オルタナティブな営業方法の模索
岡田英嗣(音楽喫茶 茶箱 店長)インタビュー

文責:日高良祐
取材日:2020年4月11日(土)

早稲田に立地する「音楽喫茶 茶箱 sabaco music&cafe」は、キャパ40名以下の小箱でありながらも高品質な音響システムで広く知られ、最先端のクラブミュージックからインプロ・ジャズのライブまでが日々繰り広げられてきた人気のクラブである。一方、店長の岡田英嗣は古くからインターネット的な文化にも造詣が深く、そういった嗜好は茶箱で開催されるイベントの傾向にも表れてきた。茶箱を日夜賑わす音楽はシリアスなジャンルだけでなく、ゲーム音楽、アニメソング、同人音楽まで非常に幅広いのだ。また、彼がTwitterをはじめとするSNS上で客を相手に盛んにコミュニケーションを図ってきたことも、こうした茶箱を取り巻くオーディエンスの層の厚さに深く関係してきた。

新型コロナウイルス感染拡大による影響は、ほかのハコと同様に茶箱にも降りかかってきた。3月末にはウェブサイト上で「運営支援のお願い」をアナウンス。また4月8日の非常事態宣言を受け、5月6日までの営業休止を発表した。以下では、この時期の茶箱における経営状況と、そうした状況に対して模索されてきた対応策について、店長の岡田英嗣から聞き取りを行なった内容を報告する。

 

休業による収入のストップ

茶箱は現在休業の状態です。どんなことに困っているのか具体的に聞かせてもらえますか。

岡田英嗣(以下、岡田):現状の状態だと、収入がほぼゼロなんですね。茶箱以外に別の商売やってるのかってのもなくて。副業というほどではないんだけど、ときどき音響の手伝いとか頼まれてやってるんだけど、結局ほかのクラブさんも休業状態だからそういう依頼も無いし。たとえ依頼があったとしても、交通手段で移動したりとかしてその時に感染したら怖いっていうのもあったりするから、あんまり動きたくないなっていう状況がある。とりあえずそういった、おこづかいっていうかちゃんと仕事は仕事なんだけど、そういったことが寸断されちゃってる状態。だから、今この時点では収入がもうほぼ無い状態ですね。この状態においての生活の費用の捻出っていうのは基本的には貯金だよね。崩してるって状況。要するにもう収入源が絶たれちゃってるんで、貯金を切り崩してるような現況ではあるんですね。

茶箱では「運営支援のお願い」ということで、特典付きドリンクパスをネットを通じて事前に購入してもらう形での支援募集を行なっていますね。リアクションとしてはいかがでしょうか。

岡田:3月の下旬、28日とか29日くらいからドリンクパスの販売をして、当面の運営資金を集めたいんでお願いしますって告知しました。そしたら、今日の時点で100件まではいってないんだけど、普段から使って遊びに来てくれる常連さんとか、あとうちのお店の特徴としてはイベント参加で遠方から来店してくれた方、地方にお住まいの方とかもわざわざ買ってくれて。次は何年後に行けるかわかんないんですけど、みたいな感じで買ってくれてるところもあって。それはすごく助かってますね。

お店の収入にはなってるけど、お客さんから前払いでお金を預かってるだけの状態なので。前借りしてるような状態だったりするんですよね。そのドリンクパスを使ってもらうためにはお酒の仕入れがあるから。なんだろな、おおまかに言っちゃえばドリンクパスの売上の3割から7割くらいが仕入れに取られちゃう。何十万ってのが手元にありますっていっても、そのお金は動かさないことには使えないんで。

そのまま使えるってわけじゃないですもんね。でも、ドリンクパスを先に売るっていう方法は、支援を集めるやり方として本当に興味深いです。

岡田:そうなんだよね。他店さんでもあの方法ありだよねってけっこう噂になったらしいんだよね。お客さんたちの間でも茶箱さんみたいなことやったらどうですかみたいなことを言ってたみたいで。うちみたいな飲食店にDJブースが付いてるようなお店さんとかも、完全にお客さんが来なくなってる状況だから。前払いでのドリンクチケットを買ってもらって再開したら使ってもらうみたいな感じで、売上の必要経費の担保をしてもらうみたいなキャンペーンをやってみたらどうですかって言って、実際に動いてるところもけっこうあって。ネットショップのサイトさんとかを使って。もしくはクラウドファンディングとかでね。ドリンクパスのセットみたいな、ドリンクチケットやグッズを売るキャンペーンとかはやってるみたいですね。

ほかのライブハウスやクラブでも、クラウドファンディングを始めてるところがけっこう出てますよね。ただし、集められるハコ、集められないハコという差が出始めていると聞きます。茶箱の場合、まず現場のコミュニティがしっかりある上に、ネットを通じても広がっているというダブルのレイヤーがある。

岡田:やっぱ出てるのかな。集められているというのは大変嬉しいことだけど、うちは宣伝の仕方が日頃からSNSを多用してるからちょっと特殊なのかもしれない。なんか変なお店があるよ的な感じに見えたのかもしれないけど(笑)。ただ、やっぱりユーザーさんとお店の接点がすごく近いってのはメリットがあるのかな。

 

休業に至るまでの状況の移り変わり

最初にうかがったような、茶箱経営としての収入がなくなるという変化は、時期的にはどのあたりから始まったのでしょうか。

岡田:だいたい2月の上旬、2月の頭くらいから、なんか流行りだしたねって。気をつけなくちゃいけないね、手洗いうがい、消毒しましょうみたいな話があったから。もう2月の2週目か3週目くらいからかな、レギュラーでやってるイベントの主催さんや遊びに来るお客さんらで、どうなのかねって話になっちゃって。幸いなことに早い段階で消毒液も手に入ったし、マスクも手に入ったんで買っといて。お店に来たら消毒スプレーを手に付けてもらって入場してもらう。もし怖かったらマスクしてねみたいな感じで対策はしてたんですよね。

そこからもうね、中旬から下旬にかけて急にお客さんから問い合わせが増えてきて。3月のイベントが、できるんですかって話になって。主催さんに向けて、ちょっと雲行き怪しいからもし延期したければ延期してもいいよみたいな感じで打診したり、相談もしました。ちなみに3月とか実はけっこうお店にとっても稼ぎ時だったりするし、連休もあったじゃないですか。それでけっこう土日の予約が埋まってたんです。具体的には土日のイベントが7件入ってたんですね、祝日も含めて。そのうちの5件がキャンセルになって、2件が主催さんと相談の上、ギリやれましたね。

うちはけっこうお客さんがわりと警戒してたっぽくて。みんな報道とかネットの情報を見て、これ日本に来ちゃうよねみたいな感じの雰囲気もあったから。ぼくの方からもどうしようかなってのは、Twitterでなんとなく、どうしようかなってつぶやいたら、岡田さん実際どうなんですかっていう問い合わせはやっぱり来て。もし怖かったらもう延期しちゃっていいですよって感じの対応はしてましたね。実際に3月の営業についてはマスクしてやろうとか、人数とかも制限した方がいいかなって風潮になってきちゃった。総じて3月の週末の貸し切りイベントは季節柄けっこう遠方から来る、移動距離が大きい人もいたんで、ちょっと開催は難しいかなって話になって休止、または延期の方向になりました。もともと平日に集まりやすいお客さんがやってくれてるイベントとかは、かろうじてやれったって感じ。

■3月下旬くらいから東京都が週末の外出自粛要請を始めました。それよりも前の段階でそういった変化は始まっているんですね。

岡田:たぶん、北海道が先にロックダウンしたじゃないですか。あれを見て、北海道の知り合いのクラブさんとかが休業しちゃってたのを見て、あーこれもう絶対来るわってなったんですよね。さっぽろ雪まつりとかで感染者がばーって増えたりとか。東京の方が人の行き来が多かったから、もっと東京の方が派手になるのかなとか思ったんだけど。その前例があったからみんなもう警戒し始めたのかな。その調子で3月はとりあえずうがい手洗いマスクをした状態でやりましょうみたいな感じでやってた。それを実践してなかったら感染者出たかもしれないし、実際ほかのライブハウスでは出てしまった。結果論になっちゃうけど、うちは本当に運良くそういうのを免れられたのかなみたいな感じ。

その上でドリンクパスの話とかも考えつつ、幸いなことに3月の土日が休みになっちゃったから、さぁどうしようって考える時間ができたっていうのがあってすごいよかったけど(笑)。このままズルズルやってて、いざ病気になっちゃったとか、ぼく自身が体調崩しちゃったとかなったらどうしようもなかったから。早めに判断できて良かったかな。

営業以外で予測が立てにくいことを考えるのは初めてのことで。普段はお客さんが何人来てどのくらい売上があって、またお客さんがどんなイベントやりたいのかっていうことに答える準備をする作業をしていただけの人間が、これからもしかしたらお店が使えなくなる状況で何をすべきかみたいなことを考えなきゃいけなくなっちゃったってのが。ちょっとね。それを考える時間っていうのは本当に必要だったしね。

 

ライブハウスやクラブへのバッシングとイベントキャンセル

最近の報道では、ライブハウスやナイトクラブへのバッシングが取り上げられていました。そういった状況についてはどう考えていますか。

岡田:これがね、一度ありましたね。3月の後半になって、そろそろ感染も拡大してるし実際にライブハウスでの感染もあったので、イベント止めた方がいいよねっていってキャンセルになった日。別のお客さんからイベントやらしてほしいんですよって言われて、キャンセルで空いてしまったので、ああいいですよって感じで。後日、茶箱でイベント借りることになりましたってことをお客さんがSNSで告知したら、とある茶箱にも遊びに来たことあるという方からメールが来て。この状況下でイベントやるんですか、信じられませんみたいな。ちょっと怒ってるようなメールが届きまして。こういう状況下だし、これから大変な状況になるのに、イベントなんかやるんですかみたいなのが来て。これは困ったな、と。たしかに、そのメールくれた人の言ってることも正しいの。お客さんの楽しみとぼくの利益を取るか、世の中を取るかって言ったら、まぁ、すごい悩んだんだけど、そういう意見もあったから今回はやっぱちょっと止めとこうかって話をして中止にしました。

決してバッシングじゃなかったんだよね。まだ茶箱ではコロナになった人がいないからさ。やれることなら規模縮小してやれたらいいよねっていうところに、じゃあそれでやろうとしてたところにやめとけとお叱りが来た。これは3月下旬のことです。2月の末くらいから、イベントできないですよねってキャンセルの相談を受けてイベントが減っていく一方で、こちらも焦りがあったのでイベントの申し出があれば受けたかったけれど、忠告があったので止めてしまった。できればその選択が良かったと思いたい。

イベントのキャンセルについては、外圧のような形でやめろと言われて止めたというよりは、イベントをやる側が自分から止めた方がいいよねって自粛していくということでしょうか。

岡田:うちのお客さんに関しては、できますか、どうですかっていう問い合わせが多かったよね。だから、うちとしてはやれるんだったらやっていきたいけど。でも、お客さんが公共交通機関を使用して移動してくることで感染するリスクがあるから。だから、今回は延期しちゃった方がいいよねっていう話をして、やっぱそうですよねってなって、延期したケースが多いかな。

 

オルタナティブな営業方法の模索

茶箱はイベント営業だけではなくて、ハコ貸しでのレコーディング営業などもありますよね。そういうお願いをされることも、3月の時点でキャンセルが出たりしたんでしょうか。

岡田:イベントで3月が埋まってたんで、そういうレコーディングの依頼は無かったんですね。でもスケジュールがキャンセルになって空き日程になるたびに、空いてる日にレコーディングさせてくださいみたいな問い合わせはありましたね。でも3月中はドタバタしちゃってたんで、ちょっと様子がわからないし、実際にこっちに来ていただくのも危ないしリスクがあるからって感じで断っちゃってはいたんですけど。4月からは依頼があれば受けようかなみたいな。

つい先日も、普段やってるレギュラーパーティーのDJさんが、たぶんこんな状況だと気が滅入っちゃうから音楽で楽しんでもらいたくてって申し出てくれて、配信でイベントやったんですよ。ほぼほぼスタジオみたいな感じで。会場でDJやってるのをインターネットでTwitch使って配信したんですけど好評でした。

営業の形が変わってもいわゆる3つの密を避ければなんとか商売が成立するかもしれないし。行政側としても可能な限り通常の生活をしてほしいっていうのは、やっぱり向こうの要望だったりもするわけだから。自己防衛みたいな言葉は使ってないけど、なんとか歯を食いしばって頑張っててね、みたいなニュアンスもあったから(笑)。じゃあなにかしらの形でやるっていったら、しっかりと換気をして、手洗いうがいをしてもらって、声を出さない。声を出すとしてもマスクをちゃんとするっていう。それでやってもらうっていう形でやってった方がいいのかなっていう感じがあるよね。

ここまでうかがったように、ドリンクパス販売での支援、店舗の休業、ネット配信の試みなど、さまざまな対策を考えられています。また、先日(4月4日)に秋葉原MOGRAが旗振りをして開催されたライブストリーミングフェス「Music Unity 2020 #MU2020には茶箱も会場として参加していました。あれは本当に2010年を思い出すようなエモさがありましたが(笑)。投げ銭システムでお金を集める試みもやっていましたね。

岡田:ありましたね(笑)。あれはね、MOGRAさんはよくやってくれたよね、みたいな感じがある。MOGRAさんはお店同士のコミュニティが強かった。店長の山田くんの一言で日本中に散らばってるクラブさんが、うちも含めてリレーでやれるっていうのは、すごいアイデアだった。ある種のムーヴメントになりそうだし、イベントを通じて困ってるお店さんを助けたいから、通販でこれ一緒に買ってねみたいな、マーチャンダイズっていうのかな。イベントのグッズを売るような感じで。おもしろかったなと思いますね。

最初お互いの仲いいクラブさん同士で、山田くんとかも含めて、月あかり夢てらすのMURAさんとかも含めてどうしよどうしよって言って。clubasiaの鈴木さんとかもどうしよどうしよって。なんかやるかってのは本当に唐突に、配信の1週間前くらいに話がぽっと出て。3日前くらいに概要が決まって(笑)。まだ(投げ銭に関する)そのへんの情報来てないけど。けっこうな金額が集まったと聞いています。

今後、ネット配信と投げ銭の組み合わせでの営業は、茶箱としても考えているのでしょうか。

岡田:それはね、考えててね。そういうプラットフォームが、一個人としてだとPayPalで投げ銭できるのがあったりするんだけど。そういうプラットフォームに関しては茶箱だけじゃなくて全体的にフォーマット決めてやった方がいいのかなってのがあって。山田くんとかMOGRAさんがやってるイベントはたしかPayPalだったので、あれでいいのかなって感じはありますね。うちもいずれは導入しようかなって。あくまでもうちは個人商店だから、PayPalの個人アカウントからドネーションしてもらうような形でやってもいいのかなってのはちょっと考えてますね。

あとは、これまだ確認段階なんですが、ライブハウスさんとかでよく使われているPeatixとかのチケット販売サービスあるじゃないですか。あとなんだっけ、自分でアカウント作ってチケット売るところのサービスがあったはずなんですけど。あれを生かして、チケット買ってくれる人は買ってねみたいな感じでやっちゃってもいいかなって。

そういうアイディアは、ほかのハコとかとも話しながら出しているんでしょうか。

岡田:いや、これはぼくの方で考えてるやつなんですけど。前売り券みたいなのを売れるかなぁと。YouTubeもTwitchも限定公開のような形で固定のユーザーさんだけに配信するサービスがあって。チケット買ってくれた人には固定の配信チャンネルを見てもらうってのもできるのかなって。そういうアイディアはありますよね。

ただ、山田くんがすごくおもしろいことやったなっていうのは、投げ銭にしても、やったことに対するフィードバックがちゃんと画面に出た。シャンパンが出たりとか(笑)。あれ、面白がってみんなどんどん「課金」してたけど大丈夫かなって(笑)。

あれ気持ちいいんですよね、なんか。やっちゃうんですよ()

岡田:ソシャゲ(ソーシャルゲーム)みたいな(笑)。すごいなーと思ったよね。ありがたい話だけど。ああいう形の仕組みがちゃんと動いた上で、ああいう風になったんだなって。なんかおもしろいことやってるぞって言って最終的には12000人見てくれたわけじゃん。10000人いっちゃうんだみたいな。後半で8000人、茶箱と最初MOGRAさんでやった時に1000いくか何百人で、うちで3000人越えてきて徐々に増えてって、夕方からは8000人とかいって。いよいよ10000人いくんだって、そして12000っていうね。でもその後も止まらない課金の流れが(笑)。

そういうオルタナティブな営業の方法について、茶箱として今後いろいろ考えていきたいところではあるのでしょうか。

岡田:そうだね、これはまとめていつかnoteとかに書いた方がいいのかなと思ったりもする。うちの話になっちゃうんだけど、うちのお客さんって基本クラブ行かない人が多い(笑)。だけど大きな音で聞く音楽が好き。クラブとか行かないオタクが多い傾向がありますし(笑)。できれば出向かないで家で見たいみたいな人も多い気がします。だから、以前からustreamで配信をごくごく普通のことのようにやったり。だから配信を使った営業のやり方にはもともと違和感はなかった。うちはあくまでも放送局みたいな感じになってて。放送局で酒が飲めるぞみたいな(笑)。

(親和性が)高かったのかね。やっぱりクラブやライブハウスはハコありき、ハコの空間ありきで商売やってるのがわりと正攻法ですよね。そのハコに人が来れなくなっちゃった状況下で、じゃあハコに何ができるかっていったら、やっぱりネットを使ったりとか違うアプローチなのかなって。それがリアルタイムじゃなくてもいいと思ってて。たとえばバンドのライブとかをライブハウスで録音して、それをYouTubeで後日配信して。その配信のチャンネルを登録しておいて、ユーザーさんだけ見てもらうとかっていうのもありなのかなとは思うんですよね。

あくまでもホームページを作ってライブのイベント告知やってただけのライブハウスさんとかだと、急遽配信をしなくちゃいけないってなった時に、配信のインフラの整備が整ってないからどうしようって。そこでまず体力使っちゃったりとかいうケースもあるだろうね。

 

行政による支援策と経営判断

■4月に入ったところで緊急事態宣言が出ました。今後の見通しのようなものは、何か変わったりしたのでしょうか。

岡田:5月の連休までかな。それは政府の緊急事態宣言が出て、うちもそれに倣うことにしたんだけどね。

緊急事態の宣言も延びてしまうのではないかと思ってしまいます。

岡田:そうだよね。でも緊急事態宣言の延長で感染者がこれ以上増えないのであれば致し方ないし。使えそうな薬も出始めてるみたいだから、感染拡大の防止に時間をかけていい方に流れてくれるといいなと思うんだけど。早期に治療方法が見つからないとウイルスは世界中に蔓延し続けちゃう。根絶が難しいのであれば季節性のインフルエンザとか風邪みたいに付き合っていって、この熱の出方とか症状だったらこのウイルスの薬が出るっていう対策の仕方になっていくのではないのかな。

どうなるかは本当に一日一日で変化していくようなものだと思うので。それがどのくらいの期間かかるのか。たとえば5月6月7月、もしくはもっと1年2年っていう感じになっちゃうのか。2年とかなったら当然うちは潰れてしまう。たとえば緊急事態宣言は5月6日までって提言を政府はしたけど、向こう何ヶ月も伸びるんじゃないかってのはあるし。延ばさないようにするとしたら、ではどういう振る舞いを国民がすればいいのかって都度提案をしなくちゃいけないし。できれば早期に5月以降のことについても行政の方からアナウンスしてってほしいかなっていうのはあるね。

現状では休業は5月までとアナウンスしていますが、再開の目処についてはどう考えていますか。

岡田:5月に解除しますって言ったら、そのまますぐ普通に営業できるかっていったら、そんなわけないんで。たぶん自粛モードのままだと思います。今ちょうど考えてるんだけど、さっきのオンラインでチケットを売る方法とか。ドリンクパスだって買ってくれる人には限りがあるから。買って頂いてもお店が通常営業に戻れるまで使えないし、そんなたくさん買ってもみたいなのあるしさ。今僕のTwitterのアカウントにはフォロワーが3600くらいいますけど、その人たちが1人1万円買ってくれたら、お店を維持するどころか拡大するくらいの収入が入ってきたりするんだけど(笑)。

先の緊急事態宣言もいつ出るのいつ出るのって騒いだじゃん。なんか月末に出てもおかしくないみたいなことがあったのに結局は4月6日でしょ。けっこうそういったことにすでに何度も振り回されてきた。それだとしたら、1週間早巻きで、遅くても今月中くらいには次の予定、こういうシナリオで考えてるよっていうので、予防のためにこういう風に動いてくださいって感じで、政府と行政はこういうシナリオでいきますってのを、もっと具体的に出してもらえないと。耐えられる時間っていうのは本当に限られてるから。早くしてほしいなって感じ(笑)。けれども、対策に不足なことがあっては無理なんですよ。国民全員が予防対策をします、製薬メーカーさんと医療がタイアップして薬を急ピッチで開発しなくちゃならないし、ウイルスで止められない事業をしている人とか生活してる人の仕事の支えをしなくちゃいけないし。同時進行なんですよね。

政府や自治体によるアナウンスでは、自粛要請はすれども補償は提示しないという状態ですよね。いくつかの補償プランも検討されているようですが、そうした政府や自治体が出してきている対策についてどう考えていますか。具体的な要望などはあるのでしょうか。

岡田:最初に、給付金、国民あたりいくらみたいなのあったよね。あと企業の方では、給付金は配らないけど融資をするよってアナウンスがあった。MOGRAの山田くんは企業支援融資でお金を借りてきてるんだよね。でもそれも結局は借金だから。いきなり初っぱなから赤字ですよっていう。とにかく、収入が途絶えてる事業が実際にあって借金までしている現状をよくみてほしい。そして支援策を早急に講じて欲しいです。お金を水に例えると、事業が止まっているという「穴」が空いたバケツでお金を運んでるようなものなので、まずは穴を塞ぐ制度がほしい。そして当面の生活や事業の維持ができる支援金を用意してほしいです。

僕は個人商店としての経済活動によって利益を得て生活が成り立ってるので。まず、とりあえずお金が入ってこない、売上がたたないっていう状況がやっぱあってさ。自分で組み立てた、お金を得るための水道の蛇口はあるんだけど、水が出てこないみたいな状況(笑)。今、本当に喫緊で苦しんでる人に早く出してほしいかな。ヨーロッパは感染の拡大が日本と段違い過ぎて、たぶんそういう細かいこと言ってられないから早急に動いたのかも。日本とかほかの国もそうだと思うんだけど、いろんな生活様式の人がいるから、いざ働いてる人だけをってことじゃないんだよね。働けてない人、年金暮らしの人とかってのもいるからさ。いろんなケースを考えた上で、それで適宜ちゃんと動かしてほしいかなってのはあるかな。

企業支援のために提案されている借入制度などは、茶箱として利用を検討したりもしているのでしょうか。

岡田:それは考えてますよ。ただ、いちおう借金は借金なんだよね。たとえば金利の措置期間っていうのもあるけど、MOGRAの山田くんだって大金は借りてるけどさ、普通に使っちゃっていいお金ではないからさ。あわよくば使いたくないみたいな。動かさないといけないお金はあるから、それを使って動かしてるけど、現状では利益は生みだせないから何百万かの赤字。でも結局その赤字になった分は、通常営業にもどった上に利益を出さないと戻らない。

ぼくも何百万も借りられたらいいなと思ってるし、借りたいなとは思ってるんだけど、果たしてそれを返せるかなって話があるからさ。お店を動かす、自分が生活するための収益を得たいんだけど、それが今は止まっちゃってる状態だからね。

こないだもね、大家さんと会って話してきて。大家さんもうちに貸して商売をしてるから。それがたとえばお金払えなくて止まっちゃったら、大家さんの収入が無いわけじゃん。家賃はこちらが事前に納めてる保証金とかもあるから当面は大丈夫なんだけど、休んでるテナントさんに対して補償する制度も必要ではないのかなって話もあるけどね。

ぼくの知り合いとかフォロワーさんが運営しているお店は、もう閉めますって人は幸いまだ聞かないけど、実際のところもうダメだって話はけっこう聞こえ始めた。お店が、商売道具が使えなくなっちゃったからもう終わらすってのはまっとうな考え方で。毎日の生活の糧としてそれでまわしてたのが使えなくなっちゃった、壊れちゃったわけだから、もう止めざるを得ない。自前の家で、自社ビルとかで商売やってたら別だと思うけど。家賃とかで借りてやってる人たちってのは、動かないとどんどんお金が流れていっちゃう。流れるというか消えてっちゃうので。

 

茶箱の周辺における新型コロナウイルスの影響

茶箱や岡田さんの周辺で、ハコの経営者だけではなく周辺にあるような音楽関連の業種の方から、新型コロナウイルス感染拡大の影響について聞くことはありますか。たとえばイベンターやミュージシャンなどはどうでしょうか。

岡田:茶箱の周りではイベントを回すことで利益を得て生活しているっていう人があまりいないのでわからないけど、イベントがやれなくて破綻して大変とかそういう人はいないのかな。ただ、アイドル系だったりバンド系だったりするとそういうプロダクションをやってる人は商売の道具の一つがなくなってしまってるのは事実だろうね。

ミュージシャンに関しては本当に大変だと思う。かつて茶箱でも出演してくれたインプロ・即興演奏系のミュージシャンさんは、ライブイベントとか減っちゃってやれる場所がないっていって、音源売ったりとかアルバイトしなくちゃいけないって話も聞きます。(インプロとかジャズは)楽器一つ携えてやってる人ってのが多いから。そういう演奏する場所もなかったら収入も絶たれちゃうよね。あとは、配信ができるライブハウスさんとか出始めてるから。そういった場所を見つけて活動していってほしいし、僕も可能な限りの提案をしたい。

ちなみに茶箱でのアルバイトさんはどういった状況なのでしょうか。

岡田:お陰様で最近は週末忙しいから入ってもらってたけど。このような状況でみんなお休みしてもらってます。でも基本的にみんな本業持ってて、週末が仕事休みだから手伝ってもらってる。幸いにも生活がーってわけじゃなさそう。

■PAや照明は岡田さんが普段から担当されているんですよね。

岡田:そうそう、基本なんでも自分でできるから、自分が歯を食いしばってれば大丈夫だよみたいな雰囲気はある。茶箱だとちょっとあんま参考例にならないかもしれないけど、PAもバーカウンターもみんなそれでやってたところがお店休んじゃってるけど、従業員に休みの間の給料を払いたいと思ってるお店は多いはず。それは政府行政が補償して当たり前。たしか厚労省かなんかの資料では従業員の収入の九割は補償するみたいな。20万円月にもらってる人は18万円までは補償するよみたいな。失業保険的な感じ。だけど、それが決定しても支給されるまでに時間かかっちゃうから、当面の給与を準備しないといけなくて大変そう。

こないだちょっと話題になったけど、タクシー会社さんがさ、全員解雇して失業保険ってすぐ手当でるから。あれはほんとに、雇用に関する制度をうまく使った良かったよねって。あれ一瞬でバズったから、フィードバックで、なんで雇用者を首にしちゃうんだよひどい会社だって言われてたけど、一番優しい方法だと思うんだよね。給料いずれ払うからって働かされてる人が、結局払われなくて潰れちゃった会社も実際にあると聞くしさ。社会が元に戻ったらまた会社戻して、雇用するからなって約束はしてるわけだからさ。すごい親切だよなって。

最後になりますが、現在の茶箱の状況を聞いていると、岡田さんの個人的なネットワークや経験を駆使することで、さまざまなオルタナティブな方法を模索できているんだなと思いました。

岡田:そう仰って頂けると勇気貰えて嬉しいかな。例えると、すごい狭い土地なんだけどいろんな種類の畑があってそこでなんとか作物作ってみたらなんとかなったよ、みたいな感じなのかもしれないね。お米だけ作ってるお米農家さんだったら、畑に水がこなかったらどうしようもないし。だけど、天気も雨だけでなんとか作物育つような畑だったら、とりあえず茄子が取れましたとか、そういうことができるんで(笑)。そういう風にDJバーだったり、ライブやったり、音楽以外にもゲーム系のラウンジイベントしたり手広くやってたのが、今は功を奏したのかなって感じもあるよね。結果論かもしれないけど、今までやってきたのが無駄ではなかったのは、本当に運が良かったのかな。ほんと、運だよね。

 

「音楽喫茶 茶箱」ウェブサイト
https://sabaco.jp/

エージ(岡田英嗣)Twitter
https://twitter.com/okaga73