとMOGRAで遊んでるような仲いいおじさんなんですけど。その人もやっぱり会社の仕事が飛んでヒマだーって言っていて。何か配信でうまくお金がまわる仕事作れない?って相談がきたのがきっかけなんですよ。基本的にはぼくも配信で何かやろうとは思ってたんですけど、お金にする方法がやっぱりなくて。佐藤さんはチョコレートの輸入販売業もやってるんですよ。バレンタインとホワイトデーがすっ飛んじゃって売る先がないから売りたいんだよねという話を提案してもらって。そこからぱっとひらめいてがーっと企画まわしたという感じですね。

やっぱりただ寄付を募るというやり方は、なんかちょっとあんまり健全じゃない気がしていて。結局ぼくらがクラウドファンディングやらないのはそういうところに理由があるんですよ。あくまでお客さんに楽しんでもらった結果とか、ちゃんと満足の先にお金が生みだされるべきだとぼくは思っているので。別にこれはクラウドファンディングやってる人たちを批判するわけではないんですが、ぼくの精神性としてそれがあんまり合わないなというのがあって。お客さんは商品を得る、経験を得る、それに対してちゃんと正しい金額を支払う、その結果としてみんなが潤う。そういうのが商売のあり方としては正しいとぼくは思っていて。そういう背景もありつつ、佐藤さんからも相談いただいたので、じゃあ行こうという感じで決まったようないきさつですね。

MOGRA周辺のいろいろな事業と連携することで、持続的なお金の動きというか、お金がまわる仕組み自体を作ろうとしているということでしょうか。

山田:ハコ運営って、なんだかんだで一回まわり始めたらあまり手を付けなくていいから、ビジネスとしてはけっこうイージーといえばイージーなんですよ。そうなんですが、このコロナがいつ終わるかわかんないみたいなタイミングで、MOGRAとしてはのんきに構えてることもできないなというのがあって。だったら、やっぱり稼げる方法を探って事業の転換をしないとこれは絶対にやばいぞと思ったんですよ。なので、これを機にクラブやライブハウス専門の配信事業者になろうかなくらいのつもりで動いてますね。

ちょっと話それちゃうんですけど、超有名などこかのお店がいざ配信をやりますって始めたとしても、お客さんは絶対つかない。なぜなら関連性のない新規事業だから。ゼロからのスタートなので今までのクラブ経営のノウハウがほぼ意味なくなっちゃうんですよ。もし配信業者に外注したとしても、配信業者自体の数が日本に少ない。さらにクラブやライブハウスの演出に理解がある業者なんて存在しないので、結局は成功することができない。そうなんですが、そこをMOGRAに外注してもらってうちがコンサルすれば、みなさんは新規事業に参入せずにお店として経営を続けることができますよね。そういうのを全部うちで請け負うくらいの覚悟で今やってます。

今MOGRAの(Twitch)チャンネルでMusic Unityをやっているのも理由があって。うちはもうそもそも3万人とかのフォロワーを抱えてる場所なので、みんなを紹介できるという利点があるんですよ。これはみんなにとっても利点なわけで。要はプラットフォームを用意しなくても、そこの3万人に乗れるわけじゃないですか。かつ、同時視聴であんな1万何人とかって相当大規模なので、広告宣伝効果とかで考えればかなりお金出してもいいレベルの宣伝になってるはずなんですよ。

これを何回か続けていくうちに、各クラブが独自でチャンネルをつくって、そういうところの運営をちゃんとうちで請け負ってあげて、クオリティコントロールとか番組制作の手伝いまでちゃんとやってお金をもらえれば、うちはうちで生計が立つし、みなさんはみなさんでちゃんとクオリティの高いものを配信できるし、ユーザーはだんだん分散化してどんどん広がっていけるという。そうすると、お客さんは払いたいとこに払えばいいし、うちはうちで取引先がクラブになるので、そういうところからちゃんとお金をもらえば、すごいちゃんとビジネスがまわるはずなんですよ。このビジネスモデルが今一番健全な気がしてます、正直。

となると、新しい事業を立ち上げるようなことなんでしょうか。

山田:そうですね。うちは去年の5月に法人化してるんですけど、ちゃんと定款のなかに「インターネット配信ビジネス」と入れてあったので(笑)。ここで活きてきます。怒られないですね。

 

Music Unityの今後に向けて

投げ銭がけっこう集まってるように見えました。どれぐらいの規模なのでしょうか。

山田:初回はドネートだけで300万ぐらいをいただきました。プラス、チョコレートの販売の方で200万くらいなので、だいたい500万くらいは1日でお金を作ることができたという状態です。ですがさっきも言ったとおり、うちではほとんど人間が動いてないので、うちがもらいすぎてもしょうがないので予定よりも多く各クラブさんへ還元させてもらいました。配信業者さんとかサーバーのお金とかもまかなうと、多少手元に残るかなという感じではありますね。ただ家賃を結局は払わないといけないので(笑)。あとは社員を動かしてる分とかを考えると、普通に何もしなかったらだいたい200~300万はすっ飛んでいくので。そこの補填になったのは全然ありがたいですね。

今後も同じようなスパンで続けていく、日本全国に向けて広げていく、そういう見通しでMusic Unityを行なっているのでしょうか。

山田:理想はもちろん、全国のいろんなクラブが平等に参加できることなんですが、えっとやっぱり、これってなんだろうな、広がれば広がるほどクオリティや盛り上がりが下がっていくというジレンマがあって。ageHaさん、clubasiaさんなど東京の有名クラブからスタートしたので、これから先広がったらどんどん参加するお店の規模は小さくなっていくじゃないですか。じゃあそこが強いアーティストを出してこれるのかというと、予算や人脈などからして出せない可能性の方が高いですよね。

なによりも、最初はMOGRAと配信やったらおもしろいよねという、こっちの狙いがちゃんと伝わる人たちとできるからバズが生めるんですけど。だんだんだんだん広がっていった情報の先には、なんか流行ってる配信だから乗っとこうという、うわべだけの感想しかやっぱり伝わらないと思うんですよ。アウトプットってそういうものなのでしょうがないんですけど。そういう人たちが参加したいとなった時に、じゃあこういうことをやってくださいねというのに対して、100%以上のレスポンスが返ってくるわけがないと思っていて。ここはちょっと今うちも悩んでるところです。なので、続けていくとは思うんですが、全国のクラブを平等に扱うというのは、現実的にはクオリティコントロールの観点から無理なんだろうなとは正直なところ思っています。

■Music Unityに新しく参加したいという連絡は各地のハコから来ているのでしょうか。

山田:そうですね、かなりの数いただいていて。やっぱり2回目やってみないと読めないなとは思ってたので、いったんお戻しは止めてたんですけど。2回目をやって配信のデータとかを全部照らし合わせると、視聴者数は増えているのに動いている金額は減っているんですよね。このまま広がっていくと盛り上がりはどんどん下がっていくような気がするんです。なので、店舗側とそれぞれのアーティストが、企画の趣旨と配信というものの仕組みを完全に理解してくれる人たちでないと組み込めないなというのがあるので。なので、これからのMusic Unityとしてのやり方をどうするのかは、ちょっと考えていかなきゃいけないなという気がしています。

 

MOGRA営業休止までの段取り

あらためて営業休止までの事態の移り変わりについて聞かせてください。休業を決定した際は、今後についてどのように見通しを立てていたのでしょうか。

山田:このコロナでやばいぞという見通しがたったのは、たぶん1月末とかだと思います。そのタイミングでうちは政策金融公庫で金借りようと決めていて。そこから2月中ぐらいで、うちで抱えてる税理士さんとかうちの株主とかに話を聞きにいったりとかをばーっといろいろやっていて。具体的にコロナの影響に対する貸付みたいなのが発表されたのは、たぶん3月ぐらいだったと思うんですけど。そのタイミングでうちはもうお金を借りることを決めていました。あとはいくら借りれるのかというところだったんですが、無事にけっこうまとまった額が借りられそうだったので。じゃあ毎月300万くらい消えるとして、おそらく夏秋までは無理だろうという予想をその段階で立てて。じゃあ3月末から閉めるか、という流れです。

開けといてもメリットがないなということに具体的に気がついたのが3月頭で。要は、アルバイトは動かさなきゃいけないし、でも開けたところで世の中のクラブ・ライブハウスの批判がけっこう強かったので単純にお客さんが来ないという状況で。あ、これやってても無駄だなということに気がついたのが3月第1週ぐらいですね。いや、2月末か。2月末くらいから怪しいなと思って、3月第1週でもう決めた感じですね。

(具体的なきっかけとしては)「あきねっと」というイベントを5月24日にやるはずだったんですけど。それも1月末からアーティストのキャンセルをけっこうたくさんいただいて。これやばいなというのがたぶん一番最初ですかね。5月のイベントのキャンセルを決めたのも3月なんですけど。そのタイミングだとハコの保証金、キャンセル保証みたいなのが満額かかるんですよ。なので何百万か払って。こないだTwitterに書いたんですけど140万ぐらい。消費してないのに消費税がかかってるやつ(笑)。ああいうのとかもあったので。

それでも売り上げがたつんだったら、無理矢理にでも開けた方が良かったんですけどね。世の中のイメージ、いちいちキャンセルをする手間、従業員を動かすコスト、あと何よりも感染者のリスク。こういうところを全部考えると、これは早急に閉めた方が得だなというので、うちは閉めるのを決めた感じですね。

ほかのハコがどう対応しているのかなどの情報収集や共有はしていたのでしょうか。

山田:やっぱり各クラブの状況はしょっちゅうLINEとか電話で確認していて。具体的には川崎の月あかり夢てらすさんとか、渋谷のasiaグループさん。あとは北海道も確認して。moleさんとか。あとは同じ秋葉原のエンタスさんとか。いろんなところにやっぱり確認して。今週どうするかみたいなのを、けっこう頻繁にいろんなところに聞いて。そんな感じが多かったですね。

■Music Unityの第1回にもつながるハコとの連携ですね。そういったネットワークでは、どこが音頭を取って情報共有をするなどの仕組みはあるのでしょうか。

山田:ないですね(笑)。単純にハコの決裁権を持ってる人たちと仲がいいってだけなんですよ、うちって。月あかり夢てらすも社長さんと昔から仲が良くて。moleさんに関しても自分が何回も呼んでもらってるので決裁権持ってる人と密に連絡が取れるとか。clubasiaさんももちろんそうですし。なんか、こういうのをちゃんとまとめてる社団法人というか、ちゃんとした協会があればいいんですけど。絶対に事業団体があった方がいいと思うんですよ。無いからこそ、ライブハウス・クラブが今めちゃくちゃ弱いという状況があると思うんですよね。

それこそ、Music Unityきっかけで、そういう経営団体みたいなのを作っちゃった方が得なんだなとは思っていて。そういうのがちゃんと無いというのが、今の状況の悪さにつながってるなとはやっぱり思いますね。あまりにもお店同士の連携が取れていない。でもだいたいそういう団体とかに入ると、結局は派閥問題とかで荒れるんですよね。結局は誰かの利権でケンカになってしまうので。

■Music Unityがボトムアップなやり方で団体のようなものになると強いですね。

山田:そうなっていくのが本当は理想なんですけど。一方、Music Unityのこの流れというのは、おもしろくない人たちも絶対いるんですよ。なので、そういうところとこの状態でギクシャクするみたいなこともあってほしくないので。あくまでも、こちらの提案する企画内容とか動き方に賛同してくれる人たちだけでいいとぼくは思ってるので。

 

「生き残ること」を越えて

緊急事態宣言を受けて休業期間を延ばしていますが、十分な資金の準備ができたと判断したからなのでしょうか。また、新型コロナウイルス関連で提示された借入利息の特例などを活用しているのでしょうか。

山田:休業するという時点で、もう体力勝負になるというのはわかっていたので。とにかく借りられるだけの金額を全額ひっぱってきたという感じです。うちとしては、年内は耐えていけるぐらいの用意はした上で、休業発表をしてますね。

ただ、ほぼ利息取らないよと言いつつしっかり取ってるんです。なので、そこも結局のところ、みなさんがやってるのが、COVID-19に対する貸付を借りるのか、たとえば法人化なりして日が若いから新規事業立ち上げのための運転資金として借りるのか、いろんなやり方があるんですよ。なんにせよ、体力がなかったら現金用意しとかなきゃいけないので借りるしかないんですけど。うちはそのへんうまくちゃんと税理士付けて、試算表とかも全部まわしたりとか。そういう準備をちゃんとしてたので借りられたんですね。

借入プランから休業にいたるまでの具体的な段取りを含めて聞かせてもらえているので、ほかのハコにとっても価値のある情報になるのかなと思っています。

山田:うちはこういうことやってるよという情報を出すことで、ほんとに困ってる人が参考にしてくれるのはいいんですが。単純に、おまえのとこは金借りれていいよな、みたいな妬みが出てくるのもあるんですよね。それは自分のせいじゃんって話なんですけど、うちがそれで自分のせいじゃんって言うとケンカになっちゃう。基本的にはそういう意見は全部シカトするしかないんですけどね。

(そういう)妬み嫉みみたいなものをほかのお店から聞くことはまだないんですが、やっぱり事情があって借りられない、みたいなクラブさんは多かったような気がします。個人事業主でやってるクラブだと借りられる金額が少ないとかもあるんですよ。個人事業でやっていても結局家賃は法人でも個人でも変わらない。払う額がでかすぎるというのはたぶんあるし。個人でやっていると、お金の借入しんどいんだなとは思います。

東京都が「感染拡大防止協力金」制度を始めました。今後も新しい支援制度が出た場合は、アプローチするつもりなのでしょうか。

山田:もうしっかりと税金払ってるので、基本的には出たものは全部使います。さっきのハローワークとかもそうですし、ちゃんと有益なものかつ自分たちにとってプラスになるものとかは、しっかり選んで使う予定です。

今ちょうど休業補償手当みたいなものがあるという話でしたが、クラブを配信スタジオとして使用した場合は休業補償手当が出ませんよみたいなのをSaveOurSpaceさんが発信していて。ここでちょっとまた問題になってくるのが、ライブハウスやクラブの営業のあり方のそもそもの部分。何の申請で店をやっているのかというところで変わるんです。少なくとも特定遊興、興行場、飲食の3パターンがあるはずで。クラブやライブハウスとしてまとめて括る限り、全員が恩恵を受けられる制度というのは出てこないはずです。あまり深く掘り下げると日本でのクラブやライブハウスの在り方みたいなところまで話が広がってしまうのでここでは言及はしないですが、こういう背景をしっかり理解している人たちが音頭を取ってくれることが理想ですよね。

■SaveOurSpaceのような運動についてはどう考えて対応しているのでしょうか。

山田:同じように店を経営する人たちのためになったらいいなと思って、一番最初の署名には個人として名前を預けたんですけど。それ以降の動き方が自分の考えてる方向と違ってきたので、個人としてもMOGRAとしても特に賛同しているわけではないですね。

なんというか、経営者からすると補償されたらいいんだけど、じゃあ補償されたそのお金で経営を続けていけるのか?とは思うんですよね。なので、補償を求めることが全てではなくて。その間にどうビジネスを立て直すかということを自分は優先してる感じです。

新しい補償制度を求めるだけではなく、いろいろな経路を通して独自に資金を用意しつつ、持続的にお金がまわる仕組み自体をつくろうとしていますね。かなり意識的に新しい生き残り戦略をつくろうとしているように見えます。

山田:仕事って「分かんない助けて」だけで済まないじゃないですか。自分でやらないといけないので。ただ状況が状況なので、動くことのできるうちみたいな団体や場所が率先してやり方を示すことで、何かうちもできるんじゃないかという風にほかの人が動くきっかけになる。そこにぼくらがこういう動き方をする意味があると思っているので。うちがやるべきことは、一個の成功例というか、こういうのもあるんですよという一例を見せてあげること。これがうちが今一番やるべきことかなと思っています。 

 

クラブ経営の周辺に見る新型コロナウイルスの影響

最後になりますが、山田さんの身の周りで具体的に困ってる話を聞いていますか。この業態やこの人物に話を聞くべきだというものがあれば教えてもらえますか。

山田:やっぱり一番困るのは末端ですよね。アルバイトの子たちが一番困ってる。でも、アルバイトの子たちはまだ影響が出てないんですよ。3月まで営業してたものの給料が4月に入ってくる子が多いので。なのでこれからなんですよね。具体的にいうと、5月6月ぐらいからお金がなくなってしまうんだろうなとは思っています。アルバイトにまで影響が出るということはどういうことかというと、配信をやった時に今お金を払ってくれている人たちのお財布事情が怪しくなる。そうすると今度はこっちのビジネスが成立しなくなるんですよ。なので、今一番サポートしないといけないというか、お金が必要なのは本当に末端の人たちで。そこがやっぱり一番困るんじゃないかな。

あと業態でいうと、次に困ってくるのは大家さんじゃないですか。大家さんに対しては、お店とか住居とかの家賃の支払いを免除してやれじゃないですけど、そういう動きもあったと思うんですよ。でもそうしたら、大家さんかわいそうじゃん、みたいな話にももちろんなってくるので。だからといって、店舗の場合、お金が払えないから出てってくださいっていって出て行ったとして、ライブハウスとかクラブって基本は原状復帰退去のはずなんですよ。スケルトンに戻してから出なきゃいけなくて、でもスケルトンに戻すためのお金が無いはずなので。結局のところそこどうすんの、みたいな話にはなってくるんじゃないかと思います。

あとは、さっきクラウドファンディングの話がありましたが。クラウドファンディングって一時的なものじゃないですか、寄付に近いので。あれでお店が継続できなかったら、クラウドファンディングで将来使えるはずのドリンクチケットとか入場が無料になりますみたいな期間がそもそも存在しなくなることに、みんなが気づいてるのかどうかが不安だなと思っていて。こういうこと言うと、夢も希望もないこと言うなよみたいなことをTwitterとかで言われてしまうんですけど、間違いなく今は夢も希望もない状況ですよ。これは仕掛ける側がちゃんと考えないといけなくて。クラウドファンディングではCOVID-19の影響はその場凌ぎにしかならなくて何も解決しないんですよ。

やはり持続可能な支援のあり方が必要ということですね。

山田:結局のところ、何が解決策なのかというと、どこかから現金を引っ張ってきて我慢するしかないんですよね。会社の経営者がなんとか頑張って現金を用意して耐えるしかない。その上で、ダメージを極力減らせるビジネスで存続していくしかないですよね。

 

「秋葉原MOGRA」ウェブサイト
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