Webシンポジウム内容報告「COVID-19によるライブハウス文化への影響〜現状報告」

本記事では2020年11月8日 (日)にZOOM、YouTube Liveを用いて行われた本プロジェクト主催のWebシンポジウム「COVID-19によるライブハウス文化への影響〜現状報告」の内容について報告する。
このシンポジウムでは特に中・小規模のライブハウス文化に焦点を当てながら、COVID-19による影響について把握、共有するために実際の現場に関わる人々からまさに「現状報告」的な声を集めることを大きな目的とした。

登壇者は以下の通り (五十音順、敬称略)
阿部健太郎 (日本音楽会場協会 代表)
石垣陽菜 (ミュージシャン)
奥野大樹 (ミュージシャン、作編曲家)
加藤梅造 (LOFT PROJECT、SaveOurSpace)
コバヤシアツシ (ミュージシャン、音響業)
Nozomi Nobody (ミュージシャン、SaveOurSpace)

冒頭では司会の宮入恭平氏(社会学者、ライブハウス研究者)がオープニングトークとして「ライブハウス」というものがCOVID-19の感染拡大下においてどのような状況にあったかを概説した。

宮入氏は「今年ほど世の中で「ライブハウス」という言葉が聞こえた年はない」とし、2/15に大阪で発生したライブハウス内でのクラスター発生以降、感染症の危険地としてシンボル化=スケープゴート化した上で風評被害を大いに招くような報道が多数なされた状況について語った。また菅義偉新総理大臣の政策理念である「自助・共助・公助、そして絆」について取り上げ、感染症発生以降「補償なき自粛」を求められたライブハウスはまさに自助、(クラウドファンディングなどの)共助を模索しつつもそれだけでは立ち行かなくなり、公助を求めていく必要が生じたと指摘し、その流れの中でこれまで見過ごされてきた「ライブハウスの政治への働きかけ」が起こり、その実践として今回の登壇者である阿部氏が代表を務める日本音楽会場協会や、加藤氏とNozomi氏が参加するSaveOuSpaceなどの活動に非常に注目していると話した。

宮入氏は「ライブハウス」という言葉の指す対象の曖昧さ、そして比較的規模の大きいライブ業界の声は報道にも乗りやすいが中小規模のライブ業界の声は通りやすいとは言えないという問題も取り上げ、今回のシンポジウムではそうした声を可視化しながら様々な業種が関わり合いながら成立しているライブハウスというもののエコシステムも意識しつつ、ライブハウスに演者として関わるミュージシャンや裏方業の人々はどんな意識でいるのか、ということを共有していきたいと語った。

最初の登壇者である石垣陽菜氏は主にジャズ、ポップスの領域で活動するベーシストであり、ルルルルズ、TAMTAMという2つのバンドにメンバーとして加入している。石垣氏は昨年までの形態であればバンドでの制作及び演奏活動、ジャズクラブでの演奏活動や楽器のレッスン業+お小遣い稼ぎ程度のアルバイトという内訳で活動していたが、今年はライブが (そもそも企画されなかった分の見込みも含めて)計50~80本キャンセルになった影響で収入が大幅に減り、アルバイトが主な収入源になっていると語った。

石垣氏の所属するバンドでは今年 4月と5月にそれぞれリリースがあり、本来であれば今年は発売に伴ったライブの開催や全国へのツアー、フェスティバルへの出演など露出の多い一年になる予定で、実際に2月時点で多くの予定が組まれていた。しかしCOVID-19の発生により何十件というイベントが中止もしくは延期になり、4月から6月半ばまではライブが0本に。6月末から無観客の配信ライブなどが月2、3本のペースで入るようになり、最近である11月になってからようやく有観客のライブが復活したという。特に地方でのイベントは延期でなく中止になる傾向があり、ライブをやるはずだったお店が閉店しイベントが中止になる例もあったとのこと。

現在もライブ活動は無観客、配信のものが主になっているというが、石垣氏の周りのミュージシャンの間ではよく「無観客ライブの限界」が話題になるという。無観客のライブではライブの内容に毎回変化をつけるのが難しく、お客さんを飽きさせないような工夫について悩んでいるミュージシャンは多いという。宮入氏はこれを受けて「配信ライブというものが世の中に飽和している状況がある」と話した。
石垣氏本人の希望としては感染症対策の上でライブハウスという空間の中で有観客ライブを行い、プラスで配信も行うというスタイルがベストだとしつつ、今だコロナ禍が収まっていない中お客さんを気軽に呼びづらいという状況もあるため現状での有観客ライブへの復帰は難しいのも非常にわかる、と語った。

続いて登壇したのは鍵盤楽器奏者・作編曲家の奥野大樹氏。石垣氏と同じくルルルルズというバンドに所属しながら1000人規模の動員を伴うバンドなどにサポート・キーボーディストとしても帯同する一方作編曲家としてテレビドラマやアニメの音楽制作、ポップス関連のアレンジなどを行う「二本立て」で活動している。

宮入氏から今状況下における収入への影響について聞かれると、二種類の仕事をしながらそのバランスを調整できる雇用形態ゆえにトータルの収入額自体は比較的小さい変化で済んでいるとしながらも、仕事のバランスに関しては完全に影響を受けており、ライブ演奏の仕事は計50本ほど減って二桁万円台の収入減少があったと語った。9月から12月の土日も本当なら全部演奏の仕事で埋まっていたが、これらも一旦全てなくなってしまった。演奏の動員規模が大きくなればなるほどある種の「お手本」にならないといけないという状況もあり、特に移動を伴う地方公演の開催は非常に難しく、演者側の自己判断での中止も多かった。「世間体を気にする」ということの必要性も規模が大きくなればなるほど大きくなったという。

地方公演が難しくなったことに関連し、日本におけるポップミュージックの中心地である東京や大阪から地方にツアーが行くことが地方のお客さんにとってすごく重要な体験なのではないかと奥野氏は実感している。地方の会場においてライブ開始前のかなり早い時間から会場が満員になっていたりする風景などを見て、ライブ開催の機会自体が都市部に比べて希少である地方でのライブは一回一回がお客さんにとってのメモリアルで、生きがいになっていることも多いのではないかと推測し、地方公演が行われなくなった結果、地方の数少ないライブ会場が閉じてしまったりすることでライブの体験機会が失われることが音楽文化全体に及ぼす影響は相当大きいのではないかと語った。

また配信ライブに関する演奏者目線の具体的な話も上がった。奥野氏は7月ごろから配信ライブに関わっているが、平素ポップ・ミュージックの中に多く見られる「コールアンドレスポンス」などお客さんを巻き込んだタイプのアクションが一切できないという制限を始め、曲間に拍手がないため何らかの方法で曲と曲を繋がないといけないなど従来にない変化に音楽の演奏内容も対応する必要があり、それがなかなか難しいとのこと。形態の変化に合わせてお客さんをどう楽しませていくかということに関してはまだみんなが模索中で、これを数年かけて模索していく必要があるという印象だという。

最後に宮入氏から「自身の今後のビジョン」に関する質問を受け、奥野氏はもちろんお客さんの前でやるのがベストだとしながらも、物理的にそれが難しい現状の中では「今まで通りの100%」を同じように提供するのは無理だとし、演者とあらゆるスタッフが一体となって毎回効率的に質の高いライブを生み出す方法について考えたいと話した。

また、昨今のミュージシャンが政治的なことに対して発言できないというレッテルを貼られてそのままになっていることが現状の難しさにもつながっているとし、まずは発言する、身近なところで話を共有するだけでもいいから少しずつでも声をあげて事の重大さについてアピールする事の必要性を感じる気持ちが強いということだった。

3人目に登壇したのはコバヤシアツシ氏。石垣氏、奥野氏と同じくバンド、ルルルルズにギタリストとして所属する一方中小規模のライブハウスなどでのPAエンジニア業も行い、それとは別に公共の音楽ホールの管理業も務めている。
PAエンジニアとしての仕事は感染症の影響で3月に4件が中止になり、それに伴うキャンセル代は出なかったという。これを中心に、3月の経済的損失は約20万円にのぼった。PAの仕事はその後10月になってようやくしたが、それまでは一件も入らなかったという。

コバヤシ氏が管理業に携わるホールは公共施設であるため。4月5月は役所の判断によって全ての使用予定がキャンセルされた。春〜夏の間は全くイベントができず、9月中旬になってようやく規模を縮小した上でイベントや発表会が行われるようになってきている、会場の使用に関する規制は段々と緩和されてはいるが、例えば声楽のコンサートの場合飛沫の飛散に備え前方の席を全て封鎖するなど、会場側の判断でも入場を制限せざるを得ない部分が多いといい、今だ入場者数は満員の半分以下で設定している場面が多い。

仕事の変化として、6月以降政府ガイドラインの制限緩和に伴って演奏の収録・録音および配信という仕事がかなり増えているという。これはコバヤシ氏が従来行ってきた仕事とは異なる領域の知識も多分に含むため、勉強する量や作業量はかなり多くなっているとのこと。石垣氏、奥野氏の談話にもあった配信ライブに関する制作者側の事情に関して、コバヤシ氏はエンジニア側からの視点として「演奏の変化がつけづらいこと」「機材の使用量、会場の使用量、人件費など総合的に経費が非常にかかるにも関わらず集客が難しく、マネタイズが難しいこと」を指摘した。

また配信のエンジニアリングはまだ方法論が確立されておらず、エンジニアによってやり方が異なる状態が続いているため業界全体が毎回模索しながら配信を行っているという話も。「ライブ配信」は完全に発展途上で、これが落ち着くまでにはかなり時間がかかりそうだという。一度きりの生ライブに関わるPAとアーカイブが残る配信のPAではプレッシャーの大きさが全く違い、回線が落ちたり音が送れなかったりした時の責任問題など、配信技術者にかかる負担は大きいとのことだった。

最後に文化庁の文化・芸術業従事者向け助成金「令和2年度 文化芸術活動の継続支援事業」についての話に。PAエンジニアはライブのフライヤーなどに名前があまり載らないため、助成金の申請用件の一つである「プロとして仕事をしている証明として自分の名前が載ったパンフレットなどを送る」という申請条件を満たすのが非常に難しく、そのほかにも行政関係の公演は有料公演とみなされないなど多数の困難によって4回の差し戻しを受けた後ようやく申請が通ったという。事務局も人によって言っていることが全然異なるなど、文化芸術業の従事者へのサポートとして整っているとは言えないということであった。

後半は主にライブハウス文化に中から携わる方々が登壇。4人目の登壇者である阿部健太郎氏は日本国内・国外を問わず会場や人を繋いでネットワークを作るという仕事をずっと行ってきた経験から、コロナ禍にあってそれを危機回避に転用できるのではないかと考え、3月に「日本音楽会場協会」を立ち上げ。代表として現在まで活動を続けている。
今年2月〜3月、コロナ禍初期の状況下でライブハウス業界が混乱していた際、阿部氏は都や行政とのやりとりをする中で「ライブハウス同士を繋ぐ連絡網があれば便利だ」という言葉を聞いた。それならば、と手をあげる形で協会の設立に至ったといい、当初非公開にしていた情報発信用のYouTubeチャンネルを公開に移したり、政府ガイドラインの策定に関してライブハウス協会、ライブハウスコミッションなど他の団体と共に関わっている。活動内容に関してはのちに登壇する加藤氏、Nozomi氏らが関わるSaveOurSpaceが早めの段階で活動を始めたのを見て、別の観点から行動することを決めたという。
日本音楽会場協会が関わるガイドラインの改善という点に関して、東京都からは特に様々な要望・意見書に対して返事をもらえない状況があるという。阿部氏は行政がなかなか動けない事情、行政組織の複雑さなどには理解を示しつつ、一人のオーナーだけによる店舗経営も多いライブハウス業界の現場は常に「今が勝負」なのにも関わらず行政がゆっくりしたスピードでやっているのに合わせていたらスピードは当然ずれてしまうという点を指摘した。

阿部氏によれば、一連の行政とライブハウスを巡る状況は「何の根拠があってそういう規定、ガイドラインになっているのか」ということが明確に示されていないことが非常に大きい問題であるという。また、業界同士の力関係の中で中小規模のライブハウスが弱い立場にある中で「リスクのある場所」として象徴的な場所に仕立て上げられてしまえばやはりどうしようもなく、今まで良くも悪くも政治との結びつきがなかったこのライブハウス業界の中に「物言うポジション」のようなものを確立してやりとりがなされるべきだとも話した。

5人目に登壇した加藤梅造氏は新宿ロフト、下北沢シェルターなど10店舗以上のライブ会場を経営するLOFT PROJECTの代表であり、COVID-19の状況下において国に対し適切な助成を求めるプロジェクトであるSaveOurSpaceにも継続して関わっている。
東京都に緊急事態宣言が出された今年の3月28日のほぼ直前である3月20日、LOFT PROJECTが経営するライブハウス「渋谷ロフトヘブン」で行われたライブにおいて感染症のクラスターが発生した。加藤氏はコロナ禍で受けた一番の影響はその際受けた全国への集中的な報道と強烈なバッシングであったと語り、その処理に追われた4月は今振り返れば「コロナ鬱」で、店をやめようか、この仕事はもう無理なのではと思い悩んだという。
DJ NOBU氏らによって発起されたSaveOurSpaceが『新型コロナウイルス感染拡大防止のための文化施設閉鎖に向けた助成金交付案』への署名活動を発起し、4日間で30万筆以上を集め国会へ提出したのが3月末〜4月はじめのことだった。加藤氏はその時期あまりにも手一杯だったため一連の動きに関しては側から見ている状況だったというが、バッシングで落ち込む中この30万筆以上の署名は加藤氏にとって「唯一の救い」だったという。

クラスターの件が落ち着いた4月末ごろ、ライブハウス業界全体の問題として「適切なガイドラインの策定」が持ち上がっていた、加藤氏によれば、当初ライブハウスコミッション (2016年に風営法の改訂問題を受け結成された社団法人で、(株)スペースシャワーネットワーク代表の近藤正司氏が代表理事を務める)が中心となって厚生労働省とのやりとりがなされていたが、国側から出される条件は厳しくなる一方で、制限は実質営業できないようなレベルに達していたという。

その後阿部氏の日本音楽会場協会なども加わり合議がなされ、6/20にようやく東京都から公式のガイドラインが発表されたが、それも「観客、演者、スタッフの間に1mのソーシャルディスタンスを取らなければいけない」という制限を中心に全く実質的なものではなかった (この制限に従うと、平素100~200人を収容するライブハウスでも10~20人しか観客を入れられないことになる)。このガイドラインは実際のところ廃業命令に等しかったため緩和の申し入れが行われ、9/25にようやくディスタンスを外した改訂案を発表できたということだが、今だライブハウスの最大収容人数は50%にとどまっている。
(クラシックのイベントの入場制限は9/19に100%に緩和された。参考URL: https://news.yahoo.co.jp/articles/06e748db68f380a50fa7c78bcedbb192e6ee5802)

最後に助成の話題。各補助金は店舗ごとではなく事業者ごとの単位で支給されるため、10店舗を経営するLOFT PROJECTなどはかなり不利な状況にあるという。また、宮入氏が冒頭で語った「大きいライブ業界の声は通りやすいが中小規模のライブ業界の声は通りづらい」という状況は本当だといい、国会内組織のライブ・エンタテインメント議連 (石破茂氏が会長)でも中小のライブハウスの問題は勘案されていないという。

文化庁からの助成金に対してはWeNeedCulture(映画業界のSAVE the CINEMA、演劇業界の演劇緊急支援プロジェクト、音楽業界の:SaveOurSpaceの三者からなる共同プロジェクト)が中心となって改善を求めており、加藤氏も一連の運動にSaveOurSpaceの立場から参加している。「支給」ではなく「助成」であり、そもそも自己資金がなければ一旦巨額の建て替えを行って申請するということができないことやコバヤシ氏も指摘していた通りの差し戻しの多さ、イベント制作の実情から解離した無理な申請スケジュールなど非常に問題は多く、10/14にWeNeedCultureによる直接の陳情がなされた後どれほど訴えが反映されていくのか状況を注視している最中であるという。時間が経てば立つほど閉まっていくお店も増える一方で、現在進行形で「時間との戦い」という焦りがあるとのことだった。

最後に登壇したのは Nozomi Nobody氏。ソロ歌手として活動し、ライブ演奏や音源制作の他CMでの歌唱なども行う一方、4月の頭ほどからSaveOurSpaceに合流し活動に参加し続けている。

SaveOurSpaceでは「現場の状況を国、行政に伝えてすり合わせを行う」ことを行うために現状把握のアンケートなどを実施する一方、「実際にライブハウスが世の中の中で必要とされているということを示すための世論喚起」も継続して行ってきたという。
前述の30万筆以上を集めた3月末の署名やそれに付随した記者会見、WeNeedCultureと共同で行ったDOMMUNEでの生放送 (5/22に実施、11万人以上が試聴したという)などが世論喚起にあたり、世間から「なんでライブ業界だけお金をもらおうとしているんだ」という誤解を含んだ非難もある中で、国にだけ働きかけをするのではなく世の中全体に向き合って関心を集めていくという行為を続けてきた。

Nozomi氏は宮入氏からの「コロナ禍になる前にもこうした政治への働きかけに意識はあったのか」という質問に対し、個人としてはずっと政治と生活の切り離せなさを意識してきたが、今は音楽業界全体として声を上げたり、政治的な発言を腫れ物扱いするような感覚を変えていく必要があると感じていると語った。Nozomi氏はコロナ禍によってずっとお世話になっているライブハウスが閉店の危機に陥り、コンピレーションアルバムを作って寄付を行ったりもしたがそれだけでは足りないのは明らかだった。長期的なことを考えたら大きいところ、自助と共助では限界のある領域をカバーできる公助を引っ張ってこないと先はなく、「自分の手の届く範囲での活動と大きなものへの働きかけの二本柱が必要」だと話した。

これ以降はクロストーク的な会話が展開された。Nozomi氏の「配信ライブがお金にならない、ガイドラインが厳しすぎるなど音楽業界全体で共有している共通の問題がある中で、個人の行動ももちろん大事だがもっと業界がまとまって (団体を作るなどして)みんなでやっていく必要があるのではないかと考えている」という話を受け、阿部氏は「イベントの本数は戻ってきているが、結局お客さんが戻っていないのでイベント1本ごとの利益がすごく下がっているのが問題。このままでは助成金をもらったとしても枯れてしまう運命なので、ライブハウス全体としての印象やイメージを復活させないといけない。そのためには『ライブハウスが危険』と言い放ってそのままにしている政治家が貼ったレッテルを剥がしてくれないといけない」と語り、加藤氏も「ライブハウス業界の後にスケープゴートになったのはホストクラブ業界。全体がさも悪いかのような報道も悪だし、それに対して業界全体で対応していかないといけない。かつて大バッシングを受けた身としてもそういった報道の風潮は本当にやめてほしい」と話した。

奥野氏は自身の立場から「ミュージシャンは意外と業界の末端部分にいて、全体が見えている人が少ない。演奏する場所や人の関わりなどについて話す人は少なくとも自分の周りでは少なく、今回の状況についても『ライブハウスが少なくなって寂しいね』くらいで終わってしまっている印象がある」「主導的な団体が目につくところにあって引っ張るという状態がないこと、情報が中心から末端に拡散されるということがないために政治的な動きと自分たちの周りの結びつきを意識できないのではないか」と語った。宮入氏は「商売としてのライブハウスが飽和している東京などでは『少しくらい潰れてもしょうがないか』と意識が弱くなりがちだ」と指摘した。

Nozomi氏はWeNeedCultureの関連で映画、演劇業界の人々と関わる中でミュージシャンの声が静かなことや音楽業界が業界全体としてまとまって機能していないことを強く意識し、情けなさも感じたという。「演奏する側も演奏する場がなくなっているという状況に対してもっと意識的にならないといけない。業界で一致団結!という形でなくてもいいとは思うが、横の線でのノウハウの共有などはせめてやっていかないといけないのでは」「音楽業界はそれぞれがそれぞれでやってきた良さもあるが、そういうことだけ言っていてもしょうがない状況になってきている」
コバヤシ氏は裏方業の立場から「政治的な・文化的な発言や活動を行うことを裏方サイドの人が考えるのは、環境としてとても難しいという現実がある。各個人が低所得者であって、自分のことで精一杯であるという状況がある」とし、業界の横のつながりを通しての意見交換や共有に関しては「エンジニア同士は現状コミュニティや界隈のようなもの、横の繋がりがほとんどないため同業者どうしで話をするのがなかなか難しい。そのため業界団体みたいなものやこういう場を作るのも難しいと感じる。みんな忙しくなると他のことが手につかなくなってしまうのも事実で、本当なら配信技術の共有などもしたいがなかなかできていない」と語った。

阿部氏は「ライブハウス業界の中で業界団体を作るのは無理だろう、と言われていた時よりは協力の風潮が出てきていて、今は横の繋がりの希望がないわけではない。しかし毎日が精一杯の小さい営業を続ける人々をまとめたり、インターネットから縁遠い事業者も少なくない中で情報発信を行うのは難しい。それでも、誰かが小さな旗でもいいから上げないと動かない状況というのも当然ある」と話す。加藤氏は「難しい状況だが、今回のことを団体的なまとまりを作ったりする良いきっかけにしたほうがいい。Nozomiさんが言っていたように、演劇などの畑を見ると大道芸人の団体があったりして進んでいるなと感じた。そういう動きを音楽もやっていかないといけない段階だが、大阪や沖縄ではこれを機にライブハウス同士の横のつながりが生まれていると聞く。それはとてもいいことだと思う」と語った。
こうした話を受けて宮入氏は「一枚岩ではない音楽業界の状況が露呈しているが、だからといって無理に一枚岩を作ればいいわけではない。そういう中で会場、裏方、演者を含めたライブハウスのエコシステムを意識しながら、ユニオンの必要性や重要性をシリアスに意識しないといけない時代」だとした。

本シンポジウムは次回以降またテーマを絞り開催予定で、喫緊のテーマとしては話題にも多くのぼった助成金関連の問題や感染者数が再増してきた中でライブハウスの周辺はどのように困難な状況を乗り切っていけばよいのか、といったものが上げられる。多忙の中登壇してくださった皆様、ご覧いただいた皆様に感謝を申し上げるとともに、引き続きのご注目を賜ることができれば幸いである。

文責:宮坂遼太郎(東京芸術大学大学院)