文責:大久保真由
取材日:2020年6月12日
平日は仕事に向かい、週末になれば自分の楽器を持って音楽スタジオに集まる——。音楽活動をするのは演奏で収入を得る人々だけに限らない。営利を目的とせずミュージシャン活動をしている人々も多い。
今回取材したEatlooseもそうしたバンドの一つである。新型コロナウイルスはバンドの活動にどのような影響を及ぼしているのか。
【Eatloose】 東京を拠点に活動しているthe Beatlesのコピーバンド。普段の練習場所は浅草にある台東区生涯学習センターの音楽練習室。月1回ほどのスタジオ練習と、年に数回のライブ出演を行なっている。過去には、ライブハウス銀座TACTやレストラン黒船亭などでライブを行ってきた。活動歴は約10年。
【Eatlooseメンバー】(写真右から)
- 今井康夫さん(57歳・男性)ギター・ボーカル。会社員。
- 青西 芳春さん(59歳・男性)ギター・ボーカル。イベント企画関連の会社を経営。
- 根津貞夫さん(70歳・男性)ドラム。医療関係勤務のち早期退職。
- 桜井敏之さん(43歳・男性)ベース。自営業。
今回の調査の「プロジェクト発足にあたって」にある通り、音楽文化・音楽産業を取り巻くのは、音楽活動によって収入を得る者だけではない。趣味として音楽を楽しむリスナーやミュージシャンもまた音楽を「作る」存在である。
今回は日程の都合上、青西さん、今井さん、根津さんの3名にインタビューを行った。記事内容は、ZOOMでのインタビュー内容を基に加筆・構成を行った。
なお執筆者はEatlooseのサポートメンバーとして2019年の9月頃から不定期で練習に参加し、キーボードを担当している。今回の記事は、サポートメンバーとしてバンドに参加してきた体験も踏まえつつ、インタビューによってバンドの置かれた状況を改めて整理し、音楽産業にまつわる現状の一例として調査・報告することを目的としたものである。
Eatlooseについて
■:まず改めて、Eatloose結成までの経緯を教えてください。
根津:元々みんな知り合いだったんですよ。銀座TACTなどでイベントを主催してるSさんの繋がりで。Eatlooseになる前は、青ちゃんと僕と桜井ともう一人の4人でバンドをやってたんですよ。黒船亭にも1~2回出演していたかな。
今井:ある時ライブの前に、前のギターの人が病気になっちゃったんだよ。
根津:そう、で、その彼が出れなくなり、今井ちゃんにお手伝いしてもらいませんかって話を持ってったの。そしたら結局イベント自体が潰れてしまってね。今井ちゃん活躍できなかったんです。でもせっかく4人で集まったんだから、このバンドはこれとして少し練習しましょうかっていうことになったの。
最初は今井ちゃんを主に置いて、「いまいーとるず」って名前で活動してたんだよね。それがスタート。それから「Eatloose」って名前にして、今に至るんです。Eatlooseは約10年くらいかな。
青西:10年も経つかな?
今井:10年くらい経つと思うよ!
青西:そっかあ…考えたくないなあ(笑)
■:現在のEatlooseの活動は、月に1回ほど集まってスタジオに入って、その後は反省会(という名の飲み会)で居酒屋へ行くというのがいつもの流れですね。当時から練習の頻度は変わらないでしょうか?
根津:当時から大体月に1回くらいですね。
青西:練習自体は月1回くらいだけど、Sさん主催のイベントで、銀座TACTには毎週末のように出ていたよね。
■:イベント主催者のSさんを中心にして、バンド外でも色々な交流があったんですね。
根津:基本のEatlooseは4人でね。みんな良いメンバーですよね。練習が終わると今井ちゃんは毎回と言って良いほどかならず「楽しく演奏ができた」「楽しかった」っていう。僕らは基本、音楽を通じて楽しく活動ができることを目的にしてる。その辺に関しては今井ちゃんに語ってもらえれば…。
今井:わはは(笑)。自慢できるメンバーなんですよ。飲んでてもね、嫌な感じにもならないし、御行儀の悪い話もしないし(笑)。音楽以外の教養やニュースや他愛のない話も色々あって。年が離れてるんだけどね、気が合うからね。それもまた面白いっすよね。世代世代で考え方が違ったりだとか。
新型コロナウイルスと日常生活
■:ところで、皆さんは普段の生活の中での新型コロナウイルスの影響はいかがですか?特に青西さんのお仕事はイベント関連ということで、かなりの大打撃を受けていると伺っています。
青西:最近は仕事なにもしてないよ。全く。家事しかしてない。今井ちゃんはほとんど出勤してるんでしょう?
今井:そうだね、会社のほとんどの人たちはテレワークにしてるけど。一応なんというか管理職だからずっと出勤してたよ。ただ、人がいないから色々と捗るし、机の周りも綺麗(笑)。通勤も快適だし。でもここ数日は電車も混んできたよ、街の中も全然普通。
根津:そうですね。私も電車はたまに乗ります。街中は人が戻ってきている。コロナ以前よりは乗客は少ないけれど…今の乗車率はコロナ以前と比べると70%くらいかな。
■:緊急事態宣言の時に比べると、都内は徐々に人が戻ってきているようですね。スタジオ練習の後はよく浅草周辺の居酒屋に行ってましたが、あの辺りのお店は営業しているんでしょうか。
今井:やってるやってる。海外の観光客が多かったけど今は少ないから空いてるみたいよ。
根津:今は飲み屋とかは夜12時までなら普通に営業してるところも多い。飲み会だけならオフラインでもできるね(笑)。でも、練習で集まりたいね。
音楽活動への影響
■:音楽活動の面では、新型コロナウイルスの影響をどのように感じてらっしゃいますか?Eatlooseは、レストラン黒船亭でのライブイベントが延期になってしまいました。
根津:コロナの影響で言わせてもらうと、一番切実なのは、練習の場所がなくなっちゃった事だね。出演予定だった黒船亭が延期になったこともそうだけど、むしろ練習スタジオの問題。
青西:そうだね、むしろスタジオのことが大きいよね。今は一般の民間のスタジオは使えるようになってるみたいだけど。僕らがいつも使ってる台東区生涯学習センター(以下:学習センター)の練習室はクローズになってしまった。
根津:緊急事態宣言があけてからは学習センター自体は開いて、図書館とか会議室とかは使える。でも音楽スタジオだけは”密”だし換気ができないし。音楽スタジオだけが完璧に使えない。練習の場がない。
[補足] 公共施設に併設された音楽スタジオは民間のスタジオに比べて格安でレンタルが可能である場合が多い。
公共施設の音楽練習室が使用不可に
■:現状、学習センターの図書館とか会議室とかは使えるんですね。音楽スタジオだけは使えない、と。
根津:緊急事態宣言の時に、学習センターに何回か電話したんですよ。その時は施設は全面的にしまっていたけど、電話対応とか担当する人が残っていた。その時点で職員の人は、音楽練習室の使用人数の上限を減らしてこまめな換気をすれば使用可能になるんじゃないかって言ってたんだ。だけど結果的には駄目になってしまった。防音の関係でどうしても”密”になってしまう。一応換気装置があるにせよそれじゃ不十分ってことだね。
もしこの先再開するとしたら、何分かに一回は練習中に換気をして使うことになる(笑)。あとは人数制限ですね。これまでは8名まで使えたけれど、上限を4名までに減らす、という話にもなった。
でも現状は全く使えなくなってる。この先、どういう状況になれば使えるのか分からない。台東区の施設だから、国なり都なり……行政の方針に従うことになる。独自に開放するってことはできないんだね。
■:ちなみに使用料は返ってきたんでしょうか。
根津:コロナ関係の場合はね、全額返ってくる。6月まで練習室の予約していたけど、無条件でキャンセル。まあ使用量が返ってきたところで練習ができないならしょうがないな。
■:今まで使ってた練習場所が使えなくて、落ち着いて集まることもできないって辛いものですね。
青西:ネット上で演奏する人たちも出てきるよね。
■:確かに、動画配信している人は多いですね。各自が動画を録って多重録音のように重ねたものもありますが、一発録りでセッションできるソフトもありますね。
根津:同時に録音する場合、YAMAHAが出してるシンクルームなんかは良いんじゃない?ZOOMとは違ってタイムラグも非常に少ないとか。まあでもライブの生とは違うものだよね。特にドラムなんかはね、俺は今シンセドラム持ってないからインターフェイス持ってたって送れない。生ドラムも家じゃ叩けないし。
出演予定だったライブイベントの中止
■:Eatlooseは黒船亭に出演する予定でした。出演キャンセルになる経緯について改めてお伺いします。
根津:こちらからキャンセルしたんですよね。
今井:ただあの時は、お店の側も、キャンセルしてもらった方が…という感じだったんじゃないかな。
根津:お客さんの方も来づらい部分があっただろうから、無理してやることもなかった。
■:私は黒船亭でのイベントにまだ参加できてないんですが、他にも何バンドか出演する予定だったんですよね。
根津:何組か出て共演する感じだった。僕らのバンドと、もう一つバンド、あとはボーカルの人も出る予定だったね。
今井:みんな知り合いだよ。プライベートパーティという感じ。
根津:ホームパーティという感じだよね。
今井:場所自体も、ライブハウスというよりもパーティルームみたいなところだから。レストランに楽器があって演奏ができるというところ。主宰したのも知り合いだから、ブッキングのキャンセルとはまた違うような感じ。
音楽活動ができない現状
■:5月中旬頃にバンドのLINEチャットグループで、根津さんが「全てのバンド活動が中止になってしまった今は手足を捥ぎ取られた気分」と仰っていたのが非常に印象に残っています。

根津:僕なんか特にもう仕事をリタイアしてるしね。音楽がやりたかったから早期に退職したんですよ。特に僕は(体力を使う)ドラムだし、はっきり言って後10年できるかなって思ったんです。60歳の時。でもやっていけばできる。今でも、なんとかできてるし。
今井:いやいや、なんとかどころか。こんなこと言っては僭越ですけど、さらに上達していると本当に思います。昔から上手かったけど、根津さんさらに上手くなってるなって。別のバンドで共演した時に客席で見てたりすると本当に思います。
根津:それは努力もしてきたけれどね。とにかく、音楽をやるために仕事も早々やめて、音楽一本でやってきた。幸いいくつかのバンドが受け入れてくれた。でもコロナの影響で全てが、全部中止になってしまった。
最初のうちはストレスとしてあまり感じていなかったけど、やっぱり時間が経つにつれて「ああ、すごいストレスだな」と思うようになった。演奏できないこと、仲間と演奏ができないっていうことがね。
僕らはプロのミュージシャンでもなんでもない。でもね、バンドやりたいなと思ってるところにこの状況が降りてきちゃったから非常に残念。
【インタビュー後記】
その後も、最近の趣味の話、会議中にメンバーのお子さんが画面に登場、など、様々な話題で盛り上がり、2時間ほど”ZOOM飲み”が行われた。最後には「今回も結局そんなにthe Beatlesの話せずに終わっちゃった」と笑いながらの解散となった。
今回取材したEatlooseのように、”趣味のバンド”という存在も確実に音楽の文化の中で息づいて、そして音楽という文化を形成してる。
【参考:新型コロナウイルス流行以降のバンドの大まかな動き】
1月24日 黒船亭に出演する際のセットリスト(曲順)がほぼ決定する。
3月9日 この時点では黒船亭でのイベントは開催する予定だと報告が入る。
3月15日 スタジオ練習を行う。次回の練習日が4月下旬に決定する。
3月中旬 出演予定だったイベントの中止が決定。
3月28日 黒船亭でのライブ予定日 (中止)
4月上旬 台東区生涯学習センターに今後の確認をする。そこで3月31日から5月6日までの間は施設の使用出来なくなることが判明。そして、それ以降の予約もできない。予定していた練習が全て中止になる。
5月以降 緊急事態宣言が解除され、台東区生涯学習センター内の大半の施設の使用は利用再開するも、音楽スタジオのみが使えず現状に至る。