「芸術をやってる人たちにとっては表現の場を失うってことそれ自体が芸術家生命を奪うことだから」役者兼作曲家の方へのインタビュー

文責:境実鈴(東京藝術大学大学院) 取材日:2020年4月6日

この一連の調査では、新型コロナウイルスの流行に伴う自粛要請の直接的な影響が見えにくい個人の声を聞くことを目標にしている。具体的には、比較的安定した会社に所属していたり、そもそも生活の経済的基盤を自分の芸術活動からの収入に頼っていない人々に、現在の新型コロナウイルスの影響について話を伺った。幅広い職業の方に取材を重ねていくことで、新型コロナウイルスの影響の多様性に光をあてていきたい。

今回取材させていただいたE.K.さんは現在24歳、社会人3年目。事務所に所属しながら劇団の研修生やフリーの作曲家として活動する傍ら、学童保育施設で非常勤講師として働いている。


 

「演劇は音楽とか映像とかと違って、やっぱ生でやらなくちゃいけないことだからそこが難しいなあと思う」

◾ コロナウイルスの流行に伴う自粛要請による影響が自身に及んだのはいつ頃からですか?

3月末に予定していた舞台がなくなっちゃって。まあその公演は正直痛手となるほどの出費でもなかったけど。それに、3月末の公演は日中の仕事のあとにやるような稽古形態だったから、なくなったところで「昼の仕事をその分抜いてたのに!」みたいな、「だったら働けてたのに!」みたいな収入減も特にない。

あとは、所属している劇団の方で週に1回、持ち回りで劇団の大先輩がやってくれる発声滑舌・ダンス・演技の3種類のレッスンがあるんだけど、それが3月の最終週から4月いっぱいはとりあえずやらないことになったかな。

 

◾ 今後の仕事は短期的にはどのようになっていくと思いますか?

6月中旬に予定されていた舞台も昨日中止が決まっちゃったから、4月の第3〜4週間から始まるはずの稽古がなくなった。だから、4月の後半2週間分の勤務がどうなるかはまだちょっと不明、かつ稽古がなくなってしまったからスケジュールとしては真っ白。本番日は6月の10〜14日だから、もしかしたらそれまでにはこれがおさまってて、本番が行えるかもしれないんだけど。だとしても客席数を減らさなきゃいけなかったりするだろうし、あと1番には稽古ができない。大規模公演だったから、1回に50人とか集まって喋って踊ってとか言うともう濃厚接触でしかないから。私、公共施設を稽古場として予約してたんだけど、私がとってた大田区の施設が1ヵ月の休館が決まっちゃって。てなると稽古場もないし、今、稽古自体がやれない世の中で、十分な稽古ができないまま本番を迎えるというのが結構厳しい、ていう判断だと思う。私もそうかなぁと言う気はしていた。出たかったけどね。

 

◾ 長期的な影響にはどのようなものがあると思いますか?

今のところ9月にもミュージカルを予定していたんだけど、4月中にオーディション情報を出して、5月にオーディションして、7月くらいから稽古開始する感じだった。でも、このままいけばオーディションができない可能性もあるなと思っていて。それこそこれが半年続くとか言ったら9月だって10月だってだめになっちゃうから。それに関しても別に収入がもらえるわけでは無いから、ただ「表現の機会を失う」だけだけど。でも、芸術をやってる人たちにとっては表現の場を失うってことそれ自体が芸術家生命を奪うことだから。このままいったらみんなの芸術家生命がどんどん枯れていくから。今オンラインでできることをやってる人もいっぱいいるけど、そうやって生きていくしかないよね。でも、演劇は音楽とか映像とかと違って、やっぱ生でやらなくちゃいけないことだからそこが難しいなあと思う。

急にここで就職すると言うわけにもいかないし、というかできないだろうし、逆にバイト先を変える意味もないよね。いろんな通勤のリスクだったりとか、飲食だったらそもそもやってない、とかあるから。今の職場を続けることが1番の安定でもあるから。まあ落ち着くまでは。あと、ありがたいことに実家だからとりあえず何もしないで一文も稼げないよりかは稼ぎ口があるんだったらまあ、ね。リスクはあるけど。子供たちとは濃厚接触だから。2メートルは取れないからね。いやマジでね、ほんとにすごい狭い施設なんだけど定員が今年から増えちゃって、今まで65人ぐらいだったのが80人になっちゃって。だから全員は来ないんだけど、でもやっぱりすごい人が多くて、しかも外も出れなくて。ほんとに来なくて済むなら来ないほうがいい。

これがいつまで続くかわからないけど、少なくとも4〜6月は全部空いちゃったから、その間はとりあえずそこ(筆者注:学童保育施設)で働く。事務所から案件が来て通れば行くけど、どんどん不要不急の案件はなくなるはずだから。今テレビの収録とかドラマとかも延期になって、再放送になってなってるじゃない。その中で新しいCMを作るだとか、広告を作るっていうのもどれだけ許されるかわからないくなってくると思うから。そういう時に仕事があればやらせてもらうって感じだけど。

 

根本的な質問なのですが、劇団の給与制度を教えていただけますか?

給料っていうものはないですね。チケットを売ったら売った分だけ、1枚につき500円とか返ってくる感じで。そう、だから、儲からないんだよ。むしろみんな稼いだお金をそこにつぎ込んでるから。だから、お金を稼ぐということ、が演劇の目的にはなり得ないというか、ならないよね、という。私はどうやったら舞台という最も儲からない芸術が食べていけるものになるんだろうってすごい思ってるけど。で、劇団は年に大体2公演やってるから、その公演の大体1ヶ月前とか2ヶ月前とかくらいから稽古や準備とかが始まって、終わったら次の公演の前までは特に何もなし、みたいな。で、若手は公演のない間は週一でレッスンを受けさせてもらってるって感じかな。全員、講師をしてたりとか、ダンスの先生やってたりとか、芝居の先生やってたりとか、他の仕事をやってみんな食い扶持は稼いでる。

 


 

「このままでいくと正直者が馬鹿を見るということになる気がしていて」

国に求める減収対策はありますか?

この業界がそもそも安定した収入の世界じゃないから「月いくら稼いでるから何割減ったから補填」っていう考え方が多分厳しいと思うんだよね。例えば、音楽家さんとかで1回の演奏あたり大体いくらぐらいもらってて、月に大体いくらぐらい演奏会があってという計算すらできないじゃない、こっちの場合は。舞台が年に何本あるのかによっても違っちゃうからね。だからどうしたらいいんだろう。

でも思うのは、すべてキャンセルになっていくという事は何が1番大変ってやっぱり会場費なのね。絶対に。下手したら1年前とかから押さえてて、キャンセルできなくて、何十万、下手したら何百万を払っちゃってる。結局収入ゼロなのにうんと払わなくちゃいけないっていうのが、どの劇団もどの主催者も多分1番大変なはずで、それこそ無観客で配信して多少動画で収入を得るとかしたとしたって、それは逆にスタッフ費とか資材費とかが全部出ちゃってる。そしてそのプラスの足が出ちゃってるのを多少動画収入で補えるけど、それは赤字を補填するというよりかはこの公演をどんな形であれやるって言う意志の方が多分強いってことだから。だから、日本の芸術を、日本のアートの世界を潰さないためには、まずは「死なせない事」が大事、というか、このままでいったら自己破産する人がたくさん出て、みんなホームレスになって家がなくてってことになるから。身を寄せられる人がいればいいけど。だからすべてのハコ代を肩代わりするというか、チャラにするというのが。もちろん、チャラにしたらそのハコ自体を貸してる会社が潰れちゃうから、キャンセルになった劇場費用を、国が肩代わりしてくれるみたいなのがあれば、最も最短のルートで人々を救えるかなという気がする。劇団レベルで言えば、もうほんとに個人事業主の集まりだから、誰かがよっぽど貯金があって、なんとか今肩代わりできる、そして後々みんなが稼いだ後に少しずつみんなで助け合うということができる人は生き延びられるけど、できない劇団の主催者なり制作さんになり、誰かがほんとうに自己破産になっちゃう。

だから、商業演劇なのかアングラなのか小劇場なのか、とかに関わらず、申請があれば会場費を返すっていう措置があればいいなあとは思う。個人の保証も欲しいけどね。多分、基準が難しい。どうしたらいいかわからない。それ(筆者注:ハコ代の保証)は最低限やってほしいことだけど、でもそれはプラスにはならないじゃん。マイナスを埋めるっていう措置。で、舞台の人たちに関しては別に舞台がなくなったからといって出費がなくなるとかはあんまりない。だから、収入の補填はあんまり考えてないけど、音響さんとか照明さんは現場がなくなってると思うから、こういった職業の人たちには、月何本ぐらいやってたとか何円ぐらいもらってたとかそういうことで収入のある程度の補填が必要じゃないかなと思う。その人たちには月十万なり補助が出ればいいなとは思うね。

 

新型コロナの影響や自粛要請について思うことはありますか?

毎日思ってるのは、「自粛」は本来自分から辞めるものであって、それを要請しちゃってる時点で、もうそれは「自粛」じゃなくて「強制」なの。でも、お金を出すから休んでくれじゃないじゃない、日本は。お金を出すから休業してください、じゃなくて、休業してね、お願いしますねとはいうけどお金の事はなにも言わない。それは結局、みんなの善意に頼ってることでしかないというか、このままで行くと正直者が馬鹿を見るということになる気がしていて。ちゃんと自粛要請に従って感染を広げないようにしている人も別に救われないし、何なら破産するし。でも一方で、店を開けてれば誰かが来るから自粛要請に従わない方が多少は店が儲かって。でもその人たちのおかげで感染が広がって、っていう。これじゃあ正直者が馬鹿を見る世界だって思う。

休むならまず先にお金が必要だし、そんなん一律で30万円給付したら1円も収入が減ってない人は儲かりすぎるって言う意見もあるけど、もうそれでもいいと思うんだよね。もらいすぎちゃう人がいて、善意で返してくれる人がいればそれはそれでいいし、もらっちゃうならもらっちゃっていいと思うけど、まず一律で払って国民を全員に死なせない事にすることの方が大切。全員が救われるようにお金を、とりあえずマスクいらないから配って欲しい。お金の申請は膨大な書類がいるし、しかも役所に行かないといけない、みたいなのが本当に本末転倒じゃない。なんでそんな混んでるとこに行かないといけないの、って思うし。それも結構給付の基準が厳しいっていうことが言われてて、収入が半分になったとしてももらえない人がいるんだよね。非課税になる基準の2倍ぐらい減ってないといけない、みたいな。要はフリーランスの場合は月収が3万以下にならないともらえないんだって。それは、そもそもどうやって生きていたんだろう?みたいになっちゃうから。とりあえずお金をみんなに配って欲しい。もらいすぎちゃうことより、お隣さんが死なないことの方が大事でしょう、と私は思う。だから自粛自粛っていうのはすごい無責任というか、善意を利用してるっていうのが気に食わない。

あと、谷健一が言ってたのが、演劇業界は1番自粛を頑張ってる、と。やっぱりどこもやってるところはやってるし、その中でやっぱり演劇って本当にやってるほうの方が少ない。みんなただただ善意で自粛してる。自分の風評被害を受けないっていうのもあるけど。何の保証もないのに、それでも世界を守るために活動自粛している演劇業界はむしろ褒められてしかるべきだ、みたいなことを言っていて、それもそうだなと思った。お金が回らないとか経済が止まるとかそんなことどうだっていいじゃん。人が死なないことの方が大事じゃんって思う。