コロナ禍におけるコンサートホールの実態とは? 西巻正史氏インタビュー

文責:吉田早希(東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科)
取材日:2020年7月22日

新型コロナウイルスの感染拡大は、コンサートホールの運営にどのような影響を与えているのだろうか?
コンサートホールにて企画の運営を行ったり大学でマネジメントに関する講義を行ったりしている西巻正史氏に、緊急事態宣言下でのコンサートホールの状況や今後の展望についてお話を伺った。

なお、当インタビューはメールで行われた。また、ご本人のご意向によりホール名は特定されないように伏せている。

緊急事態宣言/自粛要請下での状況について

◼︎イベント自粛要請から自粛解除までのホール運営の動きについて教えて下さい。

【イベント自粛要請から緊急事態宣言発令まで】
西巻:主催公演および貸しホール公演はすべて中止ないし延期となりました。また3月末に査証制限措置が行われたことにより、外来アーティストの招聘が不可能となり、4月末までの公演もすべて中止(延期)となりました。ホールのスタッフは連日出社し、中止等の発表や日程調整(延期の場合)、またお客様への連絡や払い戻しなどの対応をしておりました。

【緊急事態宣言発令から宣言解除まで】
西巻:4月8日から5月末まで臨時休館とし、営業を停止しました。必要に応じてスタッフが出勤し、5月6月の公演中止(延期)の発表やチケットの払い戻し対応、また4月以降発売予定だったチケットの発売日調整や会員様へのDM発送などを行っておりました。

◼︎自粛要請に伴う減収はありましたか。またその主な理由はなんですか。

西巻:具体的な数字はお示しできませんが、非常に大きなダメージを受けました。
減収の主な理由は貸しホールの収入、主催公演のチケット収入、主催公演開催に伴うスポンサー様からの協賛金などです。

◼︎自粛要請下において、どのような対策を行いましたか。
 
西巻:全ての公演を中止ないし延期にし、スタッフは全員自宅待機となりました。必要に応じてリモートワークで業務を進めました。

◼︎国や自治体の補償制度は活用しましたか。

西巻:はい。使えるものはすべて申請して使わせていただき、活動の一助となっています。

◼︎コンサートホール自粛要請について、どのようにお考えでしたか。

西巻:コロナウイルスが未知なるもので、あっという間にこれだけ世界を覆いつくした以上、ある程度の自粛は仕方ないと思っています。個人的には、この自粛の時間をどのように受け止め、ポジティブに活用できるか否かで、今後のアーティストとしての活動、或いは社会活動の中でのポジショニングが違ってくると思います。世の中があまりにも便利になり、世界中を飛び回っているのが日常になり、ものを考えたり、じっくり作ったりすることにかける時間がなくなっていたので、ダメージは大きいですが、この機会に一度立ち止まって、振り返って、未来を見つめ直すにはいいきっかけになったと思いたいですね。

今後について

◼︎自粛解除後はどのような運営や運営における対策を行っていますか。
 
西巻:座席配置については前後左右1メートルのソーシャルディスタンスを確保できる配置を基本に、有効席数を減らしております。また、チケットの販売は、いわゆる「第2波」に備える必要性を考慮し、段階的な販売を導入しております。

◼︎今後はどのような見通しを立てて活動を行っていきたいとお考えですか。

西巻:業界内では、いかにコロナ以前のように戻すかという議論が盛んにおこなわれているように思いますが、以前と同じには戻らないと思っています。アフター・コロナ、ウィズ・コロナ、いろんな言い方があるようですが、いかにコロナ後の世界を新たに構築していくかにしか興味はありません。

その他コロナに関することについて

◼︎ホールでの企画運営以外で、何か活動していらっしゃるお仕事があれば教えて下さい。またその活動がコロナによってどのような影響を受けたのかも合わせて教えていただきたいです。

西巻:ホール外での活動も基本的にはストップしてしまいましたね。レッスンも他地域でのコンサートもいまは開店休業状態です。続いているのは、大学のリモート授業くらいでしょうか。

◼︎音楽活動に対するバッシング(主にライブハウスやクラブの活動に対するもの)について、どのようにお考えですか。

西巻:抗議する人がいることは想定できるし、ある程度理解もできますが、一人が(特にメディアとか声の大きい人がちょっと一言)言い出すと寄ってたかって非難するのは、いかにも日本人的行動ではないでしょうか。いつも悲しい気持ちがします。

コロナによって音楽活動に制限がかかっている状況ではあるが、西巻氏はその現状を受け止め、いかに未来をより良くしていくかについて非常に前向きに思案しているように感じた。音楽産業だけに関わらず、我々はこのコロナ禍において「できないこと」に目を向けがちになっているように感じる。コロナが蔓延する前を最善の状況と捉えその状況に戻すために努めるのではなく、日々更新される状況を受け止め、その時々で最善を尽くしていくことが重要だろう。

また当プロジェクトではポップス関連に携わる方々へのインタビューが多かったが、今回はまた別の角度からコロナ禍の音楽産業についての視野を広げることができた。これを機に今後もジャンルの垣根を越えて更に広い視野でコロナ禍における音楽産業を見ていきたい。